獣王襲来 【亜人種強制収容所編】 その19
不意に、獣王の目が、マネキン人形みたいに生気を失った。
《寄生体が肉体の支配権を取り戻した………!》
愛娘に抱きつかれた感触がありありと残ってる背中や脇腹のあたり、
そこにレオニダスの巨体が回り込んできて、抱きすくめてきた。
極限まで圧縮された強化ゴムみたいな上半身の筋肉が、異様なパワーで密着してくる。
世界が目の前で、
ぐるんっと回転した。
巴投げをかけられたみたいに、視界のなかの世界が一回転する。
と、同時に身体が急降下する感覚。
そのまま、レオニダスは地上へと向かって直滑降を始めていた。
黄金の流れ星と化す俺とレオニダス。
もの凄いパワーで背後から抱きすくめられていて、とっさには引き剥がせなかった。
ジャーマン・スープレックスの変形みたいな形で、
そのまま地上へと叩きつけられる。
ズッ……………ドッ……………………ム!!!!!!
着弾点。
大地が、光の乳房みたいに盛り上がる。
そして、光り輝く母乳でも噴き出したみたいに、
純白の爆炎が天高く打ち上がっていった。
武闘の神々によるプロレス大会、
その中でも、最大級の大技が決まったかのような終末感溢れる光景だった。
ミヤコのご先祖シールドだけが、荒れ狂う世界の中でも揺らぐことなく仲間を守護している。
□□
地平線を埋め尽くすような大軍………………………
重武装兵団。
チュエルブの生体武装兵器群。
王都カルタゴスの高くて強固な城壁の周りには、今や数十万のチュエルブ軍が集結していた。
世界最大級の亜人種国、カルタゴスはもはや陥落寸前。
周辺の辺境都市も軒並み侵略され、制圧されてしまっている。
高い高い城壁に囲まれ、難攻不落といわれるこの王都カルタゴスだけが、圧倒的な兵力を誇るチュエルブの大軍を前に絶望的な抵抗を続けていた。
平和を願う人々の希望は無惨にも打ち砕かれて、
事態は、最悪の方向に進んでしまっていた。
圧倒的な軍事力をもった超大国による、武力による現状変更。
前世紀の遺物と思われていた野蛮な侵略行為が、現代に蘇える。
色々な国々で差別を受けてきた歴史をもち、
国際的に弱い立場を持つとされる亜人種国家が、その最初の餌食になった。
もはや、誰が見ても陥落寸前の王都カルタゴス。
だが、ここに来て信じられないような奇跡的な抵抗を続け、
ギリギリのところで持ちこたえていた。
戦闘民族タルパカスの王レオニダス。
彼が率いる300名余りの最精鋭部隊が、
神話的な活躍を見せて、チュエルブの大軍を押しとどめ続けていたからだ。
まさに、一騎当千。
対面し、人海戦術で押し切ろうとする数万の兵士たちと互角以上に渡り合い、戦線を停滞状態に追いやっているタルパカスの最強兵士たち。
獣王レオニダスは、その先陣を切って、まさしく獅子奮迅の活躍を見せていた。
レオニダス王の周囲には夥しい数の死体が生まれ、
その死骸だけで、戦線に長大なバリケードが築かれているほどだった。
たった300名余りのタルパカス兵のために、40日もの間、戦争の膠着状態が続いていた。
このまま粘り続ければ、
国際社会が大国による侵略という、この蛮行に気づいて、援軍がやって来るかも知れない。
第三国からの仲介がはいって、チュエルブはいずれ軍を引かざる得なくなるかも知れない。
人々が、そんな一縷の望みを抱き始めるほど、
レオニダス王とその部下たちの活躍は鮮烈なものだった。
―――これはもはや、確定した歴史のはずなのに、俺は願わずにはいられなかった。
そうだ、もう少しだ。がんばれレオニダス王…………。
国際社会がこんな蛮行を許すはずが無いだろ…………。
必ず、心ある国から救援が届くはずだろ…………。
《平和への努力も虚しく、けっきょく愚かな戦争がはじまってしまったのですね》




