獣王襲来 【亜人種強制収容所編】 その21
広場の片隅の大天幕のなかでは、タルパカス兵たちの休息所、戦場での傷を癒すための簡易病棟、それに食堂が用意されている。
その天幕内の専用食堂では、一般の市民よりはほんの少し豪勢な、栄養のつく食事が出されていた。
《戦場に出て、命がけで戦っている彼らですから、当然の優遇措置ですね》
だが、レオニダスは自分の前に大盛りによそわれた食事を前にして、あまり気が進まない様子だった。
子供たちが空腹に泣いている声が耳について離れないのだ。
「あなたが食べていないと、他の兵士たちも気にしてしまって食が進みません。
どうかお食べてください」
前よりもほっそりと痩せているカサンドラ姫が、優しい微笑みを浮かべながら獣王を諭す。
自分はほとんど食事を口にしていないのに、
ツラい表情一つ見せず、逆に夫の身を案じている。
妻の健気な姿に、獣王は胸がいっぱいになってしまう。
カサンドラの思いやりに応えるためにも、少しでも食事をとろうかと目の前の骨付き肉をつかんだとき………………
どこから軍人用の天幕に入り込んだのか、
小さな子供…………子犬の亜人種がレオニダスのそばに佇んで、羨ましそうにその食卓を眺めている。
羨望にウルウルと潤んだ瞳。
その子犬の少年の目があまりにも切実だったので、
獣王は口にしかけた骨付き肉を思わず途中でストップさせていた。
「あ、コラ!いけません!!」
ウェイトレス係の、太めの犬族女性が気づいて、子供を後ろから抱きかかえた。
そのまま連れ去ろうとするが、
「まぁ、いいではないか」
獣王はウェイトレス係を制して、
「坊主、食べるか?」
激しくうなずく子犬の男の子。
「レオニダス様…………いけません」
カサンドラは、少し表情を固くして
「あなたの身体は、あなた一人のものではありません。
この国を護る大切な身体、国を守護する生ける盾です…………
情に流されてはなりません」
獣王はフッと微笑んで
「自分の事を棚上げにして…………」
カサンドラが満足に食事もとらずに、自分の分まで他の者に分け与えている事をレオニダスは知っている。
「お前の愛する国民が飢えているのに、自分だけ腹を満たすなど、俺にはできん」
獣王の瞳に宿る、自分への深い愛情を見て取って、カサンドラは言葉を失う。
獣王はカサンドラその人を愛するように、妻の故郷の民を深く愛していた。
本気で、この命に代えてもカルタゴス国民を守り抜こうと決意していた。
「坊主、ほかの子供も呼んでくるのだ。
できるだけ、たくさんな。意地悪せずにみんなに声かけするんだぞ?」
子犬の少年はハッハッと興奮した息づかいで、舌を出しながら頷いた。
そのまま、我を忘れて四足歩行で仲間たちのところに駆け出していく。
「仕方のない……………人なんだから…………………」
カサンドラは涙ぐみながら囁く。
「夫は、妻に似てくるものなのだぞ?」
獣王は真面目くさった顔で答える。
この一連のやり取りを見ていた歴戦のタルパカス兵たち。
「ええい!!!なんだこの不味い食事は!!!!こんなモノを口に出来るか!!!!」
「これが誇り高きタルパカス兵に出す食事か!!!?」
「そうだ!!そうだ!!食えるか、こんなモノ!!!」
さっきまで美味そうに食べていたのに、
急に変な理由をつけて、食卓を前に腕を組み始めた。
痩せ我慢をしているのは一目瞭然。
全員、ヨダレを垂らしながら食卓にそっぽを向いている。
「ちょっと待て……………お前らはちゃんと食事をとれ。
俺に続く必要など無い!!
キチンと食べんと明日、戦場で身体が持たんぞ!?」
獣王の副官にあたる、顔中キズだらけの山猫タイプのタルパカス戦士が
「王が食わないのに、ワシらだけ食事なんてできるか!!!!
この天然!!!!カッコつけマン!!!!」
腹立ちまぎれに上官を罵る。
結局その夜、タルパカス戦士たちは自分たちの夕食を、すべて飢えた子供たちに分け与えた。
その夜だけ、子供たちの空腹に泣き叫ぶ声が少しだけ途絶えたのだった。
《なんという……………尊敬すべき男たちでしょうか》




