雪の女王の脳内 その19
リムルルは原初神竜へと変身すると、
俺を迎えに傍らを低空飛行する。
桜色の雪原を蹴って、鮮やかに漆黒の竜の背中に飛び乗ると、原初神竜は急上昇した。
【雪の女王】の清らかな体内をドス黒く汚していく【病魔】の母船に向かって突撃していく。
【病魔】の母船から、何かが射出された。
それは、高性能ミサイルみたいに複雑な軌道を描きながら、俺たちの方へ飛んでくる。
《敵影確認。こちらをロックオンしています。
……………索敵完了。対象、敵ステータスの情報を表示します》
まるで、90年代のポリゴンのイメージ画像を3Dプリンタかなにかでその場に具現化したみたいな、奇怪な物体が3体俺のまわりに現われる。
【香港A型インフルエンザ】
【武漢肺炎】
【スペインかぜ】
奇怪なポリゴン体の上に、SIRI姉が索敵したその物体のデータが表示される。
普段、気をつけようと思っても気をつけようがないウイルスってヤツと、こうして直接対面するなんて、不思議な気分だった。
《人類を長年、苦しめ続けた末に異世界で魔物化した病原体たちです。そのへんの並みのウイルスではありません。気をつけてください》
ポリゴン体のような奇怪な形状のウイルスたちが、
ミサイルみたいな細長い形に変化してこちらに突進してきた。
原初神竜の超旋回力で、それらのミサイル状のウイルスを滑らかに避け切る。
米空軍の司令官が目撃してたら、どこの最新鋭戦闘機だと目ん玉引ん剝くようなアクロバット飛行。
避けたと同時に、【零の息吹】を吹きかけようとするリムルルを後ろから首根っこを抱きすくめて止める。
「お前のエントロピー増大の息吹が、もし【雪の女王】の体内に誤爆したりしたら、とんでもない大惨事になるかも知れん」
《一瞬で老衰して死んでしまうかも。
しかも、ここは心臓ですからね。
《《ここの部位》》が急激に老化したりしたら、誰にとっても致命傷になりかねません》
………ここの部位って。ハツみたいに言うな。
「ところでさ、ウイルスってのは、どうやったら殺せるんだろうな?
インフルエンザにかかったとき、この世界の人たちはどうやって対処してきたんだ?」
《さぁ、どうなんでしょうか。
『ウイルスの毒性』と表現するくらいですから、
【解毒魔法】で症状を改善することは出来るのかも知れませんね》
しかし、それだとウイルスに感染した後の対処療法ってイメージだな。
《じゃあ、アルコール消毒でもしてみてはいかがでしょう?》
……………アルコール消毒。
なるほど。殺菌、消毒な。
じゃあ試しにやってみるか。
俺は賢者スキルの【魔法創成】を発動する。
左手に【浄化魔法】を発動し、
右手には【身体強化魔法】を発動する。
両手を組み合わせて、この世には存在しなかった新種の魔法を創成する。
あらゆる汚濁を洗い流す【浄化魔法】の水色の光。
それをオーラみたいにして全身に纏いながら、強烈に強化されている俺の肉体。
「名づけて【暴虐の消毒係】ってとこか」
《ものすごくガラの悪くてマッチョなオジサンが消毒液、片手に迫ってくるイメージですかね》
方向転換したミサイル形状のウイルスたち。
グングンと迫ってくる。
俺は、清涼なる浄化魔法の光に包まれた右拳を、
ポリゴンみたいなウイルスの表面に叩きつけた。
どっ………………
ぱぁあああああああああああああん!!!!!!!
ゾウ亀サイズの地雷でも踏み抜いたみたいに、
ポリゴンっぽいウイルスの一体が粉々に飛散した。
《マサムネさんの通常パンチの威力で飛散したのか、
浄化魔法の効果で吹っ飛んだのか、見分けがつきませんね》
確かに。優しく撫でるだけにしとけば良かった。
ばっ!!!!!
ぱぱぱぱん!!!!!!!!
空中に飛び上がって、残り2体のウイルスも殴り、蹴り散らす。
が、態勢を立て直し、周囲を見渡した瞬間だった。
自分が、凄まじい数のウイルスたちに取り囲まれている事に気付いた。
何百って何千って数のポリゴン状のウイルスたち。
それらが、みんなでミサイルみたいな楕円形の形状に変化して、
一斉に俺目がけて突撃を開始した。
「…………なろぉ」




