雪の女王の脳内 その18
跳ね起きて、あたりを見回す。
この広大な空間を形作っている肉のドームが、激しく蠢動していた。
大地震にでも見舞われているみたいに、中心の【桜雪樹】が大きく揺れている。
「なんだ……………これ」
同じように寝入りばなを叩き起こされた風のロゼッタが、
「まるで、【雪の女王】が激しく咳き込んでいるみたいな衝撃ニャ…………………
同時に、心臓も不整脈を起こしているようだニャ…………………」
「【雪の女王】が、病気にでもかかっているっていうのか?」
……………ず……………ずず…………………………
…………………………ずずずず…………………………
重々しい地響きをたてながら、心臓内部=巨大な肉の空洞のなかに、得体の知れない浮遊物体が侵入してきた。
異形の異星人が乗って来た、宇宙船みたいに不気味で巨大な浮遊物。
黒い、昆虫の蛹みたいな
真っ黒い胎児の木乃伊みたいな異様な形をしている。
その不気味な形状の浮遊物体から、女の忍び笑いみたいな音が聴こえてきていた。
「おい………………なんだよ、あれ?
なんで【雪の女王】の体内に宇宙戦争みたいな異物が浮遊してんだよ」
また、激しく鳴動する心臓内部の空間。
この肉体の持ち主が苦しんでいるのが、極小の存在である俺たちにも伝わってくる。
「あれは………………病原体ニャ…………………」
「…………………はぁ?」
「あまりにも大勢の人の命を奪いすぎて、ついには魔物化した病原体。
…………………【病魔】ニャ」
モンスター化した病原体!!!?
風邪やらインフルエンザやらが体内でモンスター化したって事かよ?
《古来より、人類の宿敵として幾度も襲いかかって来た伝染病、疫病たち。
それらが邪気を帯びて、ついにはモンスター化したとしても不思議では無いかも知れないですね》
つまり、【雪の女王】の体内に発生しているこの異変は、今まさに女王の身体が病魔に侵されているって事なのか?
ドス黒い、異星人の箱舟みたいな奇怪な浮遊物体から、得体の知れないモノたちが次々に射出されていく。
「【病魔】の母艦が…………………様々な細菌や、ウイルスを体内にバラ撒いているニャ…………………
まるで戦場に兵士を送り込むみたいに、色んな病原菌やウイルスを使役してるんだニャ」
とんでもなく質が悪いじゃねえか、それ!!!!
空間の中心にたたずんで美しく咲き誇っていた【桜雪樹】
それが、無数の病原体やウイルスに纏わりつかれて、みるみるうちにドス黒く変色していく。
枝の末端の方から、中心へと、ドス黒い腐敗は侵食していく。
優しさに溢れた奇跡みたいに美しい風景が、黒く、悪意に汚されていく。
それは、胸糞が悪くなるような光景だった。
「あったかい、桃源郷みたいな場所を、土足で踏みにじりやがって。あの野郎………………」
ズズズズズズズズ…………………………!!!!!!
この空間の震えは、その間もさらに悪化している。
《このままやらせておけば、【雪の女王】は全身を病魔に侵されて死んでしまうかも知れません…………。
そうなれば、涅槃級絶対氷魂零度の特殊環境もこの世界から永久に失われてしまう》
「…………………やらせはせんよ」




