喫茶店
「勘違いすんなよ!別に百合のことが好きだからじゃねぇーからな!ただ、みきの言う通りになるのを阻止するために」
と玲くんは言い訳を始めた
「みきちゃんは他に何言ってたの?」
「・・・それはいえない」
教えてくれないんだ
「信じてくれよ!別にひなのことが嫌いになったわけじゃねぇ!ただ、これから1年くらい距離置こうって話で」
言い訳は続く
「・・・それが『選べない』って話になるの?」
「あーちょっと言い過ぎたっていうかさ」
「わかった。バイバイ」
もういいや
立ち上がって階段を下ろうとすると玲くんに手首をつかまれた
「おい、ひな!」
「もういいよ」
下を向いたまま
「あ?」
玲くんの手をふりはらって言った
「もういらない」
捨てられるんじゃない
私が捨ててやる
元々そのつもりだったんだ
走って階段を下り、可動式黒板や椅子の壁を通り抜けた
今度は戻さず、通った後をそのままに
・・・玲くんは追いかけて来なかった
「あれ?ひな、帰ったんじゃなかったの?」
昇降口でゆきちゃんに会った
「ゆきちゃん」
何、この声
泣きそうな
情けない声
「ひな、ケーキ食べに行こっか!」
驚いて私の顔をみていたゆきちゃんはにこっと笑って誘ってくれた
私は無言でうなづくとゆきちゃんと手をつないで歩き出した
「いらっしゃいませー、おぉーゆきちゃんいっらっしゃい。今日はひなちゃんも一緒かい」
「うん!恋バナ話すから奥の席いいかな?」
「女子高生だねー、いいよいいよー」
ゆきちゃんの家の近くにある昔ながらの喫茶店
ゆきちゃんは幼い頃からここの常連だ
私もゆきちゃんに連れられて2回、来たことがある
今回で3回目
私を席に案内するとゆきちゃんはすぐにおじさんのもとへ注文をしに行った
両手にオレンジジュースを持ち、席に戻ってきたゆきちゃんは
席に座りながら
「何があったの?」
と聞いてきた
「ちょっと・・・ふられちゃって」
「・・・ひな好きな人いないって言ってたけど」
拗ねたようにゆきちゃんがまたも聞いてきた
あ、まずいな、女子はこれだから面倒だ
「えっと、前から私のことが好きってわかってた子がね、私と他の人と比べて私を「選べない」って言ったんだ」
「その子がひなのこと好きだってわかってたって結構ひな強気だね」
だって、好きでいてもらえるように仕組んだもの
「それにその子も「選べない」って何様?ってかんじ。あんたに選択肢があるとでも?みたいな」
俺様何様玲様です
「・・・その子がひなを好きだったとき、その子と付き合おうとすればできたよね?それをしなかったってことは、ひなは恋愛対象としてその子が好きじゃなかった」
だよね?と確認するように見てくるゆきちゃんにこくりとうなづいた
「じゃあ、ショック受けることないでしょ。それともあれか、他の人がひなの嫌いな人だから自分が他の人より劣ってるって思われたことがムカついたのか」
ゆきちゃん、すごいな
私の性格の悪さわかってたんだ
「うん、そうだと思う」
「・・・他の人って転校生でしょ」
「・・・うん」
「やっぱりねぇ」
ジュースを飲みながらゆきちゃんはしみじみと言った
「私さ、中学のときいじめられてたんだ。だから誰も知り合いのいないこの高校に入った。入学式のときさ、今度は嫌われないようにとか友達作らなきゃとかでいっぱいいっぱいだった。話しかけられるように、ダサくないようにってスカート短くして眉毛剃って興味もないのにはやりの男性アイドルの缶バッチをかばんにつけたり。・・・ばかみたいだよね。頑張って高校デビューしますな感じだったから愛美たちにバカにされて。でもひなが助けてくれた」
ゆきちゃんは両手でコップを持ちながら続けて言った
「ひなと仲良くなってすぐかな?愛美に話しかけられた。『ひなは男好きだからあんた利用されるよ』とか『ひなと仲良くするとハブられることはないけど楽しくないよ』とか色々」
一部の女子に嫌われているのは知ってた
好きになってもらえるように色んな男子と席替えのたびに仲良くなったから
「どうして?」
「んー?」
「そんなふうに言われたのにどうして仲良くしてくれたの?」
「・・・つらいときにさ、話しかけてくれたのはひなだけだったし。それが作為的でも嬉しかったし、救われた。だからかな?別にひなが性格悪くても男好きでもいっかみたいな」
小学校のとき、いじめられていた永井くんに『みんなを見下してるから嫌われるんだよ』なんて偉そうに言ったけど
女友達を見下していたのは私だったんだ
「私ね、絶対、浮気とかしない私だけを生涯愛し続けてくれる人と恋に落ちたいの。だから男子にいっぱい話しかけて、この人だったら愛してくれるかもって探してたの」
「生涯って結構重いなぁ」
「そうだよね」
「探すのいいんじゃない?理想だよ。そういう人。でもさ、恋に落ちたいって言うのはおかしいんじゃない?ひなは恋に恋してるんだよ。人を好きになるんじゃなくてさ、愛してくる人を好きになるから、ちょっとおかしいよ」
「・・・うん」
「ねぇ、ひなはさ、ひなが先に好きになった人はいないの?」
「いるよ。すっごく好きな人」
「じゃあ他なんて探さないでその人に生涯愛されるように努力すればよかったんじゃないの?」
「好きだけど、信じられないの」
ゆきちゃんはそんなの当たり前じゃんと言わんばかりに言った
「人を完全に信じることなんて無理だよ。自分のことだってさ、「明日から毎日2時間勉強しよう」とか決めても続けられないでしょ。自分のことも信じられないのに他人なんて無理じゃん。逃げてるだけだよ、ひなは。簡単な話、ひなは他なんて見ないでその人だけを愛せばいいの。まっすぐぶつけてみなよ」
「・・・告白する前に玲くんとのこときちんとしたかったの」
「やっぱ、七澤なんだ。ひなのことが好きだった人」
だった
過去形
なんだよね