説明
簡単にまとめると、
───あのドレスは、彼がシスリアに贈ろうと思っていたものだった。私はそれを知らずにそれを選んで、着ていった。そのドレスを見ず知らずの女が悪びれもなく着ているのを見た彼は激怒して、あの流れとなった───と。
…これは私が愛されていたととるべきか、私の外見しか見ていなかったと怒るべきか悩むところだけど……。
オズウェルの説明によると、どうも彼は、頭に血がのぼっていて、冷静に考えられる状況ではなかったらしい。
あのドレスが本人の知らぬ所で他人の手に渡っていたところを考えると、仕方がないのかもしれないけど…正面切って頼んでも貸してくれるどころか見せてすらくれないだろうからこっそり持ち出すって、友好国の王族としてどうよ? 最悪戦争だよ。
そう考えると、あれで済んで良かったというべきだろうか。…この一週間で騒動が収束していることを祈ってるよ。
で、後でよく考えてみたらあいつはシスリアかもしれない、となったと。
………気付くの遅過ぎやしませんかね。
『…そういえば、私ってレオナールの前で下町言葉喋ったことあるっけ?』
ふと気になって傍らの弟に訊ねてみたら、『なんで私に訊くんですか……知りませんよ、そんな事』と一蹴された。
『…対応が冷たいよ、オズウェル』
『…………。無いんじゃないですか、多分』
ジト目で抗議したら、渋々ながらも回答してくれた。
ありがとうございます。
『あ、そうだっけ』
ならあの言葉も納得だと零すと、その問いかけが喧嘩騒動に関係あると気付いたのか、
『シスリアは変に体面を気にしていたでしょう。だから、怒ったとしても王族に言い返すなんてことは出来なかったでしょうし、怒ってなければそんな粗悪な言葉遣いはしませんでした』
意外と丁寧な返答をいただいた。とはいえ、不本意そうではあったが。
『そうだね。…時々下町に出て遊んでいたのは家族の中でもオズウェルしか知らないし』
彼と色々話して思い出が蘇ってくるにつれて、自分で納得できる材料(記憶)も掘り出されてきた。
──そうだった。
シスリア時代にキレて下町言葉を使った相手はオズウェルが初めてで、その際に下町に度々出掛けていることを白状させられたんだった。
……当時十歳の少年に問い詰められる十四歳って一体。
──ともかく、それで懲りた私は、それからはキレても下町言葉を使わないようになった、というわけだ。
『(そういやオズウェルとは四歳差で、私の享年はたしか十六だったような…)オズウェルって、今いくつ?』
こっちでは確か六年経っていると言われたような…と思い出した灯里が、ちらりとオズウェルを見る。
『十八です』
『(…ですよねー!)』
やっぱりか。…私より年上の弟なんですね、オズウェルは。
それって弟なのか?と悩んでいると、オズウェルが疑問を投げかけてきた。
『貴方は何歳なんですか?』
『………』
ピシリ、と灯里の周りの空気が凍った。灯里は、ぎこちない動きでオズウェルを見上げる。
そして、何も語らずに沈黙した。
『…どうかしました?』
何も言わない灯里に怪訝そうな瞳を向けてくるオズウェルは、答えないことに対して不思議がっているようだった。
つまり、答えるのが普通だと捉えられているわけで。
「(…オズウェル、年齢ってあまり女の子に訊ねちゃいけないんだよー)」
私の今の年齢である十六歳は、日本ではまだ子供の括りに入るけれど、こっちの世界では成人する歳だ。
お見合い話もこれくらいから増え始めるし、貴族の令嬢の十六歳の誕生日は、日本で言う成人式のような盛大なパーティーが開催されることも少なくない。
ともかく、微妙な年齢なのだ。まだ、十代ならば花盛りで羨ましいねとも言われるが、二十を過ぎれば大半の未婚女性は焦り始め、二十五を過ぎれば教会に駆け込むか、本当に相手を選ばずに結婚に漕ぎ着けるしかない。
そういう、十六歳を過ぎた歳ほどの少女に年齢を訊ねるのはあまりよろしくない事だとされている。まぁ、社交辞令で聞いたり自分から言ったりすることもあるから、一概には言えないのだが。
もちろん、家族間では何ら問題ない。
…これが、家族として認められている証拠だといえば良い傾向というのか悪い傾向というのか、どっちだろう。心の中で疑問を呈しながらも、灯里は呟いた。
『十六歳。今年で十七歳になるけど』
『ああ、異世界でも成長速度は同じなんですね』
『うん。それはそうだよ。異世界人とはいっても、同じ人間だからね』
灯里は苦笑し、肩をすくめた。
勇者の年齢や容姿はあまり知られていない。子供向けの勇者物語や劇場で演じられる喜劇でも、そこはあまり気にされない。
子供向けの本に書いてある勇者は、子供たちに親しみを持たせるために比較的小さい年齢で書かれるし、勇者の劇は恋愛ものが多いので、そういう場合の勇者は結婚適年齢の年頃として描かれる。
どちらにせよ、そんな所に着目する者はあまりいないから、そんなの議論に挙がることすらないんだけど。
勇者は勇者だよね、勇者は自分たちとは違うからねーと割り切っているといえば伝わるのだろうか。
いうなれば、スーパーマンと自分を比べているのと同じようなものだ。なろうと思ってなれるわけ無いし、スーパーマンと一般人のどこがどう違うのか、スーパーマンには遺伝子的な要因でそうなるのか、はたまた外的要因があるのかなどの疑問は作中で設定されていないことが大半だし、触れられていたらいたで観客は深入りせずに納得してしまう。
そういうものなのだ。
『たしかに容姿は人ですけど…勇者の能力は人間離れしていると思います』
『あ、それも不思議なんだよね。灯里とシスリアだった時の感覚の違いも特に感じないし、召還される際に能力を授けられた訳でもないし、あっちに居る時と身体の変化も無いし…。
スペックが秀でているというのもあんまり感じないんだけど、これは私だからなのかもね』
『貴方だから、ってどういうことですか?』
『私以外の兄弟達は魔法の才能があるって診断が出てたんだけど、何故か私は魔力が全く無いらしいんだよね…。だから、勇者に当てはまるのは私以外の兄弟だよ。彼らなら、そういう変化があるのかもしれない』
今度聞いてみようか?と訊ねたら、あっさりと首を横に振られた。
そこまで興味があるわけではないらしい。
『──そういえば、貴方の方が私より年下ですよね』
『そうなるね。二歳上の弟っていうのも変な感じだけど』
『たしかに、姉の年齢の方が下というのはおかしいですけど……あぁ、でも、足せば三十二歳ですね』
『……』
そこに気が付くのは構わないけど、わざわざ口に出すことないと思う。というか黙っていてほしい。
けっこうデリケートな部分なのだから、
『考えようによっては、もう行き遅れどころの話じゃありませんね。大年増…』
『表に出ろ──!!』
静かな昼間の王宮に、一人の少女の怒号が響いたのだった。
ご指摘の通り
「私の内面しか見ていなかった」→「私の外見しか見ていなかった」
に改訂致しました




