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狐耳の婦人との会話

街の片隅の幾つかの事務所が入った古いビル。その屋上で、「その男」はスマホで会話している。

「で、いかがでしたか、お返しした試作アーマーの行動データからの『あのドローン』の解析は?」


「ほほう、おそらくは、やはり『あの国』の横流し品、それも無断で、ふんふん…?」

男の口許がニヤリと笑う。

「やはりそうでしたか、『組織』は力を示したかったんでしょうが、ふふ、結局は焦った上での暴走…、墓穴でしたか」


「で、希少生物密売の方は…?、ふんふん、ああ、それはいいですね、マスメディアにはこんな時ぐらい役に立ってもらわないと」

「ふむ、貴方の『上』も、武器密輸とワシントン条約違反の両面で追求していく方向…、はは『組織』には大打撃でしょう」


「ま、闇の組織のいつものテンプレで、下っ端何人かを国に売り、幹部は地下に潜ってほとぼり冷まし、また復活、というパターンでしょうが、しばらくはこちらにはちょっかいは出せないでしょう」

街の向こう側に小さく見えるのは、豪勢だが古いマンション、その五階の窓がすべて割れ、その中が真黒になっているのがよく見える。まだブスブスと煙が出ているのさえ見える。

「…助かりましたよ」


「…はい、はい。ええ、ありがとうございます。また何かご用命があれば、いつでも…、はい、貴方とはこれからもいいWin-Winの関係を保って行けそうですね」

スマホと会話しながら、滑稽なぐらい深々と頭をさげる男。


ギイイー、屋上から下に向かう古びた扉を開け、階下の事務所へ戻る。

扉を開くと、和服姿で白髪の上品な婦人が座って待っていた。

「葛の葉さんたびたびすみません」

葛の葉、それは「男」も参加した『命婦神(みょうぶがみ)』の、稲荷の御前会議に在った名前だ。


「急に猿妖の子らを預かれとか、大怪我の手当てをしろとか、人使い、いや『狐』使いが荒いのう」

葛の葉は手に下げた風呂敷包みを示す。

「稲荷に伝わる秘薬を持参した。これでどのような傷も癒えるであろう」

頭を下げる男。


「で、九尾は何処に?」

「あの奥の部屋です」

立ち上がり奥に進む男。

その後を続こうとする葛の葉。


しかしふと、向きを変えてその前に立ちふさがる男。

「まことに失礼ですが、その物騒なモノは置いていってくれませんか」


「物騒? これは薬だと言ったであろう」


「いえ、そのふところの『モノ』ですよ」

―その言葉に、一つの溜息ののち、葛の葉は無表情にふところに手を入れる。


取り出したのは布にくるまれた棒のようなモノ、その布をするすると解く。

それはキラキラ光る小刀、宝石がちりばめられた美麗な鞘を抜き払うと、更に光り輝く刀身。


「宝剣『七星刀』…これでさえも通常の九尾には通じがたいが―」

「しかし今この時、あの大妖が人事不省など、今までになき『天祐(てんゆう)』!」

葛の葉の上に白い狐耳がせり上がっていく。

「どけ、『命婦神(みょうぶがみ)』様の命である。卿であろうとも邪魔者は許さぬ!」

見つめ合う、短剣を振りかざした稲荷の御使いと「男」。動かない時が過ぎる。


ぽつりと男が言う。

「…気は済みましたか?」


「分かっておったのか」

宝剣を鞘にしまう狐耳。


「葛の葉さんが来られた時点で察していました」


「お上も物好きよの、あろうことか九尾の命を、救えとは!」

宝剣を傍らの机の上に置く。


「一つだけ聞きたい」

「お主は今回の事で九尾に恩を売り、取り入るつもりなのか?」

「言っておこう十中八九、いいや九分九厘裏切られるぞ」


「助けると決めたのは私ですが、その結果どうするか決めるのは彼女―」

「私がこう決めた以上、すべては織り込み済みですよ」


「『助けると決めたのは私』、ふふ『こう決めた以上、すべては織り込み済み』か…」

「我の若い頃そのままの―」

ふと顔を背けた後、葛の葉狐は向き直り、きっぱりと言う。

「あいわかった、九尾の治療、最善を尽くそう」


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