「できたから見に来て」の会話
―翌日、男の事務所
「しかし意外でしたね、私の『提案』にこんなに反応するとはねえ」
「ホントは『提案』などではなく、ちょっとした以下のようなギャグだったんですが…」
「ママ、一つ提案なんですが」
「もったいぶって、なに?」
「『新戦力』を導入しませんか」
「なんのこと、それ」
「ママと私の能力を兼ね備えた新しい存在!」
「だから何よ」
「早い話が…」ママの耳元に口を寄せる。
「ママと私との『子供』ですよ」
「ね、これから『新戦力』作りませんか?」
「…はあ?、それって―?、テメエ―、ナニ考えてんだこのタコ!!」
思い返して、男はつい身震いする。
「今にして思えばドン引かれて、惨殺されてもおかしくなかったですね、くわばらくわばら…」
ふと、男のスマホが着信を知らせる。…ママからのコールだった。
昨日の今日、こんな時間に何だろう。
今更ながら『提案』に腹が立ってきて、
(そこを動くな、今すぐぶち殺しに行く!)、も十分にありうるだけに怖い。
男は恐る恐るスマホを耳に当てる。
「はーい」
なんだか必要以上に明るい口調に、余計不安が募る。
「昨日、聞き忘れた事があってさぁ」
な、何だろう?、身構えてしまう男。
「『新戦力のコンセプト』について、アンタの意見を聞きたいんだけど」
???―
九尾の狐から「コンセプト」という言葉が出てきたのにびっくりするが、それ以上の混乱が―
『新戦力』、それは冗談で言ったつもりの、ママとの『子供』…、その「コンセプト」?!
なぜそんな事を訊くのだろう、そんで、言ったところで、何がどうなるんだ?
「ねえ、聞いてる?、早く意見をいいなさいよ」
「コンセプト」、子供の方向性…?
「あ、やっぱり、『無限の可能性』、とか?」、つい口走ってしまう。
「うん、分かった」
「んで、当分忙しくなるので、こっちから言うまでは、接触はナシで!」
「え、ど、どういう…」
「じゃまたね―」、―ブチッ
訳が分からない。
―んで、
時間は流れて十日後、男は歩いていた、ママの住むマンションに向かって。
「できたから見に来て」
短いSNSでのママからの、メッセージ。
『できた』…、それはやはり『妊娠』?!
しかし「見に来い」とは?、何か言い方がおかしい。
何せ「あの夜」からまだ十日ほどしか経っていない、人間でもそんな短期間で分かるのか?
男は首をひねりつつ歩いていく、そしてママの住むマンションにたどり着いた。
ピンポーン
「はーい、ドアは開いてるから入って来て」
こわごわと覗き込む男。
玄関から入った先のDKで、ママは椅子に座って脚を組み、カップを傾けている。
匂いからするに、ジャスミンティーらしい。
カップを置くママ。
「いらっしゃい、奥にいるわ」
「へ?」
キョトンとする男。
「だれが?」
む、とした顔、その頭に狐耳が現れる。
「わらわとぬしの『子供』に決まっておろう?」
「こんなに早く?」
なおさら訳が分からない男、その戸惑った顔にくすりと笑いかける。
「ふふ、事情が呑み込めておらなんだか、言ったであろう文字通り、わらわが『作った』のじゃ」
「昔ながらに十月十日ものんべんだらりと待っておっては、九尾狐の名折れのような気がしてのう」
「まあ、身体の気の流れや内臓の調整などで、ちょっと人には見せられぬ姿を晒さねばならなかったゆえ、面会謝絶しておったが、ふふ、なかなか面白き時間であった」
「わらわの妖力と生命力ならたやすい事じゃ、ほほ」
言葉の出ない男。引き攣った笑いを浮かべるしかない。
しかしママのことだ、何だかSFとかにある、禁じられた化学技術や、魔法の禁呪なんかで生命を合成したんじゃ?、というような心配がぬぐえない。
男の心配を読み取った様に、明るく言うママ。
「案ずるな、ちゃんとわらわの胎の中で九日間ほど熟成した、正真正銘のわらわとぬしの『子供』じゃ」
それは「熟成」と言っていいのだろうか。
しかし、男は腹を決める、ここまで来たらもう迷っても意味はなさそうだ。
咳ばらいをする男。
「…はは、ちょっと戸惑いましたが、もう大丈夫です」
「では、会ってやってくりゃれ」
ママは奥の部屋の扉を開ける。
「え…?!」




