二人組との会話 「宇宙服CM編」
女性が二人を見る。思わず壁面に張り付いてしまう角刈りと筋肉質。
彼女は頭の狐耳を揺らして苦笑する。
「ああ、今後ぬしらがどうなってもわらわは構わぬのじゃが…」
思わせぶりにドアを見つめる。
「地獄に仏、を紹介しよう」
意味あり気な笑いと共に、子供を抱えて去って行く。
「仏かどうかは、非常に怪しいがの、まあ、頑張れや、くくくっ」
子供はと言うと笑顔でバイバイをしながら、一瞬のスキを見て「アッカンベー」をしてみせる。
二人が何か言う前に、入れ違いに何かにやけた様子の男がゆっくりと入ってくる。
「やあ、初めまして」
「ああっ、お前はまさかっ」 角刈りの男が叫ぶのを、悠然と彼は聞き流す。
「あなた方が言っていた『こいつの父親らしい男』ですよ」
―まさか仕返しに? 緊張する二人の前で、男は背中に背負った大きな荷物を下ろし、コキコキと首を回す。見事な程の緊張感の無さ。
「しかしあなた方『下』を選んで正解でしたよ、『上』より助かる可能性が100倍高いですからね」
「そ、そうなのかっ?!」 希望の光が二人に輝く。
「なにしろ『上』で助かる可能性は一億分の一、ですからね」
「おいっ、それじゃ『下』でも助かるのは、たった百万分の一じゃねえか!」
ダブルで突っ込む角刈りと筋肉質。
「さ、そこでお勧めのアイテムがあるのですよ」
「いや、ひとの話を聞けっ!」
ツッコミを完全無視して、男は荷物を広げる。
「お勧めはこの『超絶最高級絶対的プロテクトスーツ』!」
宇宙服のような物を、拡げて示す。
「その名も、『まもっちゃうんジャー』!!」
パッパパーンー!
こんな緊急事態にもかかわらず、二人組は揃って首を傾げる。
…今の効果音はどこから聞こえたのだろう?
「超絶最高級なスーツなのに、何だそのダサいネーミングは?」
「まぁったく刺さらないぞ!」
こんな緊急事態にもかかわらず…、不評だ。
「キャッチコピーは『宇宙空間なんのその、大気圏突入バッチコーイッ!』です」
「その広告代理店、即座に解約しろっ!」 突っ込む角刈り。
「この『わびさび』が、わかりませんかねえ」
「プロテクトスーツに、わびさび、はいらんっ!」 さらに突っ込む筋肉質。
「なかなかツッコミが鋭いですねえ、あなた方。いっぺん漫才コンクールに出てみては?」
「きっと優勝できますよ、あはは」
「さらに!」
自分で話をぶった切っておいて、いきなりびしりと指さす。
何事かと身構える二人組。
「開発製造はあの『YOAO社』っ!!」
「…」「…は?」
あきらかな二人の「なんだそりゃ無表情」
吹くはずのない一陣の冷たい風、一瞬止まる時。
こんな緊急事態にもかかわらず…
―たまらず、角刈りが止まった時を無理矢理うごかす。
「…ああ、もういいっ、さっさとそれを渡せ!」
「では、一着7億8000万円いただきます」
男の言葉に、差し出しかけた二人の手が止まる。
「な、何でそんなにするんだっ!」
「助けてくれるんじゃないのかよっ」
男はやれやれと言った風情でゆっくりと肩をすくめる。
「おや、科学技術の粋を集めた最高傑作をまさかタダでよこせと? あなた方鬼畜ですねえ」
「俺らの弱みにつけこんでるお前にだけは言われたくねえっ!」
「地獄に仏どころか、悪魔だなっお前は!」
二人の文句を嘲笑うように、スーツをかざして微笑んで言う。
「でもいいんですか、これが無いと確実にあの世逝きですよ?」
「ほ、本当にそれがあれば大丈夫なのか?」
「もちろん!」
男は胸を叩いて断言する。
だが、まったく信用できないのは気のせいではないだろう。
「はい、この『まもっちゃうんジャー』さえあれば、63%の確率で助かります!」
角刈りと筋肉質は不安な顔を確かめ合う。
「なんでそんな微妙な可能性なんだよっ」
「やっぱり欠陥品だろっ」
男は大袈裟に、額に手を当てて見せる。
「はあ、生身の人間の大気圏突入の支援にどれ程の技術が必要か、全然わかっていませんね。これだから、素人は…」
「おいっ、大気圏突入の『玄人』がいるのなら連れてこいっっ!」、渾身のツッコミ!
「おおっと、これは一本取られましたね」
ミシッ、ベギッ―
「おやおや、言ってる間に時間切れですね、家が崩壊し始めましたよ」
お前ッ、わざと時間稼ぎしてたなあっ?!
「人聞きの悪い…、ただおちょくっていただけですよ」
「余計悪いわっ!」
「あああっ、もう何でもいい、それをよこせ!」
慌ててプロテクトスーツを身にまとう二人。
「よし、これで何とか…、うおおっ」
いきなり二人の身体が動き出す。
『宇宙空間何のその!』
Y!、で筋肉質が両手を斜め上に伸ばし、O! 両足ガニ股
『生身の身体を!!』
A!、で角刈りが両手を上に伸ばし指先を合わす、O! 両足ガニ股
『まもっちゃうんジャー!!!』×2
腕を伸ばし重なる姿、決めるポーズ!
『世界をリードする!』「その名も『YOAO』っ!!」
横で見ていた男が、ばしんばしんと手を叩く。
「コマーシャルメッセージも完璧ですね、よかった、よかった」
「アホなことやらせるなあー!」×2
バリバリ、ベキイッ―
うおおおおー!!
家が完全崩壊し、二人は空間に投げ出される。




