第6話 何でも屋初仕事
朝、目が覚めた私達は朝食を済ませて、先日買ったスーツに着替えた。何でも屋開業日、気を引き締めてから私達はオフィスへと入った。
「何でも屋ラクス、開店!」
「わっ、急に大きな声出すからびっくりしたよ」
「えへへ、ついね」
「なんていうか、こうしているとお仕事って感じがするね」
結衣が自分のデスクへ背筋を伸ばして座っている。
「といっても、そういう気がするだけで何もしていないけどね~」
「そういうことは言わないものだよ、麗奈」
「ごめんごめん。それにしても暇だね……」
「暇だね~」
私達がオフィスに入ってから二時間程経った。その間ずっと、こうして何もせずに雑談している。結衣のピンと張った背筋も今は背もたれに預けられている。
「まあ、分かっていたことだけどね」
「とりあえず、のんびりしてるしかないか」
「そういうことみたいだね。ああ、結衣コーヒー淹れてくれない?」
「オッケー……いえ、畏まりました」
結衣は私の秘書ということになっている。深い意味はないけれど、なんとなく気分の問題でそういうことになった。
結衣がコーヒーを淹れるために席を立つ。
プルルル
結衣が席を立つと同時に電話が鳴った。私は急いで電話をとる。
「はい、何でも屋ラクスです」
「おお、こんにちは。広告をみてお電話させていただいたのですが、お願いがあるのです」
「はい、どのようなご用件でしょうか」
「これから伺わせていただこうと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんです。お待ちしております」
「では、よろしくお願いします」
「もしかして、お客さん?」
席を立ったままの結衣が私に尋ねる。
「うん、これから来るって」
「うそ! やったね!」
「うん! 準備しないと」
お客さんが来るということで、私達は改めて身なりを整える。
「緊張するね……」
結衣は再び椅子に背筋を伸ばして座っている。
「そこまで硬くならなくても」
「そう言っても緊張するんだから仕方ないでしょ~」
ピンポーン
「あっ、来たみたいだよ」
「結衣、お客様を通してくれる?」
「うん」
結衣がオフィスの扉を開ける。
「こんにちは。ようこそいらっしゃいました。どうぞお入りください」
「失礼します」
入ってきたのは中年の男性。髪は全て白髪だけど、精悍な顔つきで背筋もピンと張っている。まさに渋いという表現がぴったりと当てはまると思う。
「いらっしゃいませ。どうぞお座りください」
男性を応接スペースで迎える。
「ありがとうございます」
「結衣、御飲み物を」
「はい、コーヒーでよろしいですか?」
「ええ、ありがとうございます」
結衣が三人分の飲み物を机に置き、私の横へ座る。
「えっと、お客様のお名前を教えていただけますか?」
「田沢と申します」
「田沢さんですね。私は涼海です。そしてこれは水瀬です」
「水瀬です」
結衣がそう言って頭を下げる。
「それでは、早速本題に」
「はい、広告にはどんな依頼でも引き受ける、と書いてあったのですが……」
「はい、私達で出来ることであれば」
「実は、私には小学生の孫がおりまして、明日が誕生日なのです」
「おお、おめでとうございます」
「ありがとうございます。その孫なのですが、四ヶ月程前に私の家へ来まして、誕生日プレゼントにタッチペンEXが欲しいと言われたのです」
「今人気のゲーム機ですね」
「そのタッチペンEXが問題なのです」
「と、申されますと?」
「孫に頼まれたタッチペンEXはPMエディションというもので、数量限定だったらしいのです」
「あ、麗奈それなら知ってるよ。たしか、PMというゲームの絵が描かれたモデルで、おまけとしてそのゲームの特典が付いてくるんですよね」
「ええ。しかし、私はそんなことを知らなかったので、特に急ぐことなく昨日買いにいったのです。そうしたらそこで限定ということを知らされまして」
「では、今回の御依頼はそのタッチペンEXのPMエディションを……」
「はい、何とかお願いできないでしょうか。無理なお願いということは分かっております。諦めてはいたのですが、広告を見てもしかしたらと思いまして」
「分かりました。お孫さんの誕生日は明日ですよね。明日までに何とかいたします」
「おお、本当ですか! ありがとうございます。御礼の件ですが、私はジュエリーショップを経営しておりまして、商品の中から何かというのはいかがでしょうか?」
「問題ありません。それでは手に入り次第ご連絡させていただきます」
「よろしくお願いします」
田沢さんが帰ってから、私達はどうやってタッチペンEXを手に入れるか話し合っている。
「最初の依頼から難しいのがきたね~。どうするの? と言っても一つしか方法は思い浮かばないけど」
「うん、多分その通りだよ。私の神能で過去に戻って買ってくる」
「やっぱりそうだよね」
「さて、それじゃあ早速買ってくるね。発売日調べてくれる?」
「オッケー。少し待ってね」
結衣が調べている間に私は準備を整える。
「麗奈、三月一五日に発売だよ」
「ん、じゃあササッと行ってくるね」
「いってらっしゃ~い」
フリフリと手を振る結衣に見送られて私は詠唱する。
『TO TIME OF THE PAST LEAD ME』
寒い。そういえば三月ということを忘れていた。とりあえず上着を着てから家を出る。今から行けば開店時間の三十分前にはゲーム屋さんに着くと思う。
十分程歩くと目当てのゲーム屋さんに着いた。私はその前に出来た列の長さに驚いた。おそらく私と同じタッチペンEXを買いに来たと思われる人が二〇メートルくらいの列を作っている。私も急いでその列に並んだ。
暫く経って、もうすぐ開店という頃には列がさらに長くなっていた。改めてタッチペンEXの人気に驚かされる。
私がそんなことを考えていると列が動き始めた。お店に入った人が次々と同じ袋を持って出てくる。お客さんの回転はかなり早いようで三分程で私の番になった。
「いらっしゃいませ。タッチペンEXのPMエディションでよろしいですか?」
「はい、一つお願いします」
袋を受け取って店を出ると、後ろから売り切れたという声が聞こえてきた。どうやらぎりぎりだったみたい。何とか買えてよかった。
私は人目につかない場所へ移動してから詠唱する。
『RETURN』
「! そうなるんだ……」
「ただいま~。ん? どうしたの結衣」
私がタッチペンEXを買って戻ってくると、結衣が驚愕の表情を浮かべている。
「今、麗奈はゲーム機を買いに行ってたんでしょ?」
「うん。ほら、買えたよ」
「そうだよね。えーっと、私から見るとね、麗奈の姿が急に変わったの」
「ああ、そうか……私は過去に行って戻ってきたけれど、こっちでは一切の時間が経っていないんだね」
「なんていうか、とっても不思議な感じ」
「あはは、まあとりあえず買えたよ」
「それじゃあ、これで依頼は完了だねっ」
「うんっ! 今連絡するとさすがに早すぎるから、明日になってから電話しよう」
暫くしてから昼食に出前を取って、その後は特に依頼も無く、二人でのんびりとしていた。
お風呂と夕食を済ませた私達は、明日に備えて早めに寝ることにした。ベッドに入ってお互いを抱き枕にしている。
「えへへ、こうするとなんだか安心するよ」
「私もなんていうかとっても落ち着く。お休み、結衣」
「うん、お休み」
私達は互いの温もりに身を委ねた。




