雪の女王の脳内 その16
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今まで通って来たどの空間よりも圧倒的に広大な場所に出た。
その、大都市がまるまる1つおさまりそうな広々とした空間の中心に、
一本のとんでもない大樹が生えていた。
その大樹は、桜の花びらによく似たピンク色の花びらをつけている。
紅葉した山々の枝をぜんぶ集めたような物凄い数の枝、
その樹木が広げている枝の、端から端までの信じれない広さ。
大きな街をまるまる枝の下に隠してしまうんじゃないかってくらいだ。
その枝下に広がる膨大な木陰の量たるや、
トロルを10000匹集めてきても到底、飲み尽くせないってレベル。
その壮大な枝ぶりの全てに、満開に咲き誇ってる桜そっくりの花びら。
桜の花びらによく似た《《それ》》が、空間全体に舞い散っている様は壮観だった。
宇宙規模の桜吹雪ですか?って感じ。
そのピンク色の花びらの一片が俺の肌にあたる。
「……………雪?」
それは、桜色をした雪だった。
空間の中央に立っている大樹………………
その枝についているのは、無数の桜色した雪の華なのだった。
その雪は不思議なことにまるで冷たくなくて、
むしろ触れた部分がじんわりと温かくなる。
空間を覆いつくすように舞い散っているこの桜吹雪、
そのぜんぶが、温かなピンク色の雪だなんて。
《奇妙すぎる雪景色ですね》
「ここが雪の女王の心臓部。
あの真ん中にそびえ立っている肉樹は、
【桜雪樹】って呼ばれているニャ」
まるで前にも来た事があるかのような口ぶりだな。ニャンコ大先生。
《どこの国でも、先生は知ったかぶりの名人ですからね》
「雪が温かいなんて……………不思議……………………」
リトさんが桜色の雪を手のひらで受けて、つぶやく。
花びらの絨毯によく似た雪原に向かって、リムルルとグラナゴスが歓声をあげながら駆けていく。
ピンク色の雪原のはずなのに、この空間全体が春の陽気に包まれていて、防寒具がちょっと暑苦しく感じるくらいだった。
「この雪、あまりにも冷たすぎて熱く感じるとかその手のトリックじゃないよな?」
《普通、一定の温度になったらただの水滴に戻るはずですからね》
身体をポカポカ温める優しい雪は、
俺の肌の上でも溶けずそのまま洞窟の底に落ちていく。
今まで通って来たエリアとは違い、この空間には攻撃的な氷雪系モンスターも全くいないみたいで、
蝶々《チョウチョ》みたいな形状をした、20センチほどの雪の精が、ときおり宙を舞っているぐらいだった。
「とりあえず危ないモンスターも出なさそうだし、ここで休憩するか」
そう言いながら、すでに俺はあくびを噛み殺していた。
さっきまでの氷雪地獄から、急に小春日和みたいなポカポカの空間に放り出されたのだ。眠気の沼にズブズブ足がハマり込んでいる。
隣にいるリザリザさん。真冬の北欧みたいなモコモコの防寒具をいそいそと脱ぎだすと、
そのまま下着姿になった。
「そこまで脱ぐな!!!!!!」
うぅぅぅう…………………とメガネの奥で涙ぐみながらうめくリザリザさん
「ここで脱がなきゃ、どこで脱ぐチャンスがあるって言うんですか!!!?」
なぜそんなに脱ぎたい!!!!?
「あ~もう腹減ったよ~」
エスメラルダは尻をあげたまま、上半身だけ桜色の雪のなかに倒れ込む
「マサムネ~なんか食いもん出して~」
木の上から墜落したナマケモノみたいなポーズで、エスメラルダが足元からねだってくる。
こいつの旦那になる男は苦労するだろうな………………
《一夫多妻を宿命づけられた男は大変ですね。
色んなダメン女の面倒を見なきゃいけなくて》
いったい、誰のことですか?
その前途多難な人生が確定してる不幸な男は誰のことですかな?
《あなた以外に誰もいなくね?》
てか、ダメン女って、なんスかその耳馴れないフレーズ。
桜吹雪……………じゃなくてピンク色の温かい粉雪が舞う中、
俺たちは大樹のしたにマットを敷いて、休憩を取ることにした。
みんなで、幻想的な雪桜を眺めながらのランチタイムだ。
まさか、猛烈な氷雪地獄を抜けたさきに、こんなポカポカしたお花見スポットみたいな場所があるとは。完全に予想外。
《しかも、ここが【雪の女王】の心臓だとはね》
ニャンコ大先生いわく、このポカポカした温かさは、雪の女王の愛情の温かさだって話だ。
だとしたら、雪の女王ってのは相当、愛情深いオンナなのかも知れない。
《もし、この女に惚れられたら大変ですね(ワクワク)》
なにをワクワクしてんスか?
リムルルとグラナゴスは、雪の結晶みたいな蝶々を楽しげに追いかけている。




