↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/37

準備9



 こちらの世界に来てまだ日も浅い(こっちに来てから1日も経ってない)のだから、気心の知れた彼らだけで食べるべきだ、という相手側の配慮のため、今夜の夕食は兄弟だけでとることとなった。


 席に着いた灯里の目の前には、豪勢な食事が所狭しと並べられている。

 六人の座るテーブルは縦長で、端(から端まで何メートルあるのかってくらいに長いし、その幅も三メートルは余裕であるくらいに大きい。

 部屋の真ん中には、大理石であろうこのテーブルが置いてあるが、それでもとても広い部屋だと感じる。

 どれだけの敷地面積なのだろう、と灯里は遠い目をした。多くの高級な調度品が並んでいるから、ここは国賓を接待する場なのだろうか。


 ──灯里が席に着いてから三分と経たずに、全員が集合した。

 最後に来た蛍が席に着いたのを確認してから、皆で手を合わせて「いただきます」の音頭をとった。


「(あ、これ前世《アーカイスこく》の料理だ)」


 さぁてどれを食べようか、と並べられた食事をぐるりと見回した灯里は、見慣れた料理を見つけて目を見開いた。

 嬉々とした表情でそれを口に運ぶ。

 ルースラッドとアーカイスでは特産品がけっこう違うから、これらの食材はアーカイスから輸入したのだろうか。…私がシスリア・ルーデルであることはごく一部しか知らないから、この心遣いはその内の誰かによるものだろう。推測される人物たちに心の中で感謝の意を示しておく。


 灯里は、アーカイス国の郷土料理──森に住むとある獣の肉の燻製の下に色とりどりの野菜を敷き詰め、それを巨大な葉(香草の一種)に包んで蒸したもの──を咀嚼しつつ、気付かれないようにそっと辺りを見回した。

 いつもであれば食事中には適度な会話がなされるのだが、今日はない。

 原因は、兄弟たちが皆、ものすごくぐったりとしているからだ。正に疲労困憊といった表現が正しい彼らに、灯里はそっと同情の視線を送った。

 よほど、あれからの講義が辛かったらしい。まあ、猶予期限とその内容の質と量を考えれば、彼らの今の状態は妥当な状態だが。


 そんなことを考えながらも黙々と食べ進める灯里は、ふと先ほどのことを思い出した。

 クローゼットの件が引っかかるのだ。何故、自分はあんなことをしたのだろうか、と。

 ──自分自身でもわからない。何であんな…人目から、あのドレスを隠す真似なんてしたのだろう。別に、見られても良いはずだ。ドレスは夜会やパーティーに着ていくものなのだから、むしろ見られて当然。というか、そもそも、あの場にあるということは他者に見られ済みということなのだから、今更人数が増えたって構わないはず。……なのに、何故?

 答えの出ない自問自答を繰り返し、時折りぼーっとお皿に乗った食事を眺め、その度に食べる手を止める灯里。

 そんな行動を何度か行う彼女に声をかけてきたのは、浩介だった。


「どうかしたのか、灯里? さっきから物思いに沈んで」

「いや、何も…」


 疲れ切っている兄から、よもや質問など飛んでくるとは考えもしなかった灯里は、若干の驚きを表情に滲ませつつ、頭を振る。

 どうせ皆疲れ切っているからこちらに気を配る余裕など無いだろうと判断し、若干不振な動作をしても気が付かれることはないと、高をくくっていたのだが。

 相手に心配をかけたくないというのもあるが、一番の理由は、ここで「はい」と答えたとしても満足な状況説明が出来ないと考えたからだった。


「それより、講義はどうだったの? ……皆、すごく疲れているようだけど」 


 現在話す気力があるのは兄だけらしい、と周りを一瞥して判断した灯里は、浩介へと尋ねる。


「魔法についての基礎を少しだけ教わってきたよ。今日は浅い部分だけで、明日から本格的にするらしいんだけどね」

「……この有り様じゃあ、明日は耐えられないかもね」


 そんなにハードだったのだろうか? 基礎知識だけならばそんなに難解なものは学ばない筈だけれど…? と、内心疑問に思いながらも、そう返答する。

 兄は、灯里の言葉に苦笑した。


「僕らの生まれ育った地球には、魔法なんて無かったからね。それを突然使えるようになれと言われても、正直難しいんだよね」

「あー、納得。……確かに、この世界の人にテレビとかケータイとかを説明しても、理解できないだろうね」


 こちらの世界にとっての魔法は、地球にとっての科学。

 兄の言葉からそう解釈した灯里は、確かにそうだと納得して頷いた。


「何を習ったの?」

「えーっと…それぞれの属性についての相対関係と、それぞれがどんな魔法に優れているかっていうのが講義の内容だったね」

「あぁ、火は水に弱くて、水は地に弱くて、地は木に弱くて、木は火に弱いってやつだね。弱いっていうよりは、力負けするって言う方が正しいけど」

「灯里お姉ちゃん、力負けするってどういうこと?」

「ん? …あ、まだここ習ってない?」


 それなら教えるのは順番が違うだろうと思って灯里が尋ねると、蛍は口を尖らせた。


「だって、あの教授の説明分からないんだもん」

「(そこは神殿が説明してくれるんじゃないんだ…) 分からないって? 専門用語を並べられるとか?」

「いや、どっちかっつーと…説明が難しいというか…?」


 双子から、揃って「あれは説明になっていない」と愚痴られた灯里は、ことんと首を傾げた。

 一体どういう状況なのだろうか。


「やたらと難解な言い回しをしてくるというか」

「……あー」


 何となく状況を察した灯里は、まぁそれは仕方がないよ、と肩をすくめて苦笑を零したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。