新たな敵、の会話 裏切り編
それは神経質そうな背の高い男。
暗い紺色のマオカラースーツを着ている。
いわゆる、襟の高い「学ランみたいなスーツ」。
それはいかにもカタギではない怪しい人物の雰囲気を漂わせている。
遠慮なくつかつかとカウンターに歩み寄ると、どさりと椅子に腰を下ろす。
怪しい客をチラ見しながら、何も言わないママをいぶかし気に見る「男」。
「駄目だったろ、ん?」
高い目の声質を誤魔化すように、無理にゆっくり低く言うような、わざとらしい口調に聞こえる。
そっぽを向き、唇から紫煙を吐きだす。大き目の、ふーっ。という吐息を添えて…
さすがに立ち上がり、その客の前に立ちふさがる「男」
「何ですか、あなたは?」
「わからんのか?」
ママの後姿は変わらず、無言で吐き出される煙。
脚を組んで、ゆっくりと言う客。
「ならば、自己紹介しよう。俺は、集団『異能』の幹部、『denn』だ」
「―は?」
驚きのあまり口が開きっぱなしになってしまう男。しかしすぐに恥じるように手で口をおおう。
ママと、その客をせわしなく交互に見詰めてしまう。
「…どういう、事なんです?!」
灰皿に煙草を押しつけ、振り返るママ。
「この人、今日昼過ぎにアタシが店に来たら、いたのよ…」
「で、アンタの今日の行動を一部始終、報告されたわ」
「今日夕方店に来るって、アンタ電話くれたでしょ。その時、アタシの横にいたのよ」
「さあ今電話が来るぞって、言われて、その通りで…、はは、笑っちゃったわ」
「そんな、バカな!」
「アンタ、…負けね。ご愁傷様」
言葉をなくして立ち尽くす風情の男。
「俺の『千里眼』、味わった感想はどうだ」
唇の端を上げてあざ笑う『denn』。
「制限や条件がどう、とか偉そうな事を言ってたが、手も足も出ないじゃないか、ん?」
「くっ!」
男は右手をスーツの背中あたりに回す。
「テーザー銃、だろ?」
『denn』の言葉に一瞬、びく、としてしまう男。
「わかってるよ、バーカ」
電極発射ガン、をあわてて構える男。
「遅いよマヌケ」
「今度は『瞬間移動』を味わいな」
たっ、と一歩下がった『denn』、その身体がすっと下に沈む。
ガチャンッ、と何か割れたような音、はっと男が見ると、その姿はどこにもない。
「な、なあっ!」
見事な程にうろたえてしまう男。
つい目を背けてしまうママ。
カランー、と優雅に店の扉が鳴り、ゆっくりと入ってくる『denn』。
右手のひとさし指を立て、見せつけるように左右に振る。
「わかったろ?、違いすぎる実力が、ん?」
「く、くそっ!」
取り乱しながらも、テーザー銃を構える男、しかし…
ドスッー!、痛みを感じ男の動きが止まる。
右首筋に刺さっている注射器。そしてそれを持っているのは…
「―マ、ママ?」
後ろに視線をやる男。冷たく笑うママ。
「…ど、どうして?!」
「ごめーん、裏切らせてもらうわぁ」




