お狐様との会話 一個め
それから大体半月後、
バー「華陽」のいつもの光景。
―カラン、
「ふふ、いらっしゃぁい」
「いつものでしょ?」
す、と出てくるグラス。
当然のように「男」は飲み干す。
「ママは、今日も綺麗だねえ」
「アタシはいつも綺麗よお?」
「アナタのためにね」
見つめ合う二人。
―その時、カラン、と鳴る表の扉。
和服姿で白髪の上品な婦人がゆっくりと入ってくる。
「お邪魔する」
それは「葛の葉狐」、稲荷神の使いの一人。
「…本当に邪魔ね」
見返すママの眼尻に、あまり見られない怒りの表情。
「…なによぉ」
「これからいい時なのに」
「フン、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ!」
「えらい勢いじゃの」
「我も狐じゃが、忘れておったのを思い出したわ」
これまたあまり見られない「葛の葉狐」の妖艶な笑み。
「盛った女狐の匂いをな」
何か言いかけるママに、被せて言う。
「ほんに、男の機嫌を取るには、閨の技が覿面ぞな」
「ま、俗に言えば、浮気しても…」
「…エッチすればみんな丸く収まる、とかかの?」
問いかけるような口調。
何かを察したように言うママ。
「…ふん、単に邪魔しに来たわけじゃ、なさそうね」
「なに、企んでんの?」
「…まあ、お愉しみは後に置いてくれぬか」
「その前に話したいことが、ある」
言葉の後、またもカラン、と扉が開く。
入って来た二つの影に、慇懃に礼をする葛の葉狐。
それは神式の神官のような「水干」の装束、連れられているのは十歳に満たない幼子か。
その子は「千早」とでも言うのか、巫女のような姿をしている。
ゆっくりと言う神官姿。
「お初に御目にかかる九尾狐どの」
ばっ、と身構えるママ。
「…ま、まさかッ、アンタ!」
「さすが、分かるかの」
「その通り、現『稲荷神』の命婦、本人である」
傍の幼子を見て、言う。
「こちらは我が娘、いわば次期『稲荷神』じゃ」
「男」も驚いて立ち上がる。
「ふふ、卿には直に会うのは初じゃったの、よろしくの」
長い唖然とした沈黙の後、口を開いたのはやはりママ。
その頭上に狐耳が現れる。
「ほ、ほう、稲荷神様が自らおでましとはの!」
二人の前に進み出る。
「おぬし、正気か?」
傍らの幼子に目を遣る。
「コイツを殺せば、稲荷神の命脈は絶えるわけじゃ。」
「それを、むざむざ、晒すとは、馬鹿か?」
ゴオッー、九尾の背後に妖気が激しく燃え上がる。
幼子に指をさす。「…怖いか」
びくっ、とする幼子、しかし傍らの母親の手をぎゅっと強く握りしめはするが…
その視線は反らさない。
「こ、このガキー!」




