身内での解説の会話
この地方の有名な観光地である河川。
そこへの道と、主要道路を繋ぐところにある、通称『三丁目のサンドイッチ』店。
地元の素材をたっぷり使ったサンドイッチやバーガーなどで有名なその店。
平日の昼過ぎではあるが、なかなかに賑わっている。その中に、山盛りのトレイを運ぶ姿。
いつもの皮肉なにやけ顔でなく、嬉しそうな満面の笑顔の「男」。
「お待たせしました」
「ママはポークドッグにサラダとブラックコーヒー」
「我が子には海老カツサンドセット、飲み物はコーラのLサイズでしたね」
そして自身は、「地元ビーフたっぷりバーガー『大』」の包み紙を解き、まさにかぶりつこうとしている。
「ちょっと待ってよ」
ママの声に、「男」の手が止まる。
「ああ、すみません。みんなで、『いただきます』ですよね」
「…ま、まあ、それもあるけどぉ」
なんだかバツが悪そうに、空咳をするママ。
「へえ、遠慮するママなんて珍しいですね」
「そんなんじゃなくってぇ」
「まさか今回の件、この昼食でチャラなんて、無いでしょうね?」
さすがのママの欲深さに苦笑する「男」。
「ご心配なく、ちゃんといつものホテルのスイート最上級コースを用意してますよ」
「ああ、あれ…、良いんだけど、なんかその後、色々あるような気がして…」
さらにバツが悪そうに、空咳をするママ。
「さあ、食べましょう、ひたすら食べる『もぐもぐタイム』は一番の心の潤いですよ!」
「アンタがいうと、うさんくさいだけなんだけど」
…しばらくの『もぐもぐタイム』、お待ちください。
いかにも子供らしく『子供』が口いっぱいに頬張って言う。
「いきなり駐車場横のトラッククレーンに待機しろ、って言われてー、んで『話が熱中してきたらクレーンを伸ばせ、アラートが鳴ったら即座にワイヤーを下ろせ!』しか言わないんだもん、焦ったよ」
「でも流石に親子だと思いましたよ。タイミングバッチリで助かりました!」
ハイタッチする二人。
「でも、最後はなんでああなったわけ?」
言うわりに遠慮の欠片もなく昼食を平らげたママ。
「タレコミであの『denn』の背後が分かり、ヤツを陥れる事ができました」
「でも、考えてみてください」
「私がヤツを捕まえて、たれこんだヤツが『やーい、バカー』の鬱憤晴らしだけで済む、はずも無いでしょ?」
「『denn』は叩きたい、でもそれ以上に、自分の組織は守りたい、そう考えるはずでしょ?」
「実はあの冷蔵冷凍車の中身は予め見させてもらったのですよ、こんなふうにね…」
「男」は目の前にトレイを持ち上げると、そこに首を突っ込んでみせる。
トレイを突き抜けて、「男」の顔だけがにまーっ、と笑ってみせる。
「言っただろ、『ソレ』はグロいからやめろって」
「…分かりやすく見せてみただけですが?」
「やめろ」
「…はい、すみません」しょぼんとする「男」。
「しかしあの車の中身は酷いモノでしたよ」
「いくつかの機械に繋がれた、青い円筒形の中に浮かぶ脳…」
「ああ、そういうのはパス、コーヒーが不味くなるわ」
「で、その時、機械が作動するのを見たんですよ。タイミングからみて、ママからヤツが逃げる時だったようですね」
「詳しい事は分かりませんが、奴からの何らかの信号を受けて、その時に何秒かの間、『脳』が『異能』を発揮する、そのように見受けられました」
「男」はふと、右手の人差し指を立てる。
「その時、思ったんですよ」
「その『信号』さえ分かっていれば、誰でも『窓の能力』を使えるって、こと?」ママの問いかけ。
「ご名答!」
「考えれば、今になってもあの『denn』が自分の意思で『異能』を使っているような気がしています」
「ひょっとしたら、あの『denn』ですらそう思っていたのかもしれませんね、操り人形でありながら、ね…」
「…まあ、話を戻しましょう」
「あの車を突き留めて、『denn』を追い詰める事は出来ました」
「しかし垂れ込んだヤツは、その時どうするか?」
「『誰でも窓の能力を使える』のならば…」
「もし私が、『あの車』の中を見ていなければ、そして信号のトリックに気付いていなければ…」
「私の脳が、今頃、青い円筒形の中に浮かんでいたかも、ですね」
「…へええ」何かを思い出すようなママの笑み。
「それが、あの最後の、駐車場の全部が消えた、につながるのかい…」
首を振るママ。
「まあ、念の為に『あの車』の中に簡易警報機を置いていて助かりましたがね」
「機械の僅かな動作だけを知らせる簡単なもので、誤作動が心配でしたが、まさか命綱となるとはね」




