↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/85

第八十四話 鳥かごの外へ

 かれこれ20分ほど泣いている。嗚咽や叫びで枯れた喉で泣いていた。


 手に触れる布の感触は湿っていた。目と鼻から流れる体液により湿っていた。


 なぜここまで、これほどの悲しみの感情が溢れているのか僕には知るすべは無い…。無いのだろうか。


 原初の候補に選ばれてからこうなっているということは… 原初の候補が原因の一旦であることは間違いで無い。何かミルの中での積み重ねた知識や経験が今、何か、これほどの悲しみを産み出しているとしか思えない。


 現状や自身が知る原初とミルの知識では… 分からないことだらけ…。


 なぜ…この体を自由に動かせない。なぜ今、僕はこんなのに無力なんだ。


 元から無力な僕でも...この場に居ないにしても... 視界に映らないミルの顔を見なくても...今も伝わる悲しみの感情を少しでも...和らげさせたいのに…。


 心の底から溢れる悲しみを理解したい訳じゃない… 助けたい。


 コンコンと扉を叩く音がする。


 小さくキィ…と扉を開く音がすると…。


「…ミ、ミルちゃん? 大丈夫…?」


 小さく抑えた声で誰かがミルを呼ぶ。


「…え! 大丈夫ミルちゃんオメメ真っ赤だよ!? どうしようモモちゃん、ビッビビ、ビクターさんを呼ばないと!?」


「シー、ララ…! うるさくすると私達も怒られるのよ… ミルが心配なのは分かるけど… だからここに来たのだけど…まずは落ち着いて…」


「…は!」とするララの口を手で押えるモモ。


「…どうして、来ちゃったの…。何で… 私は… うぅ。二人にも迷惑かけてぇ… 最低だ私は…」


 のそりとベットから二人を見て立ち上がり追い出そうと部屋から押し出そうとする。


「…帰って。今は一人にして… その方がお互いのためだから… 」


「…はぁ!? なに言ってるの? あなたが心配で来たんだから私達が安心するまで側に居させなさい! だから部屋にも入れなさい!」


「ちょっと! モモちゃんコエ、声!」


「良いのよ声なんかこの子にはこれくらい大声でないと伝わらないほど遠い耳をしているらしいから!」


「…っ」


「なに? 怒ったの? だったら話をつけるために部屋に入れなさい」


「…怒ってない。だから今の私をほっといて…!」


「ほっとけるわけ無いでしょ。馬鹿なのあなた? 味方はただ見守るだけじゃないのおせっかいでも心配なら必ず来るの。ミルに嫌われても良いから… 心配させないでくれる!」


「私も…友達として来たけど… ミルちゃんだから来たんだよ…。友達としてもあるけど… 大事なミルちゃんの部屋から泣いている声が聞こえて…心配で… 迷惑だったら… ごめん… うぅ、お友達止めたいよ…ね。 嫌いになったよね…うぅ」


「…! 何で…ララまで泣くの… 別に迷惑じゃ―」


「…! 今よ押し入る!」


 ララとモモの二人でミルを押し倒すように部屋に入る。 

 扉は自然と閉まる。ミルにララとモモが伸しかかる形で入って来た。


「…ぅ。重い…」


「…あ! ご、ごめんねミルちゃん!」


「…うぅ。…あ。 …。…今度は私がミルを方を押し倒した…のかな?」


「…重いから退いて。もう…最悪、何で…来たの…」


「あ、ごめんね」


 二人はすぐにミルの上から退き、床に座る。


「…」


「…」


「…」


 部屋の中で三人は黙っていた。


「まずは落ち着いて話そうミル… 何でそんな… 泣いていたのか…」


「…! …」


 ミルは思い出す。「原初の候補に選ばれた事は秘密」である事を。


「…言えない。誰にも言う気も無いから… だから帰ってほしかったのに…」


「…うぅ、ミルちゃんやっぱり怒ってるんだよぉ…」


「…怒ってないよララ。ただ… やっぱり…無理。寂しくてララや…モモや…ルルに会いたかった、けど、会いたくない…。 私が何を言いたいのかも… 分からないから会いたくなかった…」


「…どういうこと? ミルちゃんは会いたくなかったのに会いたいの私達に?」


「うぅ、…分からない。もう…分からない。急に色んな事を知って疲れたから...一人になりたかった…。けど、二人が来て嬉しかった… なのに… ごめん、ごめんなさい...ごめんごめんねごめんなさい...ごめんなさい…」


「ミル?! 大丈夫なのこれは?」


「…」


 プツンと意識は途切れた。視界は暗闇に落ち、目の前は真っ黒となる。


「…い」


 誰かが呼ぶ声がする。


「お…い」


 お…い?


「おい…」


 頭にガツンとした痛みが走る。


「イッテェ!」


 そう口に発したのは僕だった。


「…お? 目が覚めたようだ眷属は… 扉に触れた途端に倒れた時は死んだのかと無駄な肝を冷やした…」


「いったぁ… ん~? ここは… 戻ってきた…?」


 白くただ白く眩しいほどに白い部屋に戻っていた。

 それと…長時間の睡眠後のような倦怠感と体の麻痺に似た感覚から体も次第に目を覚ましていくからか誰かに体を触れている感覚が…戻ってくる。


「…よかったぁ。目を覚ましてぇぇ!」


「…ん?」


 背後からルーナの声が… それと誰かに背後から抱きつかれて...。


…。…あれ?。


…!。


「うわ!?」


 バッと状況を理解して反射的に立ち上がる。


「はぁ...君と言う眷属は…。身を挺して君が倒れた際にいち早く受け止めたそこの彼女に失礼じゃないかい?」


「…あ。うん… ですね。ありがとうルーナ」


「…。いいえ、お礼は入りませんわ。くれくらいの事はして当たり前の事ですから...。無事でホント、良かった…」


「大袈裟だな。倒れたくらいでケガはしないよ」


 立ち上がるルーナと正人。


「…。まぁ良い。君がどう考えようと…ここでの危機は去った。君の帰還と共にね。…君はもっと周りに感謝することだ」


「…?。それくらい分かっていますよ」


「…。なら良いが、先を急ごう。目的の場所は目の前だ…」


「…! …はい」


「…これでやっと原初様に会えますわ…眷属さん」


「…会えれば良いがね」



 三人は扉の前に立ち、正人はドアノブに触れると扉の方から勝手に開き正人の手を謎の手が掴み正人だけを入れて扉は閉じる。


『ヤットキタネ… ヨンダノハキミダケダ』


「うわ!?」


 扉の中は血の中にいるように赤く黒い液体に満たされていたが息は出来る状態で謎の手に掴まれてプカプカと浮き連れられる。


「離して! 誰ですか!?」


『…キミガシラナイワタシハダレカ? キミハシルヨコレカラネ…。ボクデワタシデキミガシルヨ。ヨンダノハキミダケ、マッテイタカンゲイシヨウワガコノモトヘ』


 身動きは浮いた状態では踏ん張れない…。手に離してほしいがため謎の手を離そうとするが石のように固く無理だった。


「…くそ」


『コウフンハイケナイ。アノ子がコワガル。とてもカワイイ子。ゆえに悲劇が良く似合う。そう思わない? 田中正人君』


 だんだんと流暢な日本語に変わっていく声の主。


『さぁ着いた。しっかりと目を開けてしっかりと君の常識で判断するんだ。こんなのにも可愛らしい少女に君はどうすれば良いのかを…』


「…ミル!!」


 やっと見つけた。やっと会えた。短い時間でも...こんなにも長く感じてしまうほど…僕の心は感情は今日この時を味わい尽くすためにあったのかと思えるほどの喜びと悲しみと残った言葉で言い表せない感情の渦の中にいる。


 黒く小さな人一人が入れるほどの内側に鍵穴が空いた鳥かごの中にミルはいた。


「…やっと会えた。良かった。さぁ家に帰ろう?」


「…?」


 ミルは首を傾げてふにゃりとした顔でこちらを見ている。


「鍵… 鍵はどこミル? ミルは持ってない?」



「…? か…ぎ?」


「そう、鍵。持ってないのミル?」


「…? ミ、ル? ワタシ…?」


「…? ミル? どうしたの… いつものミルらしくない…」


「…? ワタシ…ミル? ワタシらしくない… じゃあ…ワタシってなんだ…。おまえの言うワタシとはなんだ?」


「…ミル? どうしたの急に… ここから出てからにしよう…今は急がないと」


「…なんだ。おまえも知らないのか...。ワタシのこと…。鍵のありかはワタシしか知らない...だが教えない…私を知らない...おまえには…教えない」


「…ミル?」


 名前を呼んでも反応しなくなった。


 こちらに背を向け、対話をする気も無いのだろう。


『…大丈夫?』


「うるさい黙れ…」


『君は… 本当にあの子の眷属なのかな? 何にも知らない... 眷属として短い君にはかなり難問だったらしいね…』


「…さっきから誰なんだよおまえ! 声だけ聞こえてくるおまえ方こそミルの事を知っているのかよ!」


『…これは困った。知っているといえば知っているし… 知らないといえば知らない。母親と慕われていたけど… 君の方が今のあの子を知っているんじゃないかな?』


「…うるさい声だけを無駄に聞かせて。結局、答える気は無いんだな…」


『…。まったく君はどうすれば良いのかを既に知っているのに試そうともしないんだね』


「なにを言って―」


『既にこの鳥かごを開ける鍵も君が持っているって言ってるんだよ。かなりヒントをあげちゃったなぁ…あぁまぁいっか。終わりよければ全て良しとしよう…』


「勝手に納得するな! 鍵は僕が持っているって…どういう…」


 正人はふと思い出す。今まで必要な時に必ずポッケには鍵が入っていた事を。

 意識が向いた時にポッケには何か入っている感覚がすることに気付く。


『…ふーんそれを選ぶんだね』


「これか!」


 正人は直ぐに試そうと鳥かごの鍵穴に鍵を刺す。


 だが...鍵穴に刺すと同時に鍵は砕け鍵穴は無くなる。


『…本当に君は、順序というものを分かってない…。その鍵は扉を開けるもので鳥かごを開けるものではないよ?』


「うるさい黙れ…! 何でこれじゃない…」


『…はぁ。君はどうすれば良いのかをね?』


「黙れっていっただろ…。声だけのヤツが…僕を分かったように話すよなよ...」


『…君の事はよく知っている』


「…はぁ?」


『君が生まれる前から知っていたよ。それからずっと見てきた。だから頑張ってね。これは君のために用意したのだから』


「なに言ってるんだ…おまえ…」


『今は理解する時ではない。その混乱も、とても美しが今は急を要する状況のはずだ。そんな小さな事を気にすることではないはずさ家族を無くした君にとって』


「…分かってる! だからってわからないんだよ! こんな時に閃くほど天才でも名探偵でも無いんだ僕は!」


『…はぁ。デハ第二のヒント、さすがにこれがファイナルヒント…。鍵穴は無くなった、だけど中には引きこもる好きな子がいる。引きこもりを見つけた時に君はどうしますか? 可愛そうな君にヒントをあげちゃったなぁ…まぁ良いけど』


「はぁ? …」


 正人は考えた。鳥かごをどうするか…。時間がないと焦って考えが纏まらない。


「考えろ…考えろ…考えろ…考えろ…考えろ…考えろ…考えろ…考えろ…考えろ!」


『そうだ考えろ。君なら出来る…』


「うるさい! あぁくそ! わからないんだよこっちは!」


 正人は鳥かごに向かって歩く。


「…ミルはどうしたい? 本当にこのままで良いの?! この鳥かごの中が良いのかよ!」


「…」


「…黙ってたらわからないんだよ!」


 正人は鳥かごを力を込めて掴むとミシ…ミシと無理やり壊そうとする。


「…止めて」


「ならここから出てこい! 出てこないのならこんな鳥かごは僕が壊す!」


『へぇー...君はそれを選ぶんだ』


「…無理だおまえには壊せない…私の事を知らないおまえには絶対に壊せない」


「だからって…僕はそんな諦めの悪い男じゃない。むしろ鈍感な方だ…。今決めた、僕は僕の為にこの鳥かごを壊す…」


 力を込め続け、だんだんと鳥かごの板が曲がっていく。ミシ、ミシと音を上げ曲がっていく。


「…どうして、私の鳥かごが…」


 やがてバキンという音と共に鳥かごは壊された。


『…強引だ。だが正解なのかそれを決めるのは君じゃない』


「…鳥かごは壊した。もう引きこもるのもおしまいだよミル…。帰ろう」


 正人はミルに手を差し出す。


「…何も知らないおまえと? 私は多く求め過ぎて一人になりたいだけなのに…」


「…帰ろうミル!」


「…嫌だ、帰れない…」


「…! だったら、勝手にさせてもらう」


「…あ。……」


 正人はミルの腕を掴み無理やり抱き抱え道を戻る。


「…離せ」


「だったらもう少し抵抗の意思を示したら?」


「私は原初だ…その場合おまえは死ぬ」


「…嫌だなぁ死ぬのは… ミルを残して死ねないから」


「…バカ、大馬鹿だ…おまえは」


「…今は馬鹿で結構、さぁ帰ろうミル」


「…」


「扉の向こうでルーナも待ってますよ?」


「…! 生きてたのか…」


「…? 嬉しくない?」


「…」


「…まただんまりですか」


 扉を開けると扉に向かって大剣を振り下ろそうととするルーナに会う。


「…あ、眷属さん避けてくださいまし!」


 ミルが剣を片手で掴む。


「…ふん」


「…原初様と眷属さん、原初様に眷属さんが…! 会えたのですわね…。良かった…ホント…良かった… 扉に連れ去られた時はどうなるのかと…」


「心配かけてごめん、ルーナ…。中で謎の手に引かれて何とかミルを連れ出せた…」


「…いや眷属。勘違いしては困る。それは原初ではない…」


「え? どっからどう見ても原初様ですわ? あなた様の目の方が大丈夫です?」


「…はぁ。これだから凡夫やバカは嫌いだ。私が君達に知恵を授けよう。この小娘は原初様の感情が作ったものだ…。幼稚さが顕著に出たせいか原初の小娘の姿をしているが… まったくの別物だ」


「…ではこの原初様を連れ出しても何も意味がないと?」


「意味はある。言ったはずだ。感情が姿を模したとはいえ、感情は原初に一番ダイレクトにつながる精神でもある。この幼稚な小娘を説得して外での暴虐を止めさせれば良い…」


「…」


 元原初に目掛けて、先ほどのルーナよりは小さいが赤く血で出来た剣が飛ぶ。


「…何の真似だ」


 元原初は指で挟み掴む。


「…怒ってる」


「バカや幼稚なヤツとは思ってたが… よほどアイツに甘やかされて育ったらしい…。なれば原初を殺して回ったあの時の暴れようも..。やはりアイツの教育は好きになれないな…」


「誰の話をしているのですか?」


「…神話の時代からの古き友、そこの原初を眷属にした者の事だ…まったく、子の教育は親の勤めだろ…」


「…記憶の中の話にも出てきたミルの原初様ですか」


「あの元原初様、原初様の原初様っていったいどんなお方だったんですか?」


「私や他の原初と変わり無い自由奔放で姿を見せたと思えばすぐ消えるヤツだったが… アイツは私よりも人間というモノに人間が生まれた時から興味を持っていた… 人間の持つ全てに、今にして思えばアイツは不老不死に飽きて人間になりたかったのかもしれないな…」


「…すごく…変な原初様ですわ…。ワタクシは生まれつき吸血鬼でしたがまだこの生に満足なんてしてませんわ… よほど長く生きたのでしょう…」


「原初に同情するとは、変わり者だな若き吸血鬼。古き君の生まれる以前の眷属の扱いを聞けば君の原初に同情することは出来ないだろう。…まぁ、アイツが殺されたと聞いた時は私も驚いたそこの原初に殺されたと… とても楽しそうに話していた、あの子はきっと素晴らしい感情を教えてくれると…」


「…え? 死んだのに感想を言ったのですわ??」


「…? 何を言ってる。原初ならば当然生きているに決まっているだろ? 人間と違い魂が朽ちる事もなく何時でも眷属から記憶と肉体を塗り替える事くらい出来る」


「え? 生きてるのですか…」


「…えぇ!? わ、私は大丈夫ですわよね?! ワタシクシはお父様とお母様の間に産まれた吸血鬼ですし!?」


「例外はない、寧ろ今の君は力が原初よりだ。残りの半分を君の隣に立つ者が持っているはずだ… 肉体も血も今君が産まれた父と母の吸血鬼の原初に使われている」


「…へ?! 既に…使われている…? 今すぐに戻りましょう眷属さん! ワタクシ戻らないと行けない理由が増えましたわ!」


 三人立ち止まり話している。


「…話はこれくらいで終わろう。つい懐かしくなり話してしまったが、原初の説得を始めるぞ…」


「…誰かいる」


 そう話すミルが指差す部屋の入り口。


「…う~ん、小生は死んだはずですが… 血の双子の片割れとフフ… なんと運が良い… 小生はこの者達の足止めの為に死んだのだろう…」


「…屋敷に来た吸血鬼。なぜここに居る」


「…? 知らない男もいるが眷属はここで殺しておこう… さすがのあの人形もここには現れはしない…」


「させませんわ!」


 突進して刃物で刺そうとする吸血鬼を止めるルーナ。


「…ッ。大丈夫です?眷属さん」


「ルーナも大丈夫? さすがに血が足りないんじゃ…」


「これくらいなら…へ、平気ですわ。むしろ眷属さんに心配されてめっちゃハッピーですわ…」


 正人はルーナの体は既に限界に見えた。手に持つ剣は震え、今にも倒れてしまいそうに見えた。


「おやいけない…。女の子に守られるとはどうなのかな…小生は手を緩める気は無いが、先に片割れの方が限界のようだ…」


「…全・然・へ・イ・キ…ですわ! あなたみたいな吸血鬼なんて…ワタクシ一人で...全然余裕ですわ!」


「…良いでしょうでは小生も遠慮無くいかせてもらいましょう…。原初は動こうともしない辺り… まともに話せてない様子ですし…!」


 再び加速して突進する吸血鬼。


「…ッ眷属さん!!」


 だが今度はルーナでも止めることは出来ず弾き飛ばされる。


「…原初の精神をもう一度、小生のものにすれば…ゼルもきっと喜んでくれるはず…!」


「…!」


 吸血鬼が正人に振れる前に壁に叩きつけられていた。誰もがその様子を見ていたが、瞬きをする間もなく壁に叩きつけられる吸血鬼に視線が遅れて集まった。


「ぐっ…! だが眷属… 小生は君の好きにはさせない…!」


 視界はぐるりと歪み暗く眠りにつくように意識は遠ざかる。


 霞む視界、耐え難い眠気が目蓋を閉じた。


―――――――――――――――――――――――――


原初の中視点。


「行ったか… では私の役目も残り少ない…」


「…なら死ね人間。君達人間は小生ら吸血鬼に従ったいれば良い…」


「…君は深く勘違いをしている。私が人間である事に対して否定する気も無い、だが前提が違う。人間である前は原初であったと… それを君は知らなかった」


「…なに?」


  吸血鬼は返事をするとぐしゃりと潰れ虚空に消える。


「…久しく味わう事の無かった血の味だが… 不味い…。寂しくなるな、寂しくさせてしまう…。さぁ戻りなさい本体の元へ、君の役目はもう終えた…」


「…おまえは一人で寂しくないの?」


「…! そうだね。心残りというものはある… 私もだいぶ人間というものに成ったのだろう… あの子に学ばせてもらったのだろう。私は原初であるがあの子は人間だ。たくさん楽しませて貰ったが… 一人にさせてしまう事がとても心残りだが、あの子にもたくさんの人間の部下が出来た… あの子はもう一人ではないと… そう思いたい… もう少し、私が側に居なくては… そう考える日々であったから余計な心配かもしれないが、もっとたくさん一緒にいたかった… 私の最後にこんな言葉が出るとは… フランを作る前の私が笑ってしまうだろう」


「…そう。会えないのは寂しい。分かる、私も一人だったから... おまえは一人じゃないのに寂しいんだ。同じなんだね… 一緒には居られない…」


「…さぁ行け。君と話していると人間臭くなる… 要らん感情を覚えて身が震えてくる… 怪物は怪物らしく孤独に消えなくてはならない。君がどうあるか見られないのがとても良かった… 今の私では、そんな君を眷属の彼のように助けてしまいそうだ」


「ワタシに助けはいらない。怪物のあなたはさよなら… 私はおまえと違って怪物になろうとする私に帰る… さよなら」

 

 スッと消えるミルを見送り、元原初は再び部屋の奥の闇に消える。


『やあ古き友よ! 君がここまで正人君を案内してくれたんだね』

 

「…君も変わり無い、いや以前よりも落ち着きを覚えたらしい… 声だけとは古き友のお別れにしては寂しいな」


『あぁ、ごめんごめん。少し待って…!』


「よっこらせ… ふぅ、魂とはいえ今の私は人間と変わらない魂に作り替えたから無理させないでほしいが… 君との別れだ来てあげたよ」


「フッ… 本当に物好きな生き方を選びましたね...お互い、君の眷属が眷属を作るのを見送ったら消えると思ってましたが… いつまで生きますか君は?」


「お互い不老不死として生まれたけど… 人間が死ぬまで私は生きるよ… こんなに素晴らしい生命はいない! 君も見ただろう? 人間の狂喜からくる執着。眷属である田中正人君が向ける感情の全てはあの子に対してのモノか… 本当に素晴らしいほどに面白い!」


「そうですか、君との約束は守りました。会うのはこれが最後ですが、最後に君は人間の表面しか見ていない… それでは一生君は化物にしかなれませんよ」


「…へぇ」


「おや、怒りましたか… ならば人間ならどうするか分かりますでしょう。化物として生まれた私達ですが人間に触れてきた君なら特に…ね?」


「…」


「私は最後に君の事が理解できた。君は人間になりたかった…。感情豊かな人間に、弱い生き物に、同じ姿に生まれたはずの私達と違って弱いはずなのに生き残れた人間になりたかったのですね」


「…そうだったら良いね。元から人の心がない君の中の私はきっと人間に嫉妬する怪物の中の怪物で そうかもしれない違うのかもしれないよ…」


「…まぁ、良いでしょう。さよなら。良い最後があなたに来ると良いですね」


 そう言い終えると消える元原初。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。


 面白いと感じていただけたのなら感想や評価とブックマークもお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。