新たな敵、の会話 最終編
「切り刻まれてもくたばらないアンタだったねぇ」
「そういえばこの世を超えた繋がりを、その身体は持ってるって言ってたっけ?」
ぐい、と注射器を押す。
「じゃあ、注射されたこの薬は、高次元空間とやらを超えて、アンタの身体全体に広がるって事だ、あはは、傑作だね」
絵に描いたような男のうろたえ。
「…ま、まさか、毒?!」
「いやだ、助けてくれ!」
「…はん、今までちょっとは鋭い所もあると思ってたけど、幻滅だねぇ」
「裏切る事にして、正解ね…」
横で見ている「新たな敵」ですら、肩をわずかにすくめてしまう。
「安心しな、猛毒も考えたけど、アンタ、案外楽しませてくれたから…」
注射器を引き抜く。
「ふふ、睡眠薬に負けといてやるわ」
ペロリ、と己の唇をねぶる。
「命だけは助けてあ・げ・る。感謝しなさいよ?」
何かを掴もうとするような、男の両手の無駄な動き。
「…そんな、ママ、い、いやだぁっ」
その動きも、だんだん鈍くなってくる。
未練がましくゆっくり崩れ落ちていく男。
「見苦しいねえ、さっさとおねんねしな。…あ・ば・よ」
その頬に、軽くキス。
どさり、と横たわる男。半開きの眼の光が消えて行く。
くたりと身体の力が抜ける…
やがて男の股間あたりに、じわじわ広がってしまうシミ…
顔をしかめるママ。
「あーあ、こんなヤロウと付き合ってたんだアタシ…」
吐き捨てるように言うと、カウンターの裏に回る。
「男」のキープしていた高級ウイスキーを遠慮なくグラスに注ぐ。
グイ、とワンショットを飲み干し、どん、とボトルをカウンターに置く。
「…アンタもどう?」
苦笑する『denn』。
「ま、やめておこう」
「なに、アタシの酒が呑めないっての?」
「いや、その『男』の酒だろ?」
「はは、違いないね」
あざ笑いのママ。
「で、これからの事だけど?」
カウンターに肩肘ついて問いかけるママ。答える『denn』。
「ああ、言った通り『フリーランス契約』だ」
「こちらの要請に、ママの都合の良いときに力を貸してくれるだけでいい」
「ふうん、悪の組織にしてはずいぶん甘い契約ね?」
「フン、アニメや漫画の『悪』なんかではない、もっと高尚な存在さ」
「へえ?」
首を傾げるが、またウイスキーをグラスにそそぐ。
「まあ、アンタらの事情なんてどうでもいいわ」
ぐい、と飲み干す。
「アタシはまた、気ままに流離えれば、それでいい…」
「ふ、そうだな…」
愛想笑いの『denn』。




