朝の会話 最終編
迫って来たダンプカー二台が崖下に落ちていく。
一瞬の間を置き、わっ、と歓声が上がる。
表を確認しようと、玄関に歩み寄る数人の職員。
「まだ出るな!」
制止する筋肉理事長。
「急ぐな、様子を見よう」
「まず、私とそう…」
数人の大柄な職員を指さす。
「君たち来てくれないか、表の確認とそして…」
意味ありげに奥の方を見る。
「『ゴミ』を片付けないといけないからな」
…
数人の職員が、「ゴミ」二つを投棄して、崖下の様子を見ている。
「あ、あの、理事長」
崖下を見ていた職員が尋ねる。
「崖下で動いて起き上がろうとする者たちを、黒装束の忍者のような男が叩きのめしているのですが…、あれは?」
手を額にかざし覗き込む筋肉白ひげ。
「―ふむ?、まあ、あちらさんの都合じゃろう、私らは関係ない。放置しておきなさい」
「…は、はあ」
その時小さく、ダァン、という音がはるか左上の方から聞こえたようだ。
「あれ、銃声ぃ?」
玄関から顔を出すシロン。
「危ないですよ、シロンさん」
心配そうに女性の職員が声をかける。
「でも、あんな山の方から…、あ、あれ?」
「どうしたんですか?」
「なんか今の、妖気、いや術法の気配みたいな…」
「お山の神社のあんな近くで、まさか、アイツらの仲間?!」
居ても立っても居られないように、シロンはたっと駆け出す。
「ちょっと見てくる、オヤジに言っといて!」
「だ、駄目ですよ!」
制止の言葉にも構わず、山の上を目指し駆け上がる。
…
「犬神神社」の左下辺りにある見慣れた岩場にたどり着く。
既に風で薄まって来てはいるが、強い火薬の匂い。
「さっきの銃声は、ここかぁ?」
しかし、誰もいない…
そこに見えるのは粉々になった機械の破片のようなモノと、一枚の白紙の紙。
そしてなぜか落ちている一個の弾丸。
ふんふんと辺りの匂いを嗅ぐ。
「あの『窓の男』の匂いだ!」
「他には、これは、リップやファンデの匂い…?、え?!」
人の匂いを嗅ぐとき、必ずその人本人の匂いと、それに『類する』匂いがする。
それは衣服、化粧品などの固有の香りなのだが―
ここにいたのはまず、一人の男、そう、それは『窓の男』に間違いない。
でも、もう一人いたはずなのに…その人、「本人」自体の匂いが全くしない。
香水、ファンデ、口紅などをつけているが、でも人間の匂いは全くしない…
そんなコトって、ある?
ドキリ、とするシロン。
…まさか人間じゃない?、さっきの妖気か術法の気配は、ソイツ?
「…どこに行った?」
シロンの戸惑いにまるで答えるかのように、山向こうに黒雲が沸き立ち、妖しい雰囲気が漂い始める。
それは白犬山を登った向こう、「雷平原」とシロンたちが呼んでいるところ。
常に濃い雲を纏い稲光がまたたく高台の方だ。
「お山によそ者が?」
だっと駆け出していくシロン。
崖を上がり、草原を駆け抜けた先に、蟠る濃い黒雲。
強い「力」は感じるが、しかし「気配」は感じられない。
―居る、のに見えない?!
今まで感じた事の無い、矛盾した感覚。
「何だコレ?、こんなの初めてだぞ!」
その時、
いきなり黒雲の中に、ギョロリッ、と獣の眼が光る。




