レナの誕生日 スライム遊園地 その22
□□
町から少し離れた、だだっ広い草原地帯に来た。
まわりの半径2,3キロは背の低い雑草と野花が立ち並ぶばかり何も無い。
なにか、新事業を始めるにしたらもってこいの立地。
《誕生日のデートでこんなところに連れて来られたら、普通の女の子ならブチギレ案件なんですけどね。レナはむしろさっきより楽しそうですね》
いや、デートってわけじゃないんだが…………
確かにレナは、高価な宝石店の陳列棚を前にしているときよりも、今のほうが明らかに嬉しそうな雰囲気を漂わせている。(無表情なのは変わりないんだけどね)
野花と、そのまわりをひらひらと舞う蝶々を眺めているだけでじゅうぶん楽しいみたいだ。
《最愛の男、マサムネさんと一緒にいるからですやん(ニヤニヤ)》
なんでそういうときだけ関西弁なるんスか?
「ちょっち、落下物に気をつけてな?」
レナに一応、注意するように呼びかけて、俺はβ版をインストールした。
髪が純白に染まって、あらゆるステータスがケタ違いに跳ね上がる。
体内の魔力を練り上げていく。
一つの銀河系の開闢のような、天文学的な規模で。
震える大地。
圧倒的な魔力の高まりで薄暗くなった空に、
台風みたいなスケールの魔法陣が浮かび上がる。
超巨大召喚術式。
万単位の一流魔術師が全精力を注ぎこんでも、まだ追いつかないような規模の召喚術式だった。
俺の魔力に共鳴して、レナの胸のなかの大魔王細胞も、紅い光の花みたいに薄く点滅している。
ぬぅぅううううううんん……………
召喚術式の向こう側から、何かが現れてくる。
その姿を見つめていたレナの目が、みるみるうちに輝いてくる。
【ラストエンペラード・エクサ・スライム】
それは、見たことも無いくらい巨大な、
《《スライム》》だった。
半径数百メートルにも及ぶような超絶ビックサイズのスライム。
きゅんっ。
無表情のレナの胸のあたりに、初めて見るような巨大ハートマークが浮かび上がっていた。
《おそらく、人類が遭遇したなかでも史上最大のスライムでしょうね》
王冠をかぶった、【平行異世界】からの来訪者。皇帝の名を冠する最強のスライム。
ぽよよよよよよよよよんっ
まわりの時空間ごと歪ませるくらいの勢いで、
ぷよぷよと巨体を揺らしながらこちら側の世界に完全顕現した。
【チートコード入力】
その巨大な身体に浮かび上がるコンピューター言語みたいな光り輝く文字列。
俺は皇帝スライムを召喚するのと同時に、
β版インストール時の自分の無意識に直列されている【世界記憶層】から、
現実世界のある情報を読み込んでいた。
それは、日本に存在する有名遊園地やテーマパーク、そのアトラクションの設計図のデータだった。
【世界記憶層】から読み込んできた、その設計図のデータを、
3Dプリンタよろしく天空に浮かぶ超巨大な皇帝スライムの可変中のボディへと入力していく。
《過去行ってきた【チートコード入力】のなかでも、間違いなく最大級の大仕事……………
未曽有の大事業です……………》
ぎゅにょぉおおおおお…………………………
天空で、複雑怪奇な形状へ生まれ変わっていく皇帝スライム。
……………そして。
ずしぃいいいいいいいいいん………………!!!!!!
異世界の平原に、
現実世界の遊園地やテーマパークのいいとこどりをした究極の遊園地
それも、すべてのアトラクションがスライムのボディで出来ているという究極の【異世界遊園地】が出現していた。
《どれだけチートを極めれば気が済むんですか?》
レナの瞳は、興奮のあまりに今にも涙がこぼれそうなくらい潤んでいた。
少し戸惑いながら、どことなく不安な様子で
「………………いい、の?」
「ん?」
「遊んで………………いいの?」
「ったりめーじゃん。
あれ、端から端までぜ~んぶレナのもんだよ?」
永久凍土が、一筋の陽射しに切り裂かれて溶けるみたいに、
レナの滑らかな頬に涙が伝った。




