救いがあるかもしれない会話
男はちら、と外を見てまるでわざとのように言う。
「ふむ、では、コイツの命の火が消えるのを、そばでじっくりと見るとしますか」
男は部屋のベランダ側を背にして、『玃猿』のそばにしゃがみ込む。
男のスーツのベルトの、今度は右辺りのポケットが開く。
現れる筒状のモノを身体に隠すように静かに、『玃猿』の背中に押し当てる。
―プシュッ、「高圧注射器」の薬剤が注入される。
猿妖の身体がピクリと動き、やがて眼が開く。
「強力な鎮痛剤と抗がん剤です、すぐ楽になりますよ」
「こんな、情けなど、いらん…、殺せ―」
「…『玃猿』さん、私と手を組みませんか」
「は?!」
「動かないで話してください、外から見張られています」
「外?」
「偵察ドローンがこの窓の外にいます」
「我々にこんな仕打ちをした、お前の話を信じろと言うのか」
「お仲間のお猿さんたちの事でしたら、死んではいません、空砲の衝撃で気絶しているだけですから」
「な…?!」
「まあ、すぐには信じられないでしょうが、…ではこれは?」
スマホを取り出す。そしてまた、外の見張りに聞こえるように言う。
「そうそう、マヌケな死に顔を記録しておきましょう」
言いながら、スマホをその顔の近くに差し出す。
差し出されたそのスマホの画像、狐耳の婦人に抱きかかえられる、二人の小さな猿の子供ら。
「稲荷神の使いの方に、無理を聞いていただきました。アナタのお子さん二人は、このとおり無事です」
驚きの表情の猿顔。
「なんで、なんであの子らの事を―」
「『組織』からタレコミがあったのは事実、しかしそれは『大陸』の私の知り合い、いわゆるエージェント経由でした」
「そのエージェントがあの『組織』の非道を見るに見かねて、私に打ち明けたのですよ」
「ね、『玃猿』さん、この世は悪に満ち満ちているように見えますが、そうでもない」
「あの『組織』はアナタの善意を食い物にしています、それなら私は、悪意を食い物にして、善を行ってやりますよ!」
男は言ってしまった事を後悔するように、
「すみません、ふ、私が『善』などであるはずが…」
男の独り言は、目の前の『玃猿』のすすり泣きにかき消される。
「何で、なんで気づかなかったんだろう…、アイツらが、信じられないと分かっていながら、なんで―」
「後悔は後にして下さい、この場の後始末は、私に任されています」
「ふ、ごまかし切ってやりますよ」
「…すまん」
猿顔の眼に涙が流れる。




