第8話 銀の髪
新章、剣と魔法の世界へ入ります。
「ここは一体……」
「柱が沢山あるけれど……」
私達は無数の柱がある石造りの建物の中へ出てきた。完全に闇に包まれていて何も見えないはずなのだが、不思議と自分の周りだけは見ることが出来る。
「ねえ麗奈、今何かが光った気がしたんだけど」
「どこ? 何も見えないけど……」
「確かに光ったよ。ねえ、見に行ってみようよ」
「どっちの方が光ったの?」
「こっちの方だよ」
私達は結衣の指す方向に向かって歩き出した。
「大分離れてたの?」
「どうなんだろう? 少し光が見えただけでどれくらい離れてたのかは……」
歩き始めてそろそろ十分位になると思う。延々と柱が並んでいるだけで、他には何も見当たらない。
「私の気のせいだったのかな~」
「かもしれないね、それにしても一体どれくらいの広さがあるんだろう」
「ここって本当に建物の中なのかな……さっきからずっと柱しか――あっ!」
「もしかして、さっき結衣が見たのって」
「うん、今の光だよ」
「今の感じだと近いんじゃないかな?」
青白い光が一瞬、視界に入った。私達は自然と歩く速度を速める。
「うわっ!」
「きゃっ!」
光の見えた方へ歩いて行くと突然周りが明るくなった。
「急に明るくなってびっくりしたね」
「うん……ねえ見て結衣。あれ……」
「ふわ~、大きいね~」
突然明るくなって私達が見たのは大きな石の像だった。先ほどまで見ていた柱はどこにも見当たらず、人の形をした巨大な像だけがそこにはあった。
「ねえ麗奈、あそこに石板があるよ」
像の足元に小さな台座があって、その上に小さな石板が置かれている。私達が近付くとその石板が青白く光った。
「私の見た光はこの石板の光だったんだ……何か書いてあるみたいだけど、読めそうにないね」
『私の存在が争いの元となる。そんなことは堪えられない。私さえ、私さえ居なければこんなことには……』
あれ、私は何を言っているのだろう。
「えっ、麗奈!? 何を」
『争いを生むことになるかもしれない。それでも私の力を望むのであれば、その時は唱えよ。この場にて……』
急に身体がいうことをきかなくなった。勝手に口から聞いたことも無い言葉が出ていく。ただ、意味は何故か理解できる。
「麗奈、麗奈ってば!」
『《解放》と』
「きゃぁっ!」
突然私のポケットが強く光った。結衣が思わず尻もちをついてしまう。
「結衣、大丈夫?」
いつの間にか身体が動くようになっていた。私は咄嗟に結衣へ声をかける。
「うん、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけで……えっ!?」
「どうしたの?」
「麗奈、その髪……」
「うそっ、何これ!?」
結衣に言われて見てみると自分の髪が銀色に変わっていた。
「今、麗奈のポケットが光ったよね」
「うん……これが光ったみたい」
私はポケットから田沢さんに貰った透明の玉を取り出した。今は穏やかに白く光を放っている。
「一体何が起こったの? 麗奈がよくわからない言葉を言ったと思ったら、急にそれが光って、目を開ければ髪の色が変わってるし、もう何が何だか……」
「うん、私も石板を見たら勝手に言葉が出てきて……」
「動くな!」
「えっ」
声がした方を見ると鎧を着た人が大勢こちらへ走ってきている。
「え、麗奈!?」
私は咄嗟に結衣を背にする。
「少しでも動けば身の安全は保証しない」
おそらく隊長か何かだろう。他の人とは少し異なった鎧を着た男性が私へ剣を突き付ける。
「私達はその……」
「喋るな!」
男性が剣の先で私の顎を持ちあげる。
「今から言う俺の質問だけに答えろ。お前たちは何者だ」
なんて答えればいいのだろう。異世界から来たと言っても信じてはもらえないだろうし。
「私達は迷子になってしまって」
「迷子だと? ここは簡単に入れる場所ではない。一体どうやってここに入った」
「気がつけばここに居て、自分でもどうやって入ったのか……」
「そんなわけあるかっ! ……まあいい、どうせ後でわかることだ。おい、至急国王陛下へお伝えしろ。クルス神殿に不審者二名とな」
「はっ」
後ろに居た一人が敬礼をして走って行った。
「ねえ麗奈」
「なに?」
「さっきからなんて言ってるの?」
「やっぱり分からない?」
「うん、何か言っているのは分かるけど、よくわからない言葉だから」
「そうだよね、私もどうして理解できるのか……」
やっぱりさっきの光が何か関係しているのだろうか。
「さっきから何をぶつぶつ言っている。喋るなと言ったはずだが」
「彼女に説明してるの。この世界の言葉が分からないから」
「ふんっ、これからお前たちを国王陛下の元へ連れて行く。痛い目に会いたくなければ大人しくしているんだな。よし、こいつらを縛りあげろ」
男性がそう言うと、縄を持った人が私達を後ろ手に縛り上げる。
「えっ」
結衣は急に縛られて泣きそうになっている。
「私達は不審者でこれから王様の所へ連れて行かれるみたい」
「大丈夫なの?」
「分からない……けど、このままここに居てもどうにもならないから、とりあえず大人しくしていよう。もしかしたら王様に何か聞けるかもしれないし」
「連れて行け」
鎧を着た人たちに囲まれてさっきとは違う方向へ歩いていく。
暫く歩くと外に出た。外といっても目の前は森で木々の他には何も見えない。出口のすぐわきに馬車が何台かあった。
「乗れ」
その内の一台に私達は乗せられる。隊長らしき男性も一緒に乗り込んだ。
「出せ」
男性の合図で馬車が動きだした。ガタガタとして乗り心地が悪い。おとぎ話に出てくる優雅な乗り物とは異なるみたいだ。
「ね、ねえ麗奈」
結衣が私に話しかけると男性が睨んできた。
「彼女に今の状況を説明したいのだけど」
「……いいだろう。だが少しでも変な動きを見せてみろ。その命はないものと思え」
「わかった」
「えっと、何て?」
「話してもいいって」
「よかった。それにしても、私達どうなるのかな?」
「分からないけど、多分いきなり殺されることはないと思うよ」
「殺されちゃうの!?」
「ううん、それはないと思う。それなら今ここで殺されてるだろうし、わざわざ王様の所へ連れて行くくらいだから、何かあるんだよ」
「そっか……そういえば、麗奈のその髪だけど、何て言うか少し光ってるよね」
「うん、ただの銀髪というわけではなさそう」
私の髪はキラキラと不思議な光を放っている。
「宝石みたいだよね」
「何か良くないことでなければいいけど……」
「おい」
私達が暫く黙っていると、男性が突然話しかけてきた。
「何?」
「名前」
「え?」
「名前はなんだと聞いている」
「麗奈」
「そっちの小娘は」
「結衣」
「そうか」
「貴方は?」
「なんだ?」
「貴方の名前は?」
「聞いてどうする」
「私達が答えたのだから教えてくれても良いでしょう」
「……バール」
「バールさんね」
***
「国王陛下!」
早馬で一足先に城へと戻った兵士が国王の部屋へと駆け込む。
「無礼な、ここをどこだと思っている!」
丁度王と話をしていた初老の男が声を荒げる。
「申し訳ございません。しかし、緊急の用件でございます!」
「よい、申してみよ」
王は兵士へ話すように促す。
「はっ、クルス神殿に不審者でございます」
王は怪訝な表情をする。王が口を開きかけたが、代わって初老の男が口を開いた。
「クルス神殿に不審者だと? お前たちは何をしていた」
「我々は昼夜問わず警備をしておりました。ですが、突然神殿の中が光り、駆けつけるとどこから入ったのか、石像の前に二人の少女が」
「石像の前だと? あそこは特に厳重に警備していたはずだが。間違っても子供が入れるようなところではあるまい」
王が怪訝な表情を一層深める。
「しかし、確かに銀色の髪の少女と栗色の髪の少女が――」
突如、王の目が見開かれる。
「今、何と言った!」
「はっ、銀色と髪の少女と栗色の髪の少女、と」
「銀色……本当に銀色だったのか?」
「間違いございません」
「何と……」
「陛下、もしや……」
初老の男も驚愕の表情を浮かべている。
「ああ、おそらく……。して、その少女たちは今どうしておる」
「現在は、このフェレウス城へ護送中かと思われます」
「何だと!?」
王はガタンと大きな音をたてて席を立った。
「今から迎えを出しても間に合わぬか……お前は今すぐその少女たちの元へと向かい丁重に城へとお連れしろ!」
「ははっ!」
兵士は来た時と同様に大急ぎで出ていった。
「ジェイルは急ぎ、宴席の用意をせよ」
「分かりましてございます」
ジェイルと呼ばれた初老の男は一礼して部屋を後にした。
「まさか、私の代に現れるとは……」
***
急に馬車が止まった。何かあったのだろうか。
「ん、どうした? 何かあったのか」
バールさんが御者に尋ねた。




