暗い朝の会話
「ふあ~ぁ」
ママは大あくびして背を伸ばす。
見上げる空はまだ闇に覆われ、ようやく東の空が少し白らいで来るくらいだ。
白犬山の中腹の「犬神神社」と書かれた古い社。その左下辺りにある岩場、にママは居た。
左下から曲がって伸びてくる坂道、そして右手の下に「白犬福祉会」の建物群、その手前の広場までもが、暗い中でも見ることができる。
「ねえ、まだぁ?」
傍らで何か準備をしている姿に声をかける。
集団『異能』の幹部、『denn』とか名乗る人物だ。
「もう少しだ」
「ねぇ、夜中に呼び出して、こんな山の中で夜明けまで待たせるんだからぁ」
「一流ホテルの『イングリッシュブレックファスト』くらいケータリングしなさいよ」
「これが終ったら幾らでも食いに行け」
―フン、とそっぽを向いて足元の石を蹴とばし、
そして言うママ。
「そのカメラ、蹴っ飛ばされたい?」
…面倒くせぇ!
『denn』の横顔に台詞がにじみ出している。
「なんかぁ、三十人位で殴り込むとか言ってたけど」
「アンタは、こんな所で撮影するだけぇ、臆病モノなの?」
「…いや暇人、それともぉ、怠け者ぉ?、きゃははっ」
…本当、うぜぇ!
『denn』の頭の上に「吹き出し」が出ているよう。
ゴホン、咳払いをして気を取り直したように言う。
「殴り込みは表向き、その他いろいろと計画を巡らせている」
「…もう、あいつらは袋のネズミと言っておこう」
「アイツらの能力もわかっている」
「ふうん、でもぉ、あの連中鋭くって、アンタの能力でも中を探れなかったんじゃ?」
気のないママの返事。
「ふん、だがしかし、奴らもこちらの情報を集めようとする、一連の行動でそれは分かるのさ」
「カラスの、フクロウの『獣人』、その鋭敏な感覚で察知していたこと、そして―」
「あの施設で行う、奴らの言う『妖怪護』、それはあやかしの能力、特に精神干渉の力だと、いう事もわかっている」
「そして分かった、何より、足りないのは『武力』」という事も!」
ニヤリと笑う『denn』。
「ま、それも当然か」
「伝承によれば『犬神』は一度怒れば、その姿は一丈(3m)あまりの白い猛獣となり、数百の軍勢でも滅ぼすという…」
「まあ、そんな凄いヤツがいるなら、頼っちゃうよな…」
くくく、と洩れる忍び笑い。
「そう、見せてもらおう、『それ』を!」
設置したカメラに触れて言う。
「この現代で、そんな姿を現して、ネットでSNSで晒されればどうなるか?」
「前後関係はどうでもいい、『犬神という猛獣が人々を噛み殺す姿』、それが世界に拡散する」
「先にやったモノ、言ったモノ勝ち、こっちは何もしなくていい―、便利な世の中さ!」
「…終わりだよ、お前らは!!」
「あはははは!!!」
眼下の施設たちを嘲笑う『denn』。




