名も無い転校生?との会話
シロンのクラスメイトがそろって後を追う。
それらの後姿を見ながら、よろよろと立ち上がる転校生―
しかし、その時、転校生はその胸の内ポケットを押さえる。
スマホか何かか、ブ、ブブ、ブブブと振動が聞こえたようだ。
思わせぶりな間隔は、何かの合図っぽい。
「ちぇ、もう終わりか」
ちょっと残念そうな表情。
「でも青春って、こんな…」
しかし明るい笑顔。
「いいもの、なんだ、ね―」
言うと、さっと手を振る。何かを断ち切るように…
そしてゆっくりすたすたと歩いていく。
でも振り返り、口から出る言葉…
「でも、シロン、アンタにはまた会いたいなあ、そして…」
なんでか、その影その姿が何故か異様に薄くなったよう。
いや、確かにその姿を、通行人がすり抜けている?!
それどころか、その転校生の姿は、あまりにもゆっくりと、フェードアウトして、消えた―
…
「ね、ねー、どうしたんだよ」
走り去る姿を呼び止める友人、怒りのためか犬耳は引っ込んでしまっているシロン。
「ヒドイって思わない、何でアイツあんな事を訊くんだよぉっ」
…ふ、と流れるおかしな空気、
いや、かえっておかしかった空気が、元に戻った?!
「…え?」
「…アイツって誰?」
ぽかんとするみんな。
「今日の転校生だよ!」
「…てんこうせい?」
クラスメイトが顔を見合わせ合う。
「…ど、どうしたんだよみんな、今朝来て、あ、アタシの横に座っただろ?」
逆にためらいつつ言い返すみんな。
「ち、ちょっと、シロン」
「アンタの隣って、『片岡』だろ?」
「今日は曾婆の忌引き、とかで休んでるケドー」
はっ、とするシロン。脳裏に浮かぶ黒縁メガネの、『片岡』の冴えない顔。
「アイツ、冴えないけど…、そんなシカトするのは良くないんじゃね?」
「シ、シカトなんて…」
…違う、アイツは確かに居た。
確かに先生の紹介、挨拶、言葉を交わしたんだ。
「ホントに居たの、ソイツ?」
「名前は―?」
みんなの問い。
なまえ?
え、知らない、イヤ訊いてない。
そういえば、なんでアタシはアイツの名前を訊かなかったんだ?
いや、訊けなかった?
名前を聞く、という事すら思いつかなかった?
あの、アイツは、一体、何だったんだあっ?!
その時吹く一陣の風―
その風の中に囁きがあった。
(―ゴメン、それはまだ名前が無かったからなんだ)
え、えっ?
確かにあの「転校生」の声だ。
辺りを見回すシロン…
(だから、今度会ったら、シロンに名前をつけてほしいな)
―名前を付けるって、何だよそれ!
しかし答えは返ってこない。
不思議そうにつぶやくシロンを、いっそう不思議そうに見つめるクラスメイトら。




