真剣な大人の会話 一個め
街の片隅の幾つかの事務所が入った古いビル。そこで男は机に向かっている。
いや、何かを待っているよう―
するといきなり扉が、何の前触れもなくガチャリと開く。
ひょいと顔を出すのは「ママ」。
「はーい」
「おや、ママから来るなんて珍しい、今日は天気雨かな」
「あはは、嫁入りしろって?、御免だわ」
「で、何の御用ですかな?」
「うふ、前から言ってたでしょ、『一杯おごる』ってさ」
「ええっ、ママが約束を守ってくれるなんて! これは明日は槍が降るんじゃ?」
「なによ、あたしは鬼畜なの?」
「いえいえ、鬼や畜生、魑魅魍魎をすべてを統べる存在でございますよ」
「ふふ、もうお世辞はお腹いっぱい、行きましょうか」
「おっ、腕まで組んでくれるのか、ホントに珍しい」
「さあ、明日は何が空から降るのかしらね?」
「おいおい、この世を滅亡させないでくれよ」
「うふふふ、どうかな、やっちゃおうかなー」
そして着いたホテルのラウンジ…
カチンと合う二つのグラス。
「しかし、あれだけの傷がたった一週間で全快なんて、さすが『ママ』だな」
「ま、今回はアナタのおかげで助かったわ」
「うわ、『ママ』が感謝してくれるなんて、これは―」
「…ふふ、もう降らせるものは思いつかないわ。いえ、それどころか―」
ママは身を乗り出し、両手で男の手を取り、熱く握りしめる。
「心からのお礼をしなくっちゃ、ねぇ?」
「おや、なにかいいプレゼントを貰えるのかな?」
「それは見ての、お楽しみ―」
「ここの最上階のスイートを取ってあるわ、そこで…、うふ、よぉーく、見て…」
最上階スイートルームの扉が開く。
「…さっき、フロントの係がなんか、妙な視線で見ていたわね」
「まあ、今晩は窓から『ニンジャさん』は転がり込んでこないから、安心してくれ」
「まあ、『あの』後始末は、ちょっと手間だったんだがね…」
「ふふ、あんたと知り合ってから、何だか波乱万丈で面白いわ」
「で、『いいプレゼント』はどこなんだい?」
「いま、用意するから、ちょっと待っててね…」
最上階の大きな窓からは、今まさに沈んでいく夕日の最後の残照が望める。
しげしげと見つめる男、何かを決心したような吐息を吐きだす。
「お・ま・た・せ…」
「―ほう!」
振り返った男からは、言うつもりがなかったがつい出てしまったのが、良く分る感嘆が漏れる。
「『超高級勝負下着』、『忘れられない夜』、『全てを見せてあげる』、ふふ―、いままでアナタをさんざん焦らせちゃった『全て』を、今夜あげるわ…」




