方策3
「……ご冗談を」
『いいえ、真実です。もしもの話ですが、決して例え話ではありません』
いや、嘘でしょうよ。
「…あれだけ拒否しといて?」
『私はその場に居なかったので、その拒否の仕様がどのくらいのものであったのかは解りかねますが──レオナール様は、酷く後悔しておられました』
「……あぁ、女性を泣かせたことに対してですか」
アーカイス国では、男性は女性に優しくするのが普通だ。もちろん例外もあるけど、貴族ならなおさらそういう教育をされている。まあ、女性は、男性に尽くすようにとの教育もされるわけだが。
あとは、彼は王子で私はルースラッド国王直々のお客様なわけだから、外交的な問題もあるのだろうし。こんなんで、王族が親友同士の隣国の仲が悪くなるとは思えないけど、それなりにお咎めはあるのだろう。
お咎めがどんなものかは分からないけど、軽いといいなぁ。私はそんなに気にしていないのだし。たぶん、本人が気にしていないといえば良いんじゃないだろうか。
彼と今の私の身分や権力はおそらく対等だろうし、私が咎めなければそんな重大なことにはならない筈。
…前世は身分が対等でないことを気にしつつ過ごしていたというのに、恋を諦めた途端に対等以上になるとはどういう皮肉だろう。
「それなら不問に致しますので、そんなに気を病まれずともよろしいですとお伝えください。それと、第二王子には言いましたけど、私はもう関わりませんので、ご安心ください」
そもそも私の振る舞いも無礼で非常識なものだったから、どっちもどっちだろう。むしろ私の方が悪い。
さぁこれで話は終わりだ!とばかりに、そう断言してオズウェルを見上げる。
すると、安堵の表情でもしているかと思っていた彼の表情は非常に不満げで、予期していなかったことに戸惑う。
「……えっと、如何いたしました?」
騒動の事は収束したし、今後一切関わらないとも断言した。迷惑な存在である私が身を引くというのは、彼にとっても嬉しい報せになると思ったのだが。
なぜ、目の前の青年は不機嫌そうに私を見下ろしているのだろう。
「……えぇっと。…あ、契約書に署名でもいたしましょうか? なんなら血判もいたしますよ」
そこまでしないと信用されないのか、と内心落ち込みつつ、もう自棄になっているので大盤振る舞いだ。出血大サービスである。
そんな私に、目の前の青年が深い溜息を吐いた。
『自己完結して勝手に暴走するところなんかもそっくりですね』
「…………」
誰に、なんて野暮なことは聞かない。というか、聞いたら藪蛇確実なので、黙り込んでいることが最善策だと判断した。
『とにかく、こちらの話を…』
「結構です。帰ってください」
過ぎた話を蒸し返すだなんて、デリカシーに欠けますよ。
「私は、話す事なんてありませんので」
『……』
取り付く島もない、という表現が適切な私の対応に、さすがに青年が黙り込む。
よし、あと一歩で帰せる──と意気込んだところで、名前を呼ばれた。
『…シスリア』
「………ですから、私はシスリアではありませんと何回も」
『いい加減に気付いてくれませんか? 貴方が幾ら否定しても無駄なんだということくらいは。…こんなに馬鹿な奴だとは思いませんでした』
「…はぁ?」
『貴方の中身がシスリアだというのはレオナール様だって認めてます。私だって認めてるんですよ』
「……。現実主義者な貴方が転生論を信じるというのが、そもそも信用ならないんだけど」
『私だって、今日本物に会うまでは、周りの連中の頭がおかしくなったんだと思ってました。──けど、もう信じるしか無いでしょう? たしかに容姿とか声とか全て変わってますけど……。図星を付かれたときの誤魔化し方ががさつな所とか、自分の中で整理した後は周りの誰の意見も聞かなくなる傍迷惑な所とか、意外と精神的に弱い所とか、自己完結して相手の意見や考えや謝罪は一切遮断する所とか…』
「もう良いから!」
お前一体何しにきたの!? 私の説得と説明じゃなくて、本当は完膚無きまでに潰しに来たんじゃ……と恐れおののくと、美青年はにっこりと微笑んで、
『意趣返しです』
と、のたまった。
我が弟の意地の悪さっぷりは健在であるらしい。
「……左様ですか」
その微笑みを受けた私は、思わず頬をひきつらせたのだった。
構図としては、勘違い(独断)+その判断に則って自己完結し、オズウェルとの会話を拒むシスリア v s 決めつける相手に対して説明をしようと思ってはいる。けどあまりに話を聞こうとしないシスリアに呆れからか毒を吐くオズウェル です。
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