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準備8



 そして、三着目。

 肌触りは、非常に滑らかでさらさらしていて、地球でいう上質な絹のようだった。

 ピンクがかった黄色の布地を内側からふわりと膨らませたスカート部分には、透明に見えるほど薄いレース生地(白かな?)がバランス良く縫いつけられていた。

 そして、よく見てみると、白銀色の糸で繊細な刺繍──どこまでも空を飛んでゆく力強さと生命力を感じる鳥や、花から花へ軽やかに飛び回る蝶たちなど──が施されていていた。腰のあたりに結わえられたリボンを境として、上半分は空、下半分は地上をモチーフとしているらしい。

 どちらも、今にも動き出して、どこかへ飛んでいってしまいそうな雰囲気だ。生きているような錯覚を覚えて、思わず息をのむ。


 こんなに細い糸であるから、着ている本人か、よほど近くに寄った人間くらいしか気が付かないようなものだけれど、別にこれは見せるための物ではないのだろう。

 むしろ、布の美妙な色合いに、鳥と蝶の刺繍が見事に溶け込んでいることから、隠す意図があるのだろう。

 

 先ほどの薔薇のドレスや海の色をしたドレスのように、大衆の人目を引くものではない。

 先の二着に比べると、装飾もほとんどないし、色合い的にも大分質素な造りだから、これは見劣りするだろう。

 けれども、私は、ほんとうに美しいと思った。

 今までに見たドレスの中で、一番。

 ──よし。これにしよう。

 たとえ今の私に合わないとしても、これを着よう。


 灯里が心の中でそう決意表明をした、直後。


「灯里様、起きていらっしゃいますか?」

「っ!? あ、はい!」


 驚いてびくりと身体を震わせた灯里は、反射的に──自分でも理由は不明だが──クローゼットの扉を閉めた。

 思いのほか勢いがついてしまった扉は、派手な音を立てる。


「…………」


 しばしの沈黙。

 何をしていたのかと質問をされたらどうやって誤魔化そうか。転んだとでも言えばいいだろうか? どうか、深く追求されませんように!

 言い訳を考えるのに頭をフル回転させたり、一心に祈ったりしている灯里の内心を、知ってか知らずか。

 声をかけてきた侍女は部屋の扉を開けることも、疑問を投げかけてくることもなく、ただ「お食事の準備が出来ましたので、大広間にお集まりください。大広間の位置がお分かりにならなければ、ここに控えている騎士にでもお尋ねください」と、用件だけを伝えて去っていった。

 その声に、クローゼットを閉じた体勢で固まっていた灯里は、少々上擦った声で返答を返し……数秒後に、侍女の言葉の内の何かが引っかかって、ん?と首を傾げた。

 そして、そのまた数秒後。

 ようやく答えが出た彼女は、目を見開いたのだった。

 曰わく、


「(ここに控えている騎士、って……部屋の外に騎士がいると!?)」


 部屋から出たときは居なかったし、神殿から戻ってきたときも部屋のところには居なかった。

 いつからいたのかと(中の様子を不審がられていないかといった意味で)戦慄を覚えた灯里は、思わずクローゼットにふらりと寄りかかったのだった。



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