第9話 対面
「それが、城へ報告に行った者が戻ってきまして、止まるようにと――」
「隊長!」
御者がそう言うと同時に馬車の後ろから声がした。
「どうした」
バールさんが開けると、随分と急いできたのだろう、城から戻ってきた男性が息を切らせている。
「こ、国王陛下より勅命です」
「なんだ」
「現在護送中の少女二名を丁重に城へお連れするように、とのことです」
えっ、一体どうしたのだろう。
「どういうことだ!?」
「分かりません。しかし、勅命ですので……」
「……分かった」
そう言ってバールさんは私と結衣の縄を解いた。
「誠に申し訳ございませんでした」
バールさんは縄を解くと私達に頭を下げた。
「あれ? どういうこと?」
結衣が驚いている。
「なんでも王様が私達を丁重に扱うように言ったみたいだよ」
「そうなんだ……でも、どうして?」
「分からないけど、とりあえず一安心出来そうだね」
「先ほどまでの御無礼をお許しください。これより私共が責任を持って、貴女方を城までお連れします」
「えっと……よろしくお願いします」
「なにぶん急な事で、このような馬車しかございませんがお許しください――出せ」
バールさんがそう言うと再び馬車が動き出した。
三〇分程すると馬車が止まった。後ろが開いて、凄く豪華な鎧を着けた背の高い男性が手を差し出す。その手を借りて私達は馬車を降りた。
「近衛隊長のフェルディです。国王陛下がお待ちでございます。こちらへ」
そう言ってフェルディさんは一礼してから歩き出した。私達も後に続く。
「それにしても凄く綺麗なところだね。なんていうかおとぎ話の中に居るみたい」
「うん、私も夢みたいだよ。こんなところに住んでみたいよね」
一体どれくらいの広さがあるのか見当もつかない。私達の歩いている綺麗に敷き詰められた石畳の横には色とりどりの花が咲き、正面には青い屋根が特徴的な荘厳な城がそびえ立っている。
「近衛隊長のフェルディだ。門を開けよ」
少し歩くと巨大な門の前に着いた。フェルディさんの声で重い音を立てて門が開いた。再び歩き出したフェルディさんに従ってお城の中へ入っていく。
「これから王様に会うんだよね……」
「うん、どんな人だろう。怖くなければいいけど……」
「こちらでございます」
私達が話しながら歩いていると、途中で見たものとは違う、一際大きな扉の前で止まった。
「近衛隊長フェルディでございます。御二方をお連れいたしました」
フェルディさんがそう言うと扉が開いた。
「凄い……」
結衣が思わず声を上げる。私も息をのんでしまった。広さは学校の体育館くらいはあるだろう。高い天井から吊るされたいくつものシャンデリア、柱は一つ一つ彫刻が施され、床には赤い絨毯が敷かれている。また、部屋の中央には映画でしか見たことが無いような数十人は座れるであろう巨大なテーブルがあり、その端に男性と女性、そして私達と同い年くらいの女の子の三人が座っていた。
「こちらへ」
私達が入口で立ち止まっていると部屋の脇からエプロンドレスを着た女性が歩いてきた。その女性に案内されて、三人の正面の席へ着く。
「ようこそ。お待ちしておりました。私はリフィレス国王、カイゼル・フェン・リフィレスです。こちらは妃と娘です」
私達が席に着いてまず、向かいに座った真ん中の男性が口を開いた。カイゼルさんは髪と瞳が見事な金色で、立派な顎鬚を蓄えている。歳は恐らく四十程だろう。また、国王のオーラというのか、穏やかな顔の中にも威厳がある。
「セリア・ファン・リフィレスです」
カイゼルさんに続いて、隣に座っている女性がそう言って頭を下げた。セリアさんの髪は燃えるような赤色で瞳はルビーのように輝いている。歳は恐らく四十位なのだとは思うが、子供がいるとは思えないほど若く見える。
「エルティシア・ファン・リフィレスです」
最後に、結衣の正面に座った女の子が少し恥ずかしそうにしながら頭を下げた。エルティシアの髪は水底のように深い青で、瞳も吸い込まれそうになる程、深く、澄んだ青色をしている。歳は私達と同じくらいだと思う。まるで人形のように整った顔で、とってもかわいい。
「麗奈涼海です。こっちは結衣水瀬です」
私がそう言って頭を下げると結衣も続いて頭を下げた。
「そんなに硬くならずに、話はゆっくりと食事でもとりながらにしましょう」
カイゼルさんが手を叩くと次々と料理が運ばれて来た。
「さあ、遠慮せずにどうぞ。お口に合うか分かりませんが……」
「麗奈、何て?」
「食事をしながら話を、だって」
私が結衣に説明していると三人が不思議そうな表情を浮かべている。
「あ、すみません。結衣はこちらの言葉が分からなくて」
「おや、そうとは知らずに失礼いたしました。少しお待ちください」
カイゼルさんはそう言って席を立ち、結衣の前まで歩いてきた。結衣は驚いて少し涙を浮かべている。
「失礼」
カイゼルさんが結衣の額に手を当て、何言か呟いた。一瞬手が光った気がする。
「いかがでしょうか」
結衣が驚愕の表情を浮かべる。
「麗奈! 言葉が分かるよ!」
「本当に!?」
やっぱりカイゼルさんのおかげなのかな。私は席に戻ったカイゼルさんに尋ねる。
「今のは一体……」
「突然失礼しました。しかし、言葉が通じないのは不便かと思い、魔法で通じるようにさせていただきました」
「魔法……」
「魔法……ですか?」
私と結衣は思わず声を漏らしてしまう。
「はい、その様子だと御存じないようですね。おっと、折角の料理が冷めてしまいます。食べながらにしましょう」
カイゼルさんに促されて料理に手をつける。見たことも無いものばかりだけど、どれも美味しい。
「国王陛下、それで魔法と言うのは……」
私は食事が一段落したところで切り出した。
「そんな堅苦しい呼び方はやめてください。カイゼルで結構ですよ」
「それではカイゼルさん。魔法とは……」
「そうですね、順にお話しましょう。まずは貴女方が――」
「あ、私も麗奈で結構です」
「私も結衣で」
「麗奈達がどのようにしてあの場所へ現れたのかを教えていただけますか?」
「あの場所というと、柱が沢山あった……」
「はい。あそこはクルス神殿といって容易く入ることが出来るような場所ではないのです」
カイゼルさんは穏やかな笑みを絶やさずにいるが、その目が有無を言わせない事を物語っている。私は神能のこと、こっちへ来てから起こったことを説明した。
「なるほど、その様な力が……伺ったところ魔法とはまた異なったもののようですね。あの場所に入ることが出来たのも頷けます。それに、異世界から来られたのであればこの世界のことを御存じないのも無理ありませんね」
「あの、どうして麗奈の髪の色が変わったのでしょうか?」
結衣がカイゼルさんに尋ねる。
「ではそこからお話ししましょう。麗奈の髪の色が変わったことについてですが、その光った玉をお見せいただけますか?」
「これです」
私はポケットから白く光る玉を取り出した。
「やはり……フェルディ」
カイゼルさんが呼ぶとすぐにフェルディさんが入ってきた。
「ジェイルをここへ」
「はっ」
部屋を出たフェルディさんは少しすると初老の男性を連れて戻ってきた。睨まれるだけで切り裂かれそうなほど眼光が鋭い。
「宰相のジェイルです」
私達を見てジェイルさんが頭を下げる。
「ジェイル、これを見てくれ」
カイゼルさんが私の手にある白く光る玉を指差す。
「ほう、やはりそうでしたか」
「うむ」
「して、陛下ご用件は」
「宝物庫よりリニアスの胸飾りを持ってきてくれ」
「畏まりました」
ジェイルさんが一礼してから部屋を出る。気がつけば無意識のうちに身体に力が入っていた。大きく息を吐いて力を抜く。結衣も横で同じようにしている。ジェイルさんは会話をしている間も終始その鋭い目で私達のことを見ていた。身体の内側まで覗かれているようで、自然と緊張していたのだろう。
「さて、麗奈の髪の色ですが、その前に少し長い話を聞いていただかなければなりません」
「はい」
私と結衣は姿勢を正す。
「今からそうですね……千年程前のことです――」
カイゼルさんはおもむろに話し始めた。




