とても怪しい客と「男」の会話
倒れ伏す猿たちの間をゆっくりと進む鋼鉄の、男の姿。
「あの奥の寝室あたりですか、…む?」
ずる、べちゃ―、ぐちゅ、ずるる、がつ、がつー
何かをしゃぶる、いやむさぼり食うような、音…
奥の部屋を進み出た男が見たのは、ズズズズ、というような音を纏い、巨大化していく猿妖の背中だった。
「あーあ、これは、一歩遅かったってヤツですか」
振り返るその真っ赤な口に、見る間に鋭い牙が大きくなっていく。
その傍らに見える、眼をつむったママの血の気の引いた、真っ白な横顔。
「やれやれ、カッコよくヒロインを助けるシーンだと思ってましたが…、うまくいかないモノですね」
止まらない巨大化、男の視線が更に上を向いていく。
それに加え体幹や、腕や肩の筋肉も、原形が思い出せないほど、分厚く力強くなっていく。
「…ほどほどにしてくれませんかねえ、チート級は勘弁してくださいよ」
ごん、と大猿妖の頭が天井を打ち、しぶしぶのように背の伸びは止まる。
「なんという力だ、これが九尾の生命力―!」
見せつけるように拳を握る『玃猿』
「これだ、これが私の求めていたモノ!」
「そんなセリフ、ライトノベルなら死亡フラグっぽいですが、現実はどうでしょうかね、まあやってみますか」
右腕の銃身を収め、今度は左手を差し伸べる。
ガチャリ、とより大きな銃身がその左の二の腕に現れる。
「これならどうですか!」
ダダダダダダダー
音も衝撃も段違いの銃撃が、大猿妖の胸あたりに炸裂する。
だが―
ビシ、ビシ、ビシッ、ビン、ビィンッー、弾かれた多くの銃弾がばらばらと、あたりにはじけ飛ぶ。
「…はは、生身に銃弾が効かないパターンですか、今度はこっちに、逆『死亡フラグ』っぽいですね」
ガオオッー!『玃猿』が凄まじい勢いで男に襲いかかる。
猿族の素早さに、異常な生命力が加わった打撃。速さと強さを兼ね備えた攻撃に、火力はあっても機動力で劣るパワードアーマーは、あっという間に追い詰められる。
ベギィー!かすっただけで、左腕の銃身がへし折られる。
よろける鋼鉄の男、ここぞとばかりに大きく拳を振り上げる大猿妖。
ドグワシャァン!!!
腕をかざし防御の姿勢を取る鋼鉄の身体をものともせず、巨大な拳が男を吹っ飛ばす!
ドガアン、バリ、ベキッ、ドガッー!
派手に壁を四枚ほど突き破り、三つほど先の部屋で、仰向けに倒れる男。
動きは、ない。
「素晴らしい、すばらしい力だ!これなら人間どもを支配できる!!」
そして止めを刺そうというのか、わざとのようにゆっくり歩み寄る。




