そして…、女子高生との会話
「…で」
ママの問い。
「『契約』とやらについて、なんか言う事あるんだろ?」
両手を横に広げる『denn』。
「ふふ、話が早くて助かる」
両手を組んでやや身を乗り出す。
「なに、難しい話ではない。これから言う『案件』にちょっと参加してくれるだけでいい」
「ふうん?」
「誰かをこらしめる、ってヤツかしら」
「まあそんなところだ」
「大方は俺たちが仕切る」
「アンタは、そう後ろで睨みを効かせてくれれば、それでいい」
「気に食わないわね」
「ん?、なにがだ」
「見てるだけ、ってトコがよ!」
いきなり荒い語気。
「ねえ、アタシがこらしめる、いえ、『〆る』って場面、作ってくれない?」
「は、ははは、そうだな、では頼もうか」
苦笑いする。
「んで、どんな『案件』なんだい?」
「…ああ、それは」
その台詞は店の扉を叩く音で中断する。
―コンコン!
すみませーん!
ウチの社長、こちらに来てませんかぁー
どこかで聞いたようなマヌケな声、そうあの角刈りと筋肉質の二人組だ。
今は「男」の部下という位置づけだ。
時間になってもぉ、連絡なくてぇー
すみませーん!
「ああ、あんたらかい、入ってよ」
「はい、すみませんママ」
カラン、と扉が開く。
「ウチの社長が来てま…、な!」
「ああっ、社長、どうしたんです!!」
倒れ伏す「男」に慌てて駆け寄る二人組。
「丁度いいわ、アンタら、『コレ』片付けといて」
「さ、行こうか」
さっさと立ち上がり、『denn』に顎をしゃくる。
出ていくママと床に寝そべる社長、両方をおろおろと見つめる二人組。
バタンと扉を閉め店を後にするママ。
「で、『案件』って?」
「ああ、ある『あやかしの一味』を手に入れる」
「へえ、どこの?」
ナニサマだ…、内心が見える仏頂面で答える『denn』
「この内海を越えた向こう、そう四つの国の島の…」
「へえ、うどんでも食べに行くの」
「それとも蜜柑?」
イラつく様に返す。
「その少し向こうだ…」
しかし気を取り直したように、彼方を見つめる仕草。
「獣人や妖怪を多く抱えている…」
「『犬神』と名乗っている一味だ」
「へえ、『犬神』ねえ」
腕を組み向こうの方を見つめるママ、その表情は、見えない。
…
その時から、
時は一日後、
場所はそこから…
距離は南西250㎞ほど―
地方の古都と言われるこの街。
その奥に街を守るように並び立つ「白犬山」
それ自体は、背後に国定公園を含む山地を持つ、なだらかな山だ。
しかしその向こうには、いきなり急峻な岩山があり、またその隣には常に濃い雲を纏い稲光がまたたく高地など、奥には様々な顔を隠し持っている。
その手前の穏やかな傾斜地に見える三つの施設。
奥には、「介護老人ホーム『白犬荘』」
手前には、「リハビリセンター白犬」
そして「白犬ケアセンター」
その手前の建物の扉ががらりと開き、口には食パンを咥えた女子高生が駆け出してくる。
爽やかな朝が、慌しい朝に変わる。
眩しい白いブラウス、赤いタイに紺の襟とプリーツスカート。
何でか一筋の白いメッシュが入っている肩までのワンレンの黒髪が揺れる。
清楚と可憐さを兼ね備えた、見惚れるような印象だが…、
その台詞は、テンプレそのもの…
「いっけなーい、遅刻遅刻!」
見ると建物からは左曲がりに下がっていくなだらかな道。
「今日も、ショートカットぉ、行っちゃうかぁ!」
言うなり女子高生は、荒れ地と崖の組み合わせの、七、八m程も落差のある崖にバッとジャンプする!
そなままなら単なる身投げだ!、しかしー
さっと首を振ると、一筋の白いメッシュの髪が生き物のように見事に広がり―、
その頭に、犬のような白い耳が、腰には白い巻尾が現れ―
白毛の犬耳女子高生―!
バァンー!
それこそホントに白い犬のように、荒れ地の岩の上を、何十mもびょん、ビョンと何度も跳ねていく!!
翻るプリーツスカート、まだ低い陽光に白い太腿がまぶしい。
「あっ、ははぁーっ、気ん持ちいーっ!!」
学校に続く山の下の道が見えてくる。
「よおぉーしぃ、華麗に着地ぃっ!」
くるくると前転姿勢の女子高生、しかし―
そこには見慣れぬ男子学生が!
「ち、ちょおぉー!、どいてえぇっ!!」
―どっっしぃーんん!!!
結局、見事に男子を踏みつぶしてしまう女子っ!
「ち、ちょ、キミ、大丈夫ぅ?!」
何かのギャグのように地面に半分ほどめり込んだ男子。
しかし以外にもすぐに立ち上がる。
「ダイジョーブさぁっ」
土に汚れた顔を気にせず、両手を高く上げポーズをとる。
キラリ、と光る白い歯。
「…、そ、そう」
軽く身を引く女子高生。
コイツ、なんか危なくね?、態度だけで内心の声がわかる。
「…な、ならよかった、あはは、じゃねー!」
ダッシュで小さくなる後姿。
黙って見送る男子。その膝あたりをぱしぱしと余裕で払う。
「あーあ、青春の『遅刻する食パン少女』を体験したかったのになー」
「まさか、踏みつぶされるとはね」




