陽葵の憂鬱②
「品先、ぜったい陽葵のこと狙ってるよね」
お昼休みにいつもの三人で昼食を食べていると加藤菜穂がお弁当のリンゴを楊枝で突き刺しながら声をひそめた。
「わかるー、見え見えだよね」
早食いの愛菜はすでに弁当箱を片してスマートフォンを眺めていた。陽葵は購買で買ったカツサンドを頬張ると緑茶で流し込んだ。
「いや、ないでしょ」
高校ニ年、十七歳。少女から大人に変わる絶妙な年齢の話題の中心は恋バナ。まるで興味が湧かない陽葵は適当に相槌を打つと残りのカツサンドを飲み下した。
「いやいや、陽葵は美少女の自覚が足りない」
美少女の自覚。菜穂の言葉がおかしくて吹き出した。
「そうそう、黒髪ロングの美少女、おまけにスカートはちょい膝上の清楚系、アニメか!」
「あんたのスカートが短すぎるだけでしょ」
すかさず愛菜に言い返す。
「そんで、性格はサバサバ系の姉御肌ときたもんだ」
あっさり返されて陽葵は抵抗するのをやめた。確かに自覚もしていた。特筆して自分が美しいと感じたこともないが、小さな頃から言われ続ければそうなのかな、と思うのも仕方ない。なんにせよ、あまり興味もなかった。
「陽葵は品先なんか興味ないよね?」
菜穂は申し訳なさそうに上目遣いで聞いてきた、まさか気があるのだろうか。
「まさか、ありえない」
「だよねー」
パッと笑顔になる菜穂を見て、人の好みはそれぞれだな、と感心した。
午後の授業は眠くなる、窓際一番後ろの特等席はくじ引きで運良く引き当てた。昔から運は良い。いや、と陽葵は考えを改めた。初夏のあたたかい日差し、校庭から聞こえる耳心地いいサウンドは眠りの世界に誘う子守唄。この誘惑に耐えながら授業を受けるのはある意味罰に近い。
退屈な世界――。
こうやって無駄に時間を使って、いずれは死ぬ。
悪い癖。この考えにいたると陽葵は恐怖が足元から這い上がってくるような気持ちになり覚醒する。
死にたくない――。
退屈だなんて文句を垂れながら、死にたくないなんて矛盾している。いや、正確には死ぬのが怖い、いや、もっと正確に表現するなら、自分が死んだ後も世界は変わらずに続いていくのが怖かった。百年、千年、一万年。陽葵がいない世界は永遠に終わらない。そこに陽葵はいない。二度と現れることもない。
『ガタンッ!』
勢いよく立ち上がると、椅子が後ろにひっくり返る。呼吸が浅い。過呼吸になることも時折あった。
「おい、菊地、大丈夫か?」
初老の英語教師が心配そうに近づいてきた。右手を軽く上げて大丈夫、とアピールする。
「すみません、保健室いいですか?」
「ああ、誰か付き添わないで大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます」
愛菜が「いこうか?」と言ってくれたが断った。一人になりたい。




