13
少し時間は遡り、場所は謁見の間。
そこには先ほど、総司とアルフィードの仲裁をしたスウォンとガルシルドの姿があった。
「我が大陸を治し大王ガルシルド。今回は謁見の機会をいただき、このスウォン心よりの感謝を申し上げます」
多くの兵を連れたスウォンが片膝をつき、拳を地面について頭を垂らす。二人とも一国の王だが、そこには絶対的な位の違いが表れていた。
「ふむ。苦しゅうない。よくぞ参った。面を上げい」
「ありがたきお言葉」
スウォンが顔を上げると二人は視線を合わせ動きを止める。そこにはなんとも重苦しい沈黙が。しかし、周りはどうにもその雰囲気に合わないなんとも落ち着いた面持ちである
先に動きがあったのはスウォンの方だった。
「ぷっ!」
盛大に噴き出したのである。大声をあげて笑い出したスウォンにつられガルシルドも玉座をたたいて爆笑する。
「なにが『苦しゅうない』じゃ。バカみたいだの」
「おぬしこそ、『心より感謝します』なぞと心にもないことを。王座より|道化≪ペテン≫のほうがあっているのではないか」
「言うわ!がはは!」
「お互い様じゃ。がはは!」
お互いに盛大に笑い転がる。周りは慣れたもので『またか』と呆れた感じがひしひしと伝わってくる。
二人ともしばらくお互いをバカにしあいながらも笑いあい、それはしばらく続いた。その時間が終わるとお互いに立ち上がりあつい握手を交わす。
「本当によく来てくれた。久しく顔を見れずに寂しかったぞ」
「三年ぶりか。お互いに『魔女』の対応で忙しかったからな」
旧知の仲ということもあり、兄弟のような絆を感じる空気を醸し出していた。久しぶりの再開をなつかしむのほどほどに二人は動き始める。それを先導するように一人のメイドが二人の前を先行する。
二人は何人もの衛兵を連れ、客間へとやってきた。そこには総司たちが出された食事とはランクの桁が一つや二つでは足りないほど豪華な食事が用意されていた。
二人は席に着くと用意された紅茶を一気に飲み干す。
「本当ならビンガーを一気にあおりたいもんだが」
「そういうなガル。一応これも公務故・・・だ」
「お前はそういうところが堅苦しくていかん。儂なんかよりよっぽどこの堅苦しい大陸の王にあってると思うのだ」
「何をいまさら」
「そうはいうがな。魔女が現れた今大陸だけで経済を反映させるには無理がある。なのにほかの種族を入れるなと家来どもはうるさくてかなわん。語っていたら腹の虫がおさまらなくなってきたぞ。おい、ビンガーを樽ジョッキで用意せい。スウォンの分もだ」
「・・・しかし、王様」
「今日ぐらいは融通を聞かせ!」
「で、ですが・・・」
困ったメイドはスウォンに助けの視線を向ける。
「困らせてすまないな。用意をしてやってくれ。・・・この話はここだけにな」
「は!かしこまりました」
困ったように肩をすくめ、人差し指を唇に当てウィンクをするスウォンにメイドは顔を赤らめ深々とお辞儀をしてすぐに去っていく。
「まったく、お前は・・・メイドを困らせてやるな。かわいそうに」
「お前がそれを言うか。のう、ジョン」
「その通りです、大王」
「こ、これジョン!」
矛先を向けられたスウォンの近くに控えているウルフマンのジョンがガルシルドの言葉にわざとらしく何度もうなづき、向けられた矛先を主に突き立てる。恥ずかしさに顔を真っ赤にしてそれを注意するスウォンだった。
「ご、ごほん」
その後も二人の連携でいじられていたスウォンが、無駄に大きな咳払いで話の流れを切る。
「そんなことより、あの子はどうなのだ?」
「どうなのだとはなんだ」
「先ほどみたが・・・なかなかどうして、立派に成長しているじゃないか」
「ああ、どっかの誰か様の影響で多種族に寛容になり、家来からはうとまれてばかりの活発な子に成長しておるわ」
「・・・すまん」
「そう落ち込むな。わしはむしろ感謝しているぞ」
見るからに落ち込むスウォンに大きな笑い声を向け、残ったビンガ―を一気に傾けるガルシルド。
「お前さんに昔から懐いていたおかげでエルフなんてものに囚われない器の大きな娘に成長してくれた」
「しかし、それで周りに疎まれては、息もしずかろうに」
「大丈夫だろう」
「大した自信だが、根拠はあるのか」
「あの娘にはあの娘を慕ってくれる騎士をつけている。それに・・・」
ガルシルドは窓の外を優雅に泳ぐ雲を見て一息をつく。
「・・・彼奴は・・・あの道化はおもしろいからな。どう転ぶかは賽の目といったところだろう」
「神頼みとは耄碌したな」
「お互いさまじゃろうて。まぁ、もうあの娘もいい歳だ。いつ死んでも悔いはない」
「寂しいことを言うな。儂の話相手はお前しかおらなんだ」
「そうだのう。わしもお前さんが先導してくれねば天国にいつまでも着けん気がするしのう」
「それこそ戯言よ。お前もわしも行くのは地獄だおるにて」
「それもそうか」
お互いは不安を断ち切るように大声で笑った。その笑いが静かに水面に映る波紋のように消えていくと、二人はお互いに相手の持っていたジョッキにビンガをこぼれん勢いで注ぐ。
「では、例え死が訪れようとも」
「我らは供に隣で競うことを」
「「誓おう!」」
こぼれることなど気にせず、お互いに勢いよく器をぶつけ、中身を一気に飲み干す。
二人がはじめてあった幼少期より言い合ってきた誓いの言葉を酒と一緒に自分にいいきかせるように体の中に押し込む。
「死ぬ時であろうとも俺はお前の友であろう」
どちらが発したかもわからない小さな呟き。
そして、二人をまたも静寂が包む。
その静寂はなんとも温かみがあり、心地のいいものだった。
二人が今この瞬間。王としてではなく一人の男として友と飲みあっているこの瞬間だけはだれにも邪魔されずにいたいとお互いが想い、願っていた。
「う~ん・・・その考えは罪深いですね」
しかし、その願いはいとも簡単に破り捨てられた。
「どうもどうも。本質はお日柄もよく、皆々様もすこぶる健康そうでなによりです。自己紹介が遅れました。『大罪の魔女』率いる魔族軍が筆頭『七つの罪源』が一人『嫉妬』より遣わされました龍魔道士のマキシでございます。どうかよろしく」
そう明るく語るそれは黒いフードで全身を包むも、顔の部分から出る鱗に包むまれた鼻頭が正体を隠すきのなさを表している。
「あなたの罪を裁きに来ました」
にやりと歪む大きな口から彼らに死の宣告が打ち込まれた。




