暗い予感の会話
珍しく考え込みながら帰り道を行くシロン。
はっと白犬山のほうを見上げるシロン、ちょうど風向きが変わり、ひんやりとした風が吹き下ろしてくる。その風の意味が、分かる。
「風が、悲しんでる…」
そして見上げる山の雰囲気も沈んで見える。
思わずたたたっ、と駆け出してしまうシロン。
「白犬ケアセンター」
「リハビリセンター白犬」
と書かれた施設の二階、事務所兼住居の二階に駆け上がる。
バアン、と開けた扉の向こうの大きな人影に叫ぶ。
「オヤジッ、お山が、風が…」
「やはり気づいたか」
振り返るその人物、この老人福祉施設「白犬福祉会」理事長の「白神 次郎左」だ。
理事長、ちょっと見た目には分かりにくいが、たしかに理事長に間違いない。
なぜそんな事を言うかというとー
なにしろ、身長は2m50㎝はあろうかという、白い筋肉モリモリの白髪の短髪にいかつい白ひげ面。
太腿びっちびちの白ジャージに、極めつけは「白犬」と大書された白い筋肉ではちきれそうな白Tシャツを着ている、という「白い筋肉理事長」なのだから―
しかし「白い筋肉理事長」は暗い顔で言う。どうやらシリアスな展開らしい。
「黒尾らから、報告があった」
「街のならず者連中が、山裾の空き地に二、三十人ほども集まり、不穏な動きを見せているそうだ」
「おそらく明日にでも、此処に殴り込んでくる、のだろう」
「な、なんで、そんな事に?!」
「今まで、人と妖は棲み分けあってきた」
「長い間、お互い知らぬふりをしてきたとも、言えるだろう」
「だが、止まらぬ人の飽くなき欲望が、電脳世界すら飲み込み、いまや妖の力さえ貪ろうとしている」
「それを今回扇動しているのがあの『窓の男』だ」
「あいつ、アイツ、嫌だよ!」
「何で自分以外の、ものを、平気で踏みにじれるんだよ!」
やり場のない真っ直ぐな少女の憤り。
「世の中にはあんな悪いヤツが、居ていいのかよ!」
父親の腕を取り、ぐいぐいと揺り動かす。
「そいつらが闘る積りなら、こちらも闘り返せばいい、そうだろ!」
穏やかに娘をたしなめる父親の発言。
「奴らはそれも待っているのだろう」
「暴力に訴える野蛮な『人外』だと誹り、人に我らを排斥させようとする、だろう」
「―そんな事言ってたら、何も出来ねえだろっっ!」
眼を血走らせて叫ぶシロン。
「何だよ、アタシ達は、ただ黙って、やられなきゃ、なんねえのかよぉっ!」
ゆっくりと言う理事長。
「妙、私は、ある者の助けを借りることにした」
「…だ、誰なんだよ、それ?!」
まだ取り乱したような大きな声で返すシロン。
「あの『窓の男』と敵対している者たちだ」
「私はその者と会った、私は、信用できると、思う」
「ほ、ホントかよ、ソレ」
「ウソだろ、ど、どうせ…」
「う、上手いこと言って、裏切るんじゃ、ないだろうな?」
シロンの不安に満ちた眼差しに、暗い影を浮かべる理事長。
しかし…、その肩に手を置いて言う。
「『その者』の身内がお前にも挨拶に行くと、言っていたそうだ」
「それも、今日…、心当たりはないか、妙?」
「え?」一瞬キョトンとする。
「今日、会った奴ってこと?、―あっ!」
―あの、転校生と言っていたヤツ、まさか、アイツが?!
「転校生、だって?」
「あ、ああ、実は…」
―朝、通学路で踏みつぶしたこと、転校生として紹介されたが、クラスの他のみんなは覚えていないこと、等をシロンは父親に話した。
黙って聞いていた理事長は最後に、にっ、と笑って言う。
「では妙、いやシロン」
「お前は、彼をどう思った?」
「面白いヤツだって…、思った」
「では、新たに問い直そう、今、お前はその『転校生』を信じられるか?」
「うん」
即答のシロン、いや言った本人が驚いているようだ。
「…上手いこと言って、裏切るだろう、とは思わないのか?」
「なぜだろう、思えない。いんや、何かどーでもいい、アタシがそう思った!」
「アタシが見て、信じた!!」
「ふふ、そうだ、お前が信じるなら私も信じる!」
「そうだね、ゴメン、アタシもオヤジを信じるよ!」
「そーだぁっ、調子が出てきたなあぁっ!」
ゴリゴリとシロンの頭を強烈に撫で廻す理事長!
「チョーシに乗んなあっ!」
娘に怒られる父親。




