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「・・・なっ」
総司たちが兵の食堂から王室に戻るとそこは酷い有り様だった。金銀でつくられた装飾品の数々は原型がわからぬほどに散らばり、そこを守護する兵たちは血肉となり新たに装飾品を色づけていた。
「ちょ、あなた!!」
まだ息のあるメイドをボロボロでもあるのにも関わらず、頬を叩き起こすエレアノール。
「ひ、姫様。御逃げください」
「そんなことはどうでもいいわ!お父様は!おじ様はどうなったの!?ここで何があったの!」
「そ、それは・・・」
懸命に問うエレアノールを嘲笑うような声が王室に響く。
声の元をみると部屋の中で唯一無事に残った玉座からだった。
「ククク、あなたのお探しのかたはこの方か?」
ゴロっ
玉座から投げられた球体。それは元は生物であったもの。それを見てエレアノールはひきつった悲鳴をあげる。なにを隠そうそれはスウォンの生首だった。
「おじ様!!」
駆けつけその生首を抱えるエレアノール。それを馬鹿にするように笑い声はさらに大きなものになる。
「ようこそおいでくださいました!」
「ふせろ!」
正体のつかめないその声が起爆剤であったかのように玉座が粉砕され、辺りにものすごい勢いで飛び散る。総司の叫びで動いてなければ全員が無事であることは不可能だったろう。
「くくく、かはは!どうもどうも皆様方。魔族軍がひとり龍魔導師のマキシでございます。どうぞお見知りおきを」
まるで道化師のように頭を下げるマキシをエレアノールがにらみつける。
「よくもおじさまを」
「おおー怖い怖い。先に喧嘩を吹っ掛けてきたのはそちらの御仁ですよ。私は自己防衛しただけです」
おどけて語るマキシ。
その姿がより一層エレアノールの怒りの火を強くした。フードから龍の特徴てきな鼻頭をめんどくさそうにかくマキシは、周りを見渡す。
「ふむ、誤解は解けそうにないですね。しかし、これはありがたい。我々のターゲットであるお姫さまが自分から来てくれたのですから。飛んで火にいる夏の虫とはこの事ですね」
マキシは嬉しそうにはにかむ。が、その笑顔は風貌のせいで不気味で悪寒を感じずにはいられなかった。
「ここはお前が?」
総司は気後れしない様子でマキシの前へと歩み出る。マキシは再度深々敷く頭を下げる。
「これはこれはお初に目にかかります。マキシと申します。噂はわが主より常々」
「藍か。元気にしてる?」
「くく、われらが嫉妬の嬢王はあなた様がこんな国でエルフごときといちゃコラしていることに嫉妬してしまってこの大陸を滅ぼせというほどに元気ですよ」
「朝比奈が俺に嫉妬?何の冗談だ」
「はは、そういうことにしときましょうか」
二人は所見とは思えないほどに仲よく談議に華を咲かしていた。怒りに判断を任せたエレアノールがどかどかと足音をたてて二人の間に入る。
「サクマ!早くこいつを殺しなさい!おじさまの敵を!あなたが無理なら私が!」
そう言ってエレアノールが落ちていた弓に矢の羽をひっかけ弦を精一杯引く。目の前の敵に向けた殺意にこたえるように鏃に風が集まり始める。マキシは面倒くさそうに頭をかきながらぼそぼそと文句をこぼす。
「なんですかこのドちびは。せっかくの嬢王についてお聞きする数少ない機会なのに。そもそもこんな貧相なクズどもの掃除など我々でなく普段働かない怠惰どもにやらせればいいのに。われらが将は何を(お考えか。そう思うとこんな私が働いているのに怠惰の奴ら嫉妬の炎が燃えてきましたねぇ」
なんとも早口な愚痴を言い切るとマキシから衝撃が水面に広がる波紋のように発せられる。それによってエレアノールを瓦礫とともに吹き飛ばす。
「グリズベア!」
「おう!!」
総司の合図でグリズベアがエレアノールを受け取る。それにさらにイラつきを見せるマキシ。
「サクマ様。邪魔をしないでほしいですね」
「そういうわけにはいかない。一応、ご主人様だからな」
「そうですか。じゃあ、あなたには少しご退場してもらうとしましょう」
マキシは腰にぶら下げた巾着袋から何かをとりだし地面に放り投げる。それはからんからんと音を立てて転がる。どうやら何かの骨らしい。
『同属の骨を誇りに。我が言の葉を合図に。嫉妬の意志で蹂躙せよ』
その詠唱に応え、骨のかけらを黒い気が包み血肉となる。そして、最後には筋肉に黒い血で全身を湿らせた竜人腐体となる。
「さぁ、虐殺の始まりです」




