敵幹部との会話 タレコミ編
「…はん、いつまで無意味な会話を続けるつもりだ」
「ところがそうでもないんですよ」
「…だって実際に、こうして教えてくれた人がいるんですよ?」
ズボンの後ろポケットからメモのようなモノを取り出して示す「男」。
「姉」
そこにはそう書かれていた。
単純なその一文字、に…
…なぜか一瞬硬直する『denn』、そして―
「だ、誰が…!」
叫びかけて慌てて口を押さえる。
「…まず『誰が?』が出ますか、ふむ」
「やはり、心当たりが大有りなんですね」
「いま、この時、このタイミングでのこの『タレコミ』」
言わなくてもいい蘊蓄が始まりそうだ。
「具体的ではなく、一般的に言うと…」
右手の指を一本立てる。
「集団『異能』であなたがのし上がろうと縋っていた『ライン』」
左手の指も一本立てる。
「そこであなたは頭角を現し、新たな幹部となった」
左指を右指に近づけ、二本となる右指。
「そして今回の『犬神』の件をうまくやればあなたとあなたの取り入って来たラインはより強くなる…」
二本の右指をぐっと上げる。
「…それを気に入らない『他のライン』が…」
拳を握った左手が、二本指の右手を打つ。
「―潰す!」
へろへろと落ちていく態の右手。
「どんな組織でもよくある、面白くもないありきたりなパターンですよ」
「…ま、運よくこちらは助かりましたがね」
「さてあなたの『お姉さん』、このワードから私にとって、全てが廻り始めました」
言葉を発しない、いや発せられない、『denn』。
「まず、あなたのお姉さんですが…」
上着の内ポケットから紙の書類を取り出し、わざとらしく読み上げる。
「あなたより三歳年長、職業はインテリアデザイナー」
「それも『窓』専門、と自称している、ほう」
「なぜか今は本人のSNSは消えてしまっていますが…」
「かつて本人は言っていたそうです」
―両親の離婚、弟の家出、私の家庭は暗く沈んでいた。しかし、私が毎朝開ける窓、そこから見る毎日の朝日は私をいつも勇気づけてくれた。
明るい朝の窓が、私の救いだった。…私は、そんな窓を一生の支えとして生きていく事を誓った!
「…まあ、少々アブナイところも感じますが、実際、あなたのお姉さんは、本当に『窓』専門のインテリアデザイナーとして懸命に働いていました」
一旦言葉を切り、そして言う。
「そして、お姉さんの名は、『田 まどか』」
変わらない、いや変わらなさすぎる『denn』の表情。
「なんと苗字どころか名前まで…、このお姉さんなら『窓の能力』を発現していてもおかしくない」
「…でも」
「お姉さんは、この三、四カ月行方不明なのですよ」
血の気の引いていく『denn』の顔色。
「そうそうあなたはこの一月ほど、この近辺によく顔を出していましたね、特に『白犬福祉会』の施設あたりにね」
「『窓』の能力で施設を監視していたとも聞きました」
「男」はわざとらしく右手の指を立てる。
「そこで施設の皆さんに訊いてみたのですよ、何しろあちら様は獣人など感覚の鋭い方が多いですから」
「すると、しばしば目撃されたのが…」
「男」は振り返る。
彼がさっきから背にし、もたれ掛かったりしていたその車…
軽トラックタイプの「冷凍冷蔵車」。
「そして、あなたがママの店に現れたその時に、近隣の駐車場に同じナンバーのコレが、あったのを確認できました」
「男」はゆっくりとその四角い後部に手を伸ばす。
「つまり、あなたが現れる所に、なぜかコレはあるわけです」
「…コレは、何なんです?」




