第7話 異世界へと繋がる糸
休日としては少し早い時間に起きた私達は、シャワーを浴びてから朝食をとった。今日は結衣が作ってくれたからとても美味しかった。
「今日は田沢さんの所へゲーム機を届けるんだよね」
「うん、その洗い物が終わったら行こう」
「洗い物といっても食器洗い機に入れるだけ、だけどね~」
そう言いながら結衣は食器を次々に放りこんでいく。いつ見ても結衣の家事をしている姿は素敵だと思う。
「お待たせ」
暫く眺めていると、いつの間にか結衣は片づけを終えていた。
「すぐに行くの?」
「うん、田沢さんに電話したらすぐにでも行こうと思ってるよ。今日がお孫さんの誕生日だから早い方が良いと思うし」
「それじゃあ私は出掛ける準備してくるね」
「なら、その間に電話しておくよ」
私が電話をかけると、構えていたのか、すぐに田沢さんが出た。
「はい、田沢です」
「おはようございます。何でも屋ラクスの涼海ですが」
「おお、連絡をお待ちしておりました。いかがでしょうか、やはり……」
「いえ、手に入れることが出来ました」
「本当ですかっ!?」
「はい。タッチペンEXのPMエディション、手に入りました」
「……何とお礼を言っていいか、ありがとうございます」
「それで、早速なのですが、これからお持ちしようと思っております。ご都合の程はいかがでしょうか?」
「まったくもって問題ありません。よろしくお願いします」
「それでは、三〇分程で伺わせていただきますので」
「はい、お待ちしております」
私が電話を終えて少しすると結衣が下りてきた。
「どうなった?」
「うん、これから持っていくことになったよ」
「オッケー、出かける準備はバッチリだよ」
「それなら私も準備はできてるし、早速行こうか」
「確か駅前のジュエリーショップだよね」
「そうそう。歩いて二〇分くらいかな」
お店の位置が描かれた地図を確認してから、ゲーム機を持って家を出た。もちろん、プレゼント用にラッピングがされてある。
「あ、あれだね」
結衣が少し先にあるクリーム色の落ち着いた雰囲気のお店を指差して言った。
「綺麗なお店だね~。宝石店の割に学生でも入りやすそうだし、今度ゆっくりと見にこようかな」
「私でも買える物あるかな……」
「それほど高くないものも置いてあるんじゃないかな」
「だといいな~」
そんなことを話しながら、私達はお店の横へと回り、勝手口の横にあるインターホンを鳴らした。
「おはようございます。涼海です」
「お待ちしておりました。今、開けますので、お店の正面でお待ちいただけますか?」
「分かりました」
私達は再びお店の正面へと回る。少しするとシャッターが開いた。
「どうぞ、お入りください」
お店の中の雰囲気は外観と同じで落ち着いている。商品も手頃な価格の物から、高級な物まで幅広く置いてあり、手頃な物に関しては私達でも買えそうだ。
「あの、早速ですが……ゲーム機の方は……」
田沢さんが待ちきれないといった様子で聞いてきた。
「はい、こちらになります」
私はゲーム機の入った紙袋を差し出した。
「おおっ! ありがとうございます。本当に何とお礼を言ってよいやら……」
「いえ、喜んでいただけて何よりです」
「本当にありがとうございます。孫の喜ぶ顔が浮かびます。ああ、大切なことを忘れておりました。こちらがゲーム機の代金です。そしてゲーム機を手に入れていただいたのですから、報酬をお支払いしなくてはなりませんね。そちらのショーケースの中からお好きな物をお選びください」
「うわっ、麗奈これ凄いよ……」
田沢さんが指差したのはカギのかかったガラスのショーケースで、中には今渡したゲーム機が三つは買えそうな金額の商品が並んでいる。
「こんな高価な物を……本当によろしいのですか?」
「もちろんです。こんなことを言うと失礼ですが、内心無理なのではと思っていたお願いを聞いていただけたのです。安いくらいですよ」
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
ショーケースの中にはリングからネックレス、ピアスまで様々な種類の商品が陳列されている。私が端から順に見ていくと、ひとつ気になる物があった。
「ん、あれは……?」
「麗奈、どうかしたの?」
「あの、田沢さんこの玉はいかがでしょうか?」
私はショーケースの中にある値札の付いていない透明の玉を指差す。
「おや、そちらは見ての通り商品ではなく飾りなのですが、もしかして……お気に召すものがございませんでしたか?」
「いえ、そんなことはないのですが、つい惹かれてしまいまして」
「そういうことでしたらもちろん構いませんが、それだけですとこちらが申し訳なく……ああ、それでしたらこちらもお持ちください」
そう言って田沢さんはカウンターの下から小さな白の小箱を取り出した。
「それは……?」
「昨年のクリスマスにイベントで抽選を行ったのですが、その時の特別賞です。残念ながら特別賞が出なかったので、よろしければこちらも一緒にお持ちください」
田沢さんが小箱を開くと中にはダイヤモンドをあしらったシンプルなリングが入っていた。
「わあ、綺麗だね~」
「そんな高価な物を頂くわけには……」
「ははは、良く出来ているでしょう? 実はこれ、リングはシルバーなのですが、ダイヤモンドはイミテーションなんですよ。余り物で申し訳ありませんが、いかがでしょうか?」
「しかし、それでも本当によろしいのですか?」
「はい、寧ろ受取っていただかないと私が困ります」
「それでは、ありがたく頂戴させていただきます」
「そうしてください」
田沢さんから袋に入った、透明の玉とリングを受け取る。
「さて、それでは私達はそろそろ失礼させていただきます」
「おお、そうですか。本日は本当にありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。また何かございましたらよろしくお願いします」
「はい、その時は是非ともお願いさせていただきます」
「それでは」
私達は田沢さんに見送られてお店を後にした。
家へと帰ってきた私達は部屋でのんびりとしている。
「ねえ麗奈」
「どうしたの?」
結衣が、田沢さんから貰った透明の玉を見ながら話しかけてきた。
「これだけれど、ただのガラス玉だよね。どうしてこれにしたの?」
「ああ、実はね……それ、この世界の物じゃないの」
「……え?」
結衣がポカンと口を開けている。
「どこが違うのかと聞かれると困るけど、なんていうか……そんな感じがするの」
「ということは、つまり私達の知らない未知の物質で出来ているってこと?」
「いや、ただのガラスだと思うよ」
私は苦笑して答えた。
「それならどうして?」
「えっとね……結衣にはまだ言って無かったけど、私の神能は他の世界の物があると、その世界へと行くことが出来るの」
「他の世界……」
「うん、私達の住んでいるこの世界とは別の世界にね」
「それじゃあこれが……」
「そういうことっ」
「そうなると……麗奈のことだしやっぱり行くんだよね?」
「もちろん、さすがは結衣分かってるね~」
「危なくないかな?」
「いざとなれば私が守るから大丈夫」
「えへへ、ありがとう。麗奈が守ってくれるなら安心だね」
「うん、何があっても守るからね」
「頼りにしてるね。ちなみに、いつ行くの?」
「特に用事があるわけでもないし、準備したら早速行ってみようよ」
「準備か~、何が要るのかな?」
「適当にお菓子とか飲み物とか、後は一応着替えは持って行った方が良いと思うけれど、それくらいじゃないかな」
「それならすぐにでも用意できるね」
「それじゃあ、私は一階からお菓子とか持ってくるから、着替えとか用意しておいてくれる?」
「オッケー、麗奈のも入れておくね」
「うん、お願い」
私がお菓子と飲み物を持って部屋へ戻ると、結衣の方も準備が出来ていた。リュックに今持ってきた物を入れる。
「これでよし」
今用意したリュックを持って玄関へと向かう。
「それじゃあ行こうか」
「なんだか緊張するね……」
「きっと大丈夫だよ。じゃあ、行くよ?」
結衣が私の腕を持ったことを確認して、ガラス玉を手に詠唱する。
「……」
「麗奈?」
「えっと、何て言えばいいのか分からないの……」
「え?」
「エルクさんから他の世界へ行く時に何て言うのか聞いてなかったよ。どうしよう……」
〈麗奈様〉
「わっ!」
「わわっ! 急にどうしたの?」
「あ、ごめん。今エルクさんの声が聞こえて」
「私には何も聞こえないけれど……」
「うん、エルクさんの声は私にしか聞こえないみたい」
「そうなんだ。それで、エルクさんは何て?」
「ちょっと待ってね」
〈驚かせてしまい、申し訳ございません。前回、お伝えし忘れておりました。麗奈様が異世界に行く方法ですが、異世界に関わる物を持って、TO DISSIMILAR WORLD LEAD MEと唱えてください〉
「わかった」
〈それでは、私はこれで失礼いたします。お二人の安全を祈っております〉
「ありがとう――えっとね、異世界に行く方法を教えてくれたよ」
「ベストタイミングだね」
「さて、それじゃあ気を取り直して。結衣しっかり捕まっててね」
「うん」
『TO DISSIMILAR WORLD LEAD ME』
次から第二章に入ります。




