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「さぁ、虐殺の始まりです」
竜人腐肉を後ろに携え、マキシはそう高らかに宣言する。
その声に呼応して竜人腐肉が絶叫に近い声を上げる。
次の瞬間、それらは動き始める。
身構えるエレアノールたちを無視しして、竜人腐肉たちは転がるエルフたちの肉を食らう。目の前の光景に唖然とする。
「なにが虐殺だよ。拍子抜けだぜ」
マックが死体を漁る竜人腐肉に襲い掛かる。
「よせっ!」
「へ?」
総司の静止に一瞬動きを止めたマックの横っ腹が次の瞬間にはなくなっていた。いや、はぎ取られた言ったほうがいいだろう。マックが襲い掛かろうとしていた竜人腐肉がこちらに顔も向けず、マックめがけて鋭い爪を突き立てていたのだ。総司の静止の声で足を止めていなければ今頃腹の中心にでかい風穴を作っていたことだろう。
「あほっ!」
「ぐえ」
総司に襟をつかみ後方に投げ飛ばされるマック。サルゾにキャッチされつつ、苦笑をうかべるマックだが出血量からして相当危険な状況だろう。先ほどの一瞬の出来事に顔を青くしているエレアノールに総司は視線を向ける。
「で、どうすんだお姫様」
「っ!どうするってー」
「ぐがぁ!」
エレアノールが混乱で罵声を飛ばそうとしたとき奇声が会話に割り込んできた。全員がそちらに注目すると先ほど死んでいたはずのエルフの衛兵が立ち上がっていた。しかし様子が変だ。腕をぷらんと垂らし、目は虚ろだ。そもそも、あれは先ほどまで死んでいたはずだ。それがなぜ。衛兵に対する疑問を晴らさぬうちに驚くべき事象が答えをくれた。エルフの体が弾け、中から黒い何かかがその全身を包む。そして出来上がったのは一匹の竜人腐肉。元のエルフの顔を仮面のように額に埋め込む一匹の化け物がそこに誕生した。
「そんな・・・ばかな」
「姫さん!」
困惑するエレアノールの腕から総司はスゥオンの生首を蹴り飛ばす。
「あなた何を!」
「あれはもうお前の知ってる優しいおじさんじゃないぜ」
総司が蹴り飛ばしたその生首は何かに引っ張られるように転がり、マキシの隣で止まると静かに眠っるような表情から目を見開き奇声をあげまるで憤怒したような顔つきになり、そこいらのものより一回り大きな竜人腐肉へと姿を変えた。
「そ、そんな」
困惑をあらわにするエレアノール。
しかし、敵はそれを飲み込む時間などをくれはしない。化け物はどんどん増え、かつての仲間はこちらに牙を向けてくる。その現実にエレアノールは心身共に膝をついてしまう。絶望。それが目の前を真っ暗に染めていく。
「大丈夫だ姫さん」
倒れそうになったとき、誰かに肩を支えられた。暗くなりかけた視界をそちらに向けると総司が周りを囲う元同胞たちを蹴り飛ばしながら自分を支えてくれていた。エレアノールは言葉を出さず、総司をじっと見つめる。この男ならばこの状況を打破する手段を自分に与えてくれる。そう信じたーが、返って来たのは頬に走る衝撃だった。その衝撃は熱を持たせ、その熱は痛みに変わる。総司はエレアノールを盛大な音を立てて|叩≪はた≫いたのだ。
「なっ・・・」
「甘えんなよ姫さん。今この状況を打破できんのは俺でもグリズベアたちでもない。王が不在の今、あんただけがどうにかできるカギを持ってんだ」
「で、でも・・・」
「考えろ。あんたはそれができるはずだエレアノール・マクゴナル。仮にも俺の主人だろ」
「っ!」
その言葉に唇を噛みしめ、ゆっくりと、しかし力強くうなずく。総司はにかっと笑うとエレアノールから離れ近くの竜人腐肉をけりとばす。
「さぁどうする姫さん!」
「ここから一端脱出します。そのとき同時にまだ|腐肉≪ゾンビ≫になっていない者たちを運び出します!」
「中々な無茶をいいますね」
「これは命令よサクマ!時間は稼ぎます!アル!私にタイミングを合わせ風霊結界を全方位に!対象を腐肉に絞って。できる?」
「私はあなたの近衛騎士です。あなたの望むままを実現させましょう」
「よし。作戦開始!」
エレアノールの号令で戦況は動く




