第八十三話 最悪な結末にはまだ遠く
薄暗く埃ぽい部屋。
窓から吹く風がカーテンを揺らす。
暖かな優しい風がミルの体を避けるように通り抜けていく。
どうやら時間が飛んでしまったらしい、記憶とはいえ流れ続けるわけではないらしい。
…いったいどういう状況なのだろう。なぜモモと言う女の子がミルと…。
言葉を数回交わし互いに黙っている。
「…」
「…」
明るい窓側に立って動こうとも何か話そうともする様子は…モモと言う女の子には感じられない。
ミルも、何を言うか迷っているのか? この気持ちは…。考えまでは分からないけど、そんな感じがする。
「…」
「…」
10分後…。
…あれからどれくらい過ぎただろう。時計がないけど5分は過ぎたかな…。黙って互いに何か言おうとする気配は無い。
「…ねぇ」とモモが言う。
「…え」
「…え、じゃない。◼️◼️から呼んでおいて、何も無いなら私は部屋に戻りたいのだけど…」
どうやらこの部屋にはミルから呼んだらしい。
「わざわざララに頼んで私をこの空き部屋に呼んで◼️◼️が信じてなかったけど… 反省部屋を本当に抜けて来るから… 変わったなぁ、と思えば黙り続ける…。これじゃあ来た時と何も変わって無い…。少しは… ほんの少しは変わったと思ったのは私の勘違いだったってわけ?」
モモは窓側を離れ帰ろうと部屋の扉側に歩く。
「…あ」
「…私は、まだ小さく弱いままだから◼️◼️怖いよ…。けど、会いたいから◼️◼️がわざわざララに伝言までしたから来たのに... バカ…」
「…違う、私、本当は謝りたくて…モモに...あの日のこと… だから…ララちゃんに頼んで… ワタシ…」
「分かってる…そんなことだろうと分かってる… けど」
扉の前で立ち止まるモモ。
「…私だって! 謝りたかった…。強引に◼️◼️の事を連れていこうとしたこと…。ルールだからって嫌がる事をしたこと…。もっと…◼️◼️に合わせた方が良かったんじゃないか… たくさんあの後、考えた...。けど、怖くなるの…今も◼️◼️の顔を思い出すと…。でも、それだけじゃないあの日の◼️◼️の今にも泣き出しそう◼️◼️の顔も思い出すと会いたいって思える会って謝りたいって思ってた…。本当は◼️◼️もこんなことしたく無かったんじゃないかって…私の勘違いだったならごめんなさい... けど… 今もそんな顔で私を見る◼️◼️が酷い子じゃ無いことくらい私には分かる…」
「…え」
目元から頬に生暖かな水が流れる感覚がする。
何度も少しづつ開かれる蛇口のように、次第に顔を手で隠すほど、視界もぼやけ水の中にいるようになる。
「…ごめんなさい、ごめんなさいモモ、ちゃん…。モモちゃんを… 怖がらせちゃって…」
視界はぐちゃぐちゃと崩れて視界に映らない…。だけど胸の痛みだけは伝わってくる。
それと…体を包む優しい暖かな温もりも。小さい体を包み込む小さな腕の感触が。
「…私も。ワタシも...ごめんなさいミル…。本当はミルと友達になりたくて…結果酷い事をして…」
「…ううん、モモちゃんは悪くない…。私が…悪い。私がララちゃんとモモちゃんから嫌われるために…わざと酷い事をしたから…。私はそんな酷い子だから…」
「…だからって! 一人で抱え込もうとしないで! もっと私やララを頼って良いから!」
「…え」
「…。恥ずかしいからあんまり言いたくないのだけど…。今日は特別だから… 私は何があってもこれからもミルの味方になってあげる…。良い、特別なんだから! これは友達以上の関係なんだから… 少しは頼ってよね良い?!」
「…うう」
「何でまた泣くの!? ミルってそんな泣き虫だったの?!」
「だって…嬉しくて… ごめんなさい…ごめんなさい…。ごめんなさいモモちゃん…」
「…分かった。これじゃあどっちか折れないと終わらないから今日は私が折れてあげる。許すから泣き止んで…私も今日の涙は枯れたけど泣きたくなるから...いい加減泣き止んで…お願い」
「ありがとう…。モモちゃん」
スッと目元から涙を拭く。
「…鼻水まで垂らして…ほらハンカチにチーンして…」
「ハンカチ…汚れちゃう」
「…はぁ。良いの! ほら使いなさい!!」
グイとモモはミルの鼻に強引に当てる。
「ムグ…。ありがとう」チーン。
「スッキリした?」
「…うん」
「…そう。なら今日は一度部屋に戻って…急がないとビクターさんや他の子に見つかるかもしれないから…」
「…もう少し」
「え?」
「もう少しハグしたい…」
「…はぁ。泣いたと思えば今度は...。分かった今日は特別だから…」
「特別なのに二回もありがとうモモちゃん」
「…今日は本当に大変な気分。ミルに対するイメージが壊れ続ける…。こんな泣き虫で甘えん坊だったんなんて…」
「…今さら取り止めは無しだから...私の味方になってくれるんでしょ?」
「…安心して、それだけは永遠の約束だから。ほら、さっさと済ませて…帰るよ」
「うん!」
「はぁ…今日一番の笑顔。私こういうのに弱い...」
「…弱み握った」
「…こら、そんなものよりも早く部屋のドアノブを握りに行きなさい」
「…いや」
「そうですか…。はぁ。イメージ崩れるわぁ…」
こうして互いにハグを交わし、部屋にこっそりと戻るミル。
誰一人にも見つかること無く、部屋に戻れた。
「お? お帰りミル」
「…うん、ただいま」
「…それで上手くいった?」
「…うん。ちゃんと話して…謝ったモモちゃんに」
ミルは部屋に戻り自身のベットに座る。
「…モモにもちゃん付けって… ねぇ、私には無いの?」
「…えぇ。ルルに? ちゃん付けは... 。無いかな…」
「…何で!?」
「う~ん…可愛すぎるから?」
「私も女の子だよ! 可愛くなりたいし、可愛いって思ってほしいよ…」
「…良いの私の思いの内に閉まっておくから」
「つまり、…可愛いって思ってくれてるの?」
「…………」
「黙らないでぇ~!」
「…言いたくない」
「…私だけミルに可愛いって伝えるのは不公平だ!」
「…だからそう簡単に可愛いって…言わないでって…言ったじゃん」
「…可愛い。ミル可愛い。プリティプリティマイフレンドミル」
「……はぁ。恥ずかし辛い。疲れた寝る…」
勢いの良く布団を被るミル。視界はあっという間に暗くなる。
「あぁ! 可愛いから逃げるなぁ!!」
「……うるさい、ルルカワイイカワイイ。はいこれで満足?」
「違うぅ! ちゃんと心を込めて… 好きって思いを込めたヤツを頂戴」
「…はぁ?! 別に… そこまでする必要は無いでしょ…」
ガバッっと布団をめくり勢い良く起き上がりルルの方を見る。
「…私はそう思ってるから」
「…嘘だ。また適当な事を言ってるだけでしょ」
再び布団を優しくかける寝転がるミル。
「…じゃあどうしたら信じて―」
「うるさい! いい加減怒るから...これでおしまい… あ~あ眠いネムイ」
「…はいはい、おやすみなさい、ミル」
そうして目蓋も閉じて完全に視界は閉じる。
「…―ミル」
何かルルが言ってた気がするがミルには何も聞き取ることは出来ないほど意識は睡眠に傾くほど疲れたらしい。
再び目を覚ます頃には、日が完全に沈み夜になる前の夕方だった。
赤ぐらい夕日も見えない空が窓の外から寝ぼけ眼で見える。
視界は自然とルルの方にミルは向ける。
どうやらルルもベットで眠っているらしい…。
「原初…様…」
ルルの寝言が聞こえる。
ドクリと心臓が一瞬締め付ける。慣れた感覚だったのか直ぐにミルは落ち着いた。
「ムグ…。私が...原初…様…に」
寝言がまた聞こえてくるが今度は何もない。
目もスッキリ覚めた。ミルはゆっくりとルルに近づきルルの方に近づき口元のヨダレを自身の服の袖で拭こうとする。
「…いや。怖いよ… 暗い...原初…様…怖いよ… いや…やだ… あ...ミルだけは…止め…!」
袖がルルの口元に触れた瞬間、ミルの腕をルルが掴む。
「ゃ…」と小さく驚くミル。
「…あれ? ミル…何しているの? …もしかして、何かイタズラしようとしてた?」
「…はぁ。違うに決まってるでしょ。間抜けに寝ているルルのヨダレを拭こうとしたら手を掴まれたの…。何かうなされていたけど大丈夫?」
「ん…? うん、何か怖い夢だった気がするけど、ミルの顔を見たら忘れた… ハハハ!」
ルルの顔色は少し暗く見えた…。
「ねえ、ミル… 少しだけこう手を掴んでても良い? お願い…」
「…え? べ、別に良いけど…」
「うん。ありがとうミル… やっぱりミルは優しいね…そんなミルが私は好きだよ…」
「…だから! そう簡単に好きとか―!」
ギュッとルルはミルの手を握るが、その手は僅かに震えていた。
「…私は、そんなミルの優しさに甘えてばかりだね…」
「ルル…?」
「…! いや…何でもない。ハハ、ありがとう元気が出た…。本当ありがとうミル!」
「…うん」
コンコンと部屋の扉を叩く音がする。
ミルは扉を開けると、ビクターが立っていた…。
「…やあミル。今日は君にようが会ってきた」
ドキリとミルはする。
「…ん? ルルどうしたんだい? 顔色が良くない…」
「…ビクターさん。後で部屋に言っても良いですか?」
「…そうか。分かった。だがまずミルにようがあってね。その後にでも良いかな? 大丈夫時間はそうかからない」
「…はい。分かりましたビクターさん。私の方は大丈夫だから… ミルの方を優先してくれても...」
「…君のはそう優しくないものだ。大丈夫だ。これは… 君だけの苦しみじゃない、何時だって誰にでも起こる…」
「…病」
「…そう。だから私は君たちのために時間を尽くそう。約束だ。私は約束は守る吸血鬼だ耄碌はしてない。君との約束は今もこれからも守り続ける。私の事を信じてくれるかな?」
「…うん信じるよビクターさん」
「じゃあ今は一人にさせてしまうが、大丈夫かな?」
「うん。大丈夫だから…ミルの方を行ってあげて…」
「…そうだね。だけど辛かったら何時でも私の部屋に来なさい…気休めにしかならないが何時でも歓迎しようルル。…ではミル、話の続きをするために私の部屋に行こうか」
「…けど、ルルが」
「…大丈夫ミル。私は平気だからビクターさんと私を信じて」
「…分かった」
「ありがとうミル」
そう言い微笑むルル。
廊下を歩きビクターの部屋に入る。
「では君の要件だが… 心して聞いてほしい」
ガチャとビクターはミルが部屋に入ることを確認すると部屋の扉の鍵を閉める。
「…え? ビクター…さん?」
「…おめでとうございます」
「…え?」
「君は選ばれた… 候補に」
ビクターは背中を向けソファに向かって歩き語る。
「ビクターさん…選ばれたって何の候補に…何で鍵も...」
「…誰かに聞かれてはいけないことだからだよミル。まさか来たばかりの君になるとは私も驚いている。まさか君が原初を継承候補に選ばれるとは…」
「…え? 私が原初様の…」
「…そうだ。君は選ばれた」
「誰が…?」
「原初様本人が選び決めた。近い内にご帰宅する。その際に、候補の中から原初を継ぐ者を選ばれると決められた…」
「…嘘。私が… ど、どうして!?」
「候補の決定…それは原初様の考えであり私達が考える事ではない…」
「ビクターさんも知らないことなの…」
「決して誰かに話してはいけない…。ミル、これはまだ候補の段階。眷属同士での殺し合いにでも発展しては原初様を困らせてしまう」
「…殺し合い」
「…眷属は強い忠誠心ある者が多い。私含め… 受け入れられる者も居るが、候補者を殺して自身を候補に志願する者が居ないわけじゃない…」
「…」
「今は候補に選ばれたこと、それが秘密なことだけ覚えてれば良い…。受け入れる時間は多少はある。それまで…絶対に誰かに話してはいけない…。これは他の候補者にも伝えている事だ…」
「…分かり…ましたビクターさん」
「部屋に戻って良いよミル…」
そう言いガチャと扉の鍵を開けるビクター。
何故だか一瞬で部屋の中に立っていた。帰り道は記憶に無いからだろうか…。
「…ミル? 大丈夫?」
心配するルルの顔を見て頭の中に記憶が流れる。「候補者に選ばれたことは秘密」であるとビクターに言われた事を。
「…寝る」
「そうなんだ…。私はビクターさんの所に向かうね…」
パタンと扉が閉じる音がした。
視界は床から動かない。
ゆっくりと動いたかと思えばベットに倒れまた天井から動かない。
「…」
視界が黒く濁っていく。夜になる前の一番暗い時間よりも黒く濁っていく。
「…ハ」「ハハハ」「ハハハハハハ…」
ミルは笑っていた。高らかに笑っていた。喉が痛くなっても笑い続けた。
「…」「…う」「…うぅ」
笑ったと思えば今度は泣いた。小さく今度は体を横に丸め赤子のような体制で泣いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
かなり急ぎ足になった気がしますが…。なる早で書きたいように書いてます。
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