二人組との会話 「大気圏上層編」
追い打ちをかけるように、家を揺り動かすような声が響き渡る。
「貴様らかあっ! 我が子をかどわかしたのはあっ!!」
「わ、我が子?!」
誘拐犯二人は顔を見あわせる、まさか―
「えええっ、ひょっとして、あんたがこの子の『ママ』ぁっ?!」
窓から垣間見える大妖獣が、ニマリ、と笑う。
「そうじゃあっ、わらわが『ママ』ぞよっ!」
「いや、『わらわがママ』って、なんか言葉おかしくね?」
つい冷静に突っ込んでしまう角刈り。
「変な早口言葉みたいじゃ…」
ついつい口を滑らせる筋肉質。
「ほほほぉ、言うのぉ貴様ら、よほど命がいらぬとみえるなぁっ!」
歯をむき出して、すばらしく怒って見せる大妖獣。
「えええっ、突っ込むだけで、死?!」
愕然とする二人の横で子供がくすくすと笑う。
『ほらねー、ウチのママ、おこると、すっごくこわいでしょ?』
「怖いっていうレベルじゃねえぞっ!」
「ふ、我が子は可愛いからのう、たかる虫も多い。じゃがそのような阿呆どもはそれなりの報いを受けねばならぬ」
「え、ええっ、『報い』って?!」
なんか嫌な響きに、二人は身をすくませる。
「まあお前らは、我が子が狩ってきたフヌケ共よりはいささかマシのようじゃ」
「よって、わらわは慈悲を示してやろう」
大妖獣は吠える。
「選べ! 『上』か『下』か?」
窓の外と、お互いの顔を気ぜわしく見つめつつ、ひたすら戸惑う二人、
「あの、それはどういう事…」
「質問に問いで返すな、たわけぇっ、『上』か『下』かあっ?!」
「…し、『下』でっ!」
勢いでわけわかんないまま、答えてしまう。
「よぉしわかったっ、ではこれから貴様らをここ大気圏上層より、『下』に落下させてやろう!」
「…は?!」 二人の口が、ぱっかーん、と開いたままとなる。
「燃え落ちて流れ星となるのじゃ、これ以上派手な散り方はないぞよ」
「え、ええっ、待ってっ…」
「何それ、頭が全く追いつかない」
「…そうそう、貴様らの流れ星を見て誰かが願いを掛けたなら、ちゃんと叶えてやれよ、よいな?」
「…すみません、それって、どうやれば?!」
「問いに質問で返すな、気合で何とかせい!!」
「は、ははーっ!」
二人は勢いで、『一緒に土下座』(とぅげざーどげざー)してしまう。
筋肉質が恐る恐る尋ねる。
「あ、あのちなみに『上』を選んでたら…?」
「それなら貴様らをこの家ごとほうり上げ、地球周回衛星軌道に投入してやるコースじゃ」
「あんたっ、何者ぉっ?!」 二人の絶叫がハモる。
「これまた羨ましいのう、青く輝く地球を永久鑑賞コースじゃ、くくくっ」
「どっちも酷いことに変わらねえっ!」 本当によくハモる。
「流れ星と衛星軌道って、そんな二択がなんで、じ『慈悲』ぃい?!」
「何を言うておる、地球へ帰還する宇宙船を見つけたら、ヒッチハイクできるではないか?」
二人並んで、口をぽかーんと開け続ける。そろそろ舌が乾ききって来そうだ。
いきなり、ふ、と窓の外の大妖獣の姿が消える。男二人が訝しがるうちに、部屋の扉がガチャリと開く。
誘拐犯は思わず壁際に、へばり付く。が、入ってきた色っぽい女性に子供は甘ーく語り掛ける。
『ママ―、おむかえ、ありがとー』
「おお、良い子にしてたかや?」
『うんっ』
「さあ、遊びは終わりじゃ、帰っておやつにしよう。今日はプリンじゃぞ?」
『やったー、ママ、好きッ』
大妖獣の筈が、何か普通の母子家庭の会話の落差に、二人は譫言のようにつぶやき続ける。
(遊び?)
(おやつはプリン?)




