雪の女王の脳内 その15
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冥府みたいな紫色の雪原を抜けて、
真っ赤な吹雪が吹き荒れるエリアに突入した。
血の池地獄と、氷雪地獄がコラボレーションしてるみたいな殺伐としたエリアだった。
大動脈にでも入ったのか、今までよりも遥かに広くなったそのエリアでは、
真紅の、氷のゴーレムがゆっくりと歩き回っている。
高層ビルみたいなサイズ感の赤い氷の巨人たちが、
のっそり、のっそり、大空に浮かぶ雲みたいなスピードで。
吹雪の音以外、何の音も聴こえてこない。赤く、静謐な空間。
襲ってくるわけでもなく、あてどもなく歩き続けるその氷のゴーレムたちの足元をすり抜け、俺たちはさらに先へと進んでいく。
このエリアに来るまではミヤコのご先祖シールドに乗って空を飛翔したり、
みんなでリムルルの原初神竜の背に捕まって超高速移動したり、大幅に移動時間を短縮できた。
だが、あの赤い氷の巨人たちの視界を横切って刺激するのはどう考えても得策じゃない。
あの巨人たちそのものっていうより、その戦闘で起こる衝撃や音で免疫細胞を呼び起こすのが怖かった。
さすがに二兆個の免疫細胞たちを敵に回すのはマズい。
《それにしても、まるで迷子みたいですね、あの氷の巨人たち》
本当に、目的も分からずにさ迷い歩いているだけって感じだな。
そういう事情で、殺伐とした赤い雪原を歩きづめに歩いているなかで、みんなが疲労困憊していくのが目に見えて分かった。
回復魔法はかけていても、身体の芯の部分に疲労が蓄積してきている。
人間ってのは回復魔法で体力を回復していれば、無限に動き続けられるってもんじゃない。
きっちりとベッドで寝て休養しないとどっかでぶっ倒れる。
魔法じゃ、身体の芯に蓄積した疲労は取り切れないのだ。
《じゃなきゃ、奴隷は無限ホイミで寝ないで働かされてしまいますもんね》
なんスか、【無限ホイミ】って、その恐ろしい字面。
しょこたんがかけてくれるホイミはあんなに可愛らしいのに、
かける人間がブラック企業経営者に変わるとこうも恐ろしい呪文に変貌するのか。
……………しかし、こんな真っ赤な氷雪地獄の渦中じゃ、いくら寝っ転がってもロクに回復できそうもなかった。
「もう少しだニャ。もう少しで、休める場所にたどり着けるニャ」
少し口を半開きにして、荒い息をつきながらロゼッタが言った。
「………………休める場所?
この先にそんな場所あるのか?」
雪の女王の体内は、脳に近づけば近づくほど極寒に、より過酷な環境に近づいていくという話だった。
その理屈なら、この先にはさらなる氷雪地獄が待ち受けているだけだ。
「あるニャ。唯一の、安息の地が」
ロゼッタは自分の胸を指さす。
「ここニャ」
ちょっと意味が分からない。
「……………おっぱいに顔をはさんで暖をとれって事か?」
《ぱふぱふ防寒法》
「ニャンでやねん!!!!!」
ニャンコ大先生の肉球で後頭部をシバかれた。
「【雪の女王】の体内で唯一の温かみが差す場所。
それが心臓ニャ」
……………し、心臓だと?
《イメージだと、一番危険な場所って感じがしますがね。
全身に猛烈な勢いで血液を送る場所だし》
【雪の女王】の場合、人間とはぜんぜん循環器系のメカニズムが違うのかも知れないな。
「雪の女王の心臓には【南国の冬】が詰まってるって言うニャ。
女王の心の温かみが、極寒を和らげているんだニャ」
いや、南国の冬って…………………
結局、冬は冬なんかい。
《【雪の女王】でもハートは温かいんですね》
「とにかく、この血みたいな真っ赤な吹雪を抜けられるんならどこでも構わないわ」
リトさんはゲンナリした表情をしていた。
グラナゴスだけは楽しげに、赤い氷を使って魔神皇帝時代の自分を作成していたが。
《むしろ魔界に環境が似ていて落ち着くのかも》
みんなで白い息を吐きながら、さらに歩を進めていく。
すると、赤い吹雪がおさまり、だんだんと景色が変わっていった。
積もっている雪が、清らかなピンク色をしている。
甘い匂いをはらんだ穏やかな風が、顔を撫でたような気がした。
ちょうどそれは、春の風に似ていた。
「ついにたどり着いたニャ」




