男の「提案」の会話
「私の『異能』その特性とは、そう、言わば『厚み』なんです」
「この三次元空間だけでなく、私の身体はそれを超える高次元空間も及んでいる、それが『厚み』ということですよ」
ホテルの最上階高級スイートルームー
ママと男は、ルームサービスの朝食を目の前にしていた。
続く男の話を、ママは明らかに話半分以下で聞いている。
「何回聞いてもわかりにくいねえ」
「それがアンタが首を切り離されても平気という『不死身』と、どう繋がるんだい?」
「この世、つまり三次元世界で切り離されても、いわば別の繋がりを保てている、とでも言いましょうか」
「この世以外の別の繋がり… あの時にアンタがアタシの後頭部に何かぶつけて見せたのも、それ、と関係あるのかい?」
「高次元空間に伸ばした手の先を、ママの頭の後ろの空間に出現させただけですよ」
「手の先だけを―?好きなところにってコト?!」
「ん?、つまりアンタはどこにでも移動できるって事にならないか? つまり、えー『瞬間移動』?!」
「…それは、出来ないんですよ」
「私の身体は、一部ならともかく、全てをこの三次元空間から離すことはできないのです」
「『異能』が使える範囲は、そう、私の周り2~3mくらいでしょうか…」
いきなり男が遠い目をして、言う。
「…ママ、『高次元空間』って見た事あります?」
「??…さ、流石のアタシでも、見た事がないねえ。…どんなだった?」
「分かりません」
「…なめてんの?」
「言葉にできないんですよ、無理に言おうとすれば、もっと分からなくなる、と言いますか…」
「言ってみなよ」
「気が進みませんが、では…」
「三次元空間は、縦横奥行きがあって過去と未来があるでしょう。無理矢理言えば『高次元空間』は、それらが『全部同時』にあって、なおかつ『全部がない』というトコロなんです」
「…ホントになめてんの?!」
「ね、そうなるでしょ。それだけ人の理解を超えているという事です―」
「もし身体が全部三次元空間から離れたら、そんな理解すらできない訳のわからない空間を永遠にさまよう事になるでしょう…、だからできないんですよ」
「ま、よくわからないけど、分かった」
「私の『異能』のこと、やっと分かってくれましたか」
「アンタはさえない、うさんくさい男だけど、面白くて、まあ信用できる男だと、ね…」
「―は、えっ?」
「じゃあ、私の、て…」
何か言いかける男にわざとのように背を向け、歩いていく。
見せつけるように優雅にゆっくりと『毛づくろい』をし、身だしなみを整える。
姿見で全身を確認すると、ママはバッグを持ちさっさと出て行こうとする。
押し隠せない心配さをにじませ、男が声をかける。
「…ママ、私の『提案』、受け入れてくれるんですよね?」
「もっちろーん、安心してよ、ちゃーんと約束は守るから」
「はは…」
何かおかしなテンションに、不安しか感じられない。
「その証拠に、これから帰ってさっそく作るから!」
「え?」
「アナタが言ってた『新戦力』をね」
「じゃバイバーイ、また連絡するわぁ、待っててね―」
立ち上がり手を伸ばしかける男の前で、バタン、と扉が閉まった。




