(本当の)バーのママと女子高生の会話 一個め
「うん、解説いろいろとありがとさん、良く分ったわ」
ママがそういう時は…
まったく「良く分る」気など、さらさらなく…
もうその意識は、既に次の興味に移っているのを「男」は良く知っていた。
そしてなにより、今回の「裏切り」の件について、
謝罪、言い訳、いや、言及すらしていない事に、「男」は首をすくめる他になかった。
「気になる?」
ママの流し目にびくりとする「男」。
「今回は十分甘えさせてもらったわ、アリガト、それは忘れてないからね」
まったく、思わせぶりな台詞はさすが古狐だと思わせる。
「…本当に悪い女に引っかかりましたよ」
ぼやく「男」。あっさりと受け流すママ。
「まだまだ、困らせるわよ、うふふ期待しといて」
す、と立ち上がり、傍らに声をかける。
「さあ行こうか、子供ちゃん」
頷いて立ち上がる。
「やっぱり行くんですか、彼女のところへ?」
「まあ、彼女とは大事な話があるのよ、今後の事もモロモロ含めてね」
「面倒は起こさないでくださいよ」
「だーいじょうぶだってぇ、多分」
まったくダイジョーブじゃない典型的な言い方だ。
「何かあったら、全部アンタに丸投げするんで、ヨロシク!」
後片付けと支払いに気が重い「男」を残してさっさと去って行く。
…
場面は変わり、その日の午後三時ごろ、「白犬山」の前の施設。
老人ホームの玄関の扉を開ける姿。
「ごめんなさーい」
介護施設にあまり相応しくない、化粧の濃い色っぽい姿。
「はい、どちら様でしょうか」
初老の小柄な職員が応対する。
「すみませんが、お名前とご用件をその面会簿にご記入ください」
「あ、そういうのじゃないの、シロン、だったっけ、ここの偉いさんの娘さんに会いたいの」
「お名前とご用件は必ずお伺いする事になっています」
職員の茶髪に白の混じるショートヘアが横に揺れる。
「…さもなければ、お帰りいただきます」
「ふうん、これでも?」
女性の頭に狐耳が生え、背中に九本の尾っぽが渦巻く。
放たれる妖気にたじろぐ職員。
しかししゃんと背筋を伸ばし、意思の強さを表す視線を返す。
「…それでも、です!」
「わらわに盾突くとでも?」
「そんな事は関係ありません、あなたの、お名前とご用件をその面会簿にご記入ください!」
「すまん、柴さん、いいんだ」
奥から慌てた態で、白い筋肉理事長が出てきて、二人の間に立ちふさがる。
「この方は、私が全責任を負って対応する」
「…理事長がそこまで仰るのなら、私は何も言いません」
「すまん」
「さ、応接室へどうぞ」
客を先導する理事長。
「…本当に来られるとは思いませんでしたぞ」
「ふふ、しかしさっきのあやつ、骨があるのう」
「目的の為に、命を張る奴は嫌いではないぞ」
「大好きでは、ないがの」
案内された応接室の奥の上座にどっかりと座り脚を組む、狐耳のママ。
そして案外すぐ、二、三分で姿を現すシロン。
トレードマークの、一筋の白いメッシュが入っている肩までのワンレンの黒髪は少し癖がついたように乱れ、おまけに額の左には冗談のような大きな絆創膏が、べったりと張り付いている。
見慣れた制服ではなく、デニムの短パンに親子揃いの「白犬」と描かれたTシャツを着た姿が、ママの対面に座る。
何しに来たんだコイツ、という内心が丸分かりの上目遣いの視線を放ちながら―
「来たか」
「今日はお前に話があって来た」
手を組み、肘をテーブルに乗せて身を乗り出す。
「返答次第では、容赦せぬぞ」
「心して答えよ!」




