獣王襲来 【亜人種強制収容所編】 その20
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敵の軍勢を一時撤退に追い込んだ獣王レオニダスと300名余りのタルパカス兵たち。
城壁の内側に帰還して、城下町の通りを凱旋していた。
街の住民たちから、祝賀パレードみたいな盛大な歓声をうけている。
背後から城壁周りの魔法兵や、無数の砲門からの援護があるとは言え、あまりにも多勢無勢の戦い。
いくら獣王と歴戦のタルパカス兵たちとはいえ色濃く滲む疲労を隠せてはいない。
それでも、彼らの目はギラギラとした戦意をいまだに失っていなかった。
城下町の市民たちは沿道に集結して、傷だらけの戦士たちへ熱狂的な声援を浴びせている。
「我らが王!!!!」
「最強の王、レオニダス!!!!!」
「レオニダスさえいれば我らが負けることは決してない!!!!!」
カルタゴス市民にとって、この獣王の存在こそが最後の心の拠りどころ。
最後の希望。
が、喝采を浴びているレオニダス自身が一番暗い心持ちでこの光景を眺め返していた。
悲観的で絶望的な観測、それがこの歴戦の戦人の心を覆い尽くしている。
―――第三国からの援軍など…………来ない。
レオニダス王は、その事実に誰よりも早く気づいてしまっていた。
大国チュエルブを敵に回してまで、我々を助ける理由が、政治的にも地政学的にも乏しすぎる。
ましてや、亜人種である我らを命を賭けてまで助ける理由など人族には全く無い。
だからこそ、チュエルブの軍部は最初の侵略対象を、この亜人種の国カルタゴスに選んだのだ。
亜人種の国に侵攻したところで、第三国は誰も手出しをしない。
その現実を見透かして……………。
夜になれば、城下町も城も、漆黒の闇に包まれた。
重武装兵団による完全包囲。
チュエルブの工作部隊によって、他国からの魔導エネルギーの送信網は完全にシャットアウトされ、
いわゆる停電のような状態がここ何か月も続いていた。
水道管も連中によって入念に破壊され、もう城下町には水も届いていない。
城壁内にいる魔導士たちによって、魔導エネルギーの自家発力と水の精製が続けられていたが、
包囲したチュエルブ軍から、
絶えず強力な魔封じの呪文をかけられているから、
魔法術式を展開する事さえ難しかった。
そうじゃなくても、数か月にも及ぶ魔導エネルギーの自家発力、
国民全員分の水の精製に耐えられる魔導士なんてこの世に存在しない。
それこそ、数世紀に1人レベルの大賢者が複数人いたとしても、
カルタゴスのような大都市の魔導エネルギーと生活用水を全て賄うなんて不可能だった。
今はまだ、古井戸を再利用することで飲み水を確保できていたが、
どうやら連中はその事を察知して、この辺りの地下水脈を毒で汚染する工作を始めたようだ。
《……………連中は、どこまで性根が腐っているのでしょうか》
真っ暗闇に包まれ影絵になったカルタゴス城と、城下町。
民は、節水のために常に喉の渇きに苦しみながら、暗闇のなかにジッと身をひそめている。
空からの奇襲、それに火事も警戒しければならないから、夜間に個人宅で火を起こすことも禁止されていた。
もちろん、完全包囲のさなかで他国から食糧が入ってくることは無い。
今はまだ国家が備蓄していた食糧を放出し、
国民向けに炊き出しをすることで何とか飢えをしのげていた。
が、その備蓄が底を尽きるのも、時間の問題だった。
―――このままでは、国民全員が、城壁のなかで飢え死にすることになる。
暗鬱な心持ちで、レオニダスは思案する。
チュエルブ側は、このまま完全包囲を続けてただ待てば勝利は確実なのだ。
だからこそ、全軍をぶつけてレオニダスとタルパカス精鋭部隊を一気に叩き潰しに来ないで、あえて泳がせている。
わざわざ、精強なタルパカス精鋭と正面から戦わなくても、このまま兵糧責めを続ければ勝てるのだから。兵を無闇に損耗させる必要も無い。
逆に、レオニダスたちが特攻をしかけて全滅すれば、その時点で王都カルタゴスは陥落する。
レオニダスの方も、そこが分かっているから時間稼ぎ以上の戦法はとれなかった。
城下町の大広場。
そこだけは暗闇の中で大々的に火が焚かれて、
毎晩、大規模な炊き出しが行われている。
暗闇の中の炊き出し、
列を作って並ぶ獣人族の人々。
どこかハロウィンナイトのような、
魔女の集会のような、
独特の幻想的な雰囲気が漂っているけど、
日に日にとぼしくなっていく炊き出しのメニューに、
空腹に耐えられない子供たちが泣きわめく声が響き渡っていた。
どんな剣撃の痛みよりも、銃撃の痛みよりも、
子供たちの泣き声がいちばん、レオニダスの胸にこたえた。




