第51話 謁見
「それでは行ってきます」
「うん。よろしくね」
翌日、納税へ行くシルヴィを見送り、私達はお店へ向かう。
「おはようございます」
私たちがラクスへ入るとミストが掃除をしていた。私たちに気が付くと雑巾を置いて頭を下げる。
「おはよう。よろしく、ミスト」
メイドたちは日替わりでお店を手伝ってくれている。今日はミストが担当のようだ。
「はい。本日は依頼がたくさん来るといいですね」
「井戸以外のね」
結衣は苦笑しながらそう言うと自分の机についた。ミストは何と言っていいのか分からないといった様子で微笑み、掃除を再開する。
「そういえば麗奈」
私が契約書の整理をしていると結衣が話しかけてきた。
「ん? どうしたの」
「ほら、昨日は月末だったでしょ? メイド達にお給料を払わなくていいの? 麗奈のことだから忘れてるってことは無いんだろうけど」
「私達のお給料は既に姫様よりいただいております」
雑巾を絞っていたミストが口を開く。
「うん、そういうことだよ。先月分は既にエルが払ってくれていたの」
「そうなんだ。それじゃあ今月からは私たちが払わないといけないんだね」
「そういうことだよ。だからしっかり稼がないと」
「井戸以外でね」
それから一時間程するとシルヴィが帰ってきた。以前に買った白のマントをメイドに渡し席に座る。
「アンベルをいただけますか?」
「畏まりました」
メイドはマントを掛けると給湯室に入っていった。
「何も問題はなかった?」
私が尋ねるとシルヴィは一枚の紙を取り出す。
「はい。これが納税の証明書です」
シルヴィから受け取った紙にはフェレウス城の旗と同じ紋章が入っている。
「ありがとう。ご苦労様」
「いえ。そう言えば、何か依頼はきましたか?」
シルヴィが話すと同時に扉が開いた。
「丁度きたみたい」
「いらっしゃいませ。――あれ?」
私達が姿勢を正して挨拶をすると、入ってきたのはフェルディさんだった。
「皆様、おはようございます」
フェルディさんは私達の前へ来ると礼儀正しく頭を下げる。
「おはようございます。本日はどうなされましたか? 何か御依頼でしょうか?」
私が尋ねるとフェルディさんは申し訳なさそうに首を振った。
「いえ、申し訳ございませんが依頼ではありません。本日は国王陛下の使いとして参りました」
フェルディさんは一枚の紙を取り出す。
「カイゼルさんの? どのような用件でしょうか?」
「はっ。先日皆様がグレイン候の娘、シャルロットの命を救われたことに対し、国王陛下は感謝の気持ちを伝えたいと仰っております」
フェルディさんから書状を受け取ると、カイゼルさんの感謝の言葉が書かれていた。
「お手数をお掛けしますが、明日の午後五時頃、フェレウス城までお越しいただけないでしょうか」
「わかりました」
「ありがとうございます。それでは、少し余裕をもって四時に迎えに参ります」
そう言うとフェルディさんは一礼して向きを変える。
「フェルディさん、よかったらアンベルでも飲んでいきませんか?」
「いえ、申し訳ございませんがこの後すぐに城へ戻らなくてはならないのです。お気遣いありがとうございます」
そう言うとフェルディさんはもう一度頭を下げた。
「そうですか。それでは明日、よろしくお願いします」
「畏まりました。失礼いたします」
フェルディさんはきびきびとした動きで出て行った。
「なんだか凄いことになってきたね……」
フェルディさんを見送った後、結衣がカイゼルさんからの手紙を見て溜め息を漏らす。
「麗奈様が居たので事なきを得ましたが、王都において侯爵の娘が事故に遭うなど、あってはならないことです。その手紙を見る限り、グレイン侯爵は何も言っていないようですから、国王陛下も姫様から聞いて肝を冷やしたのではないでしょうか」
結衣から渡された手紙を見て、シルヴィは笑いながらそう言った。
「私は偶然居ただけだからお礼なんて断ろうと思ったんだけど……」
結衣が首を傾げる。
「でも、すぐに了承したよね?」
「あはは……さすがに国王であるカイゼルさんに呼ばれたら断ることはできないよ」
私が苦笑を浮かべてそう言うと、結衣は少し間を置いてから頷いた。
「うん。そういえばカイゼルさんは王様なんだよね」
結衣は自分に言い聞かせるようにそう言うと何度も頷いている。
「まあ、暫くカイゼルさん達にも会っていないし、そういう意味では丁度いいんじゃないかな」
翌日、相変わらず井戸替えの依頼しかこないことに対する、相変わらずの結衣の不満にシルヴィが顔を引きつらせていると、お店の扉が開いた。
「皆様、お迎えに参りました」
フェルディさんが頭を下げる。
「それじゃあ行こうか」
「ええ、早く行きましょう!」
待ちに待ったという様子でシルヴィは席を立ちマントを羽織った。
「行ってらっしゃいませ」
ミストに見送られ店を出た私達は、フェルディさんの手を借りて馬車に乗る。最後にフェルディさんが乗り込み、馬車はゆっくりと動き出した。
「以前にも一度乗りましたが、この馬車は乗り心地が良いですね」
シルヴィがクッションを手で確かめながら言う。
「確か出来たばかりの馬車なんだっけ?」
「はい。結衣様の仰る通り、二か月前に完成したばかりです」
三十分ほど揺られていると馬車が止まった。馬車の扉が開き、先に降りたフェルディさんの手を借りて私達も降りる。
「それではこちらへ」
フェルディさんに案内されて城の中を歩いていくと見知らぬ部屋の前で止まった。
「申し訳ございませんが時間までこちらの部屋で準備してお待ちください」
「わかりました」
「何かございましたら中に居る給仕の者へ遠慮なく仰ってください。それでは後程お迎えに参ります」
フェルディさんは頭を下げると歩いて行った。私達が部屋へ入ると中には給仕の方が数名並んでいる。給仕長もそこに居た。
「皆様、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」
給仕長が歩いてきて頭を下げる。
「到着されて間もなく申し訳ございませんが、皆様には謁見のために着替えていただきます。こちらにお並びください」
給仕の方は私達のサイズを測り、奥の部屋からドレスを持ってきた。給仕の方に手伝ってもらい着替えを済ませる。
「なんだか恥ずかしいね……」
結衣が鏡を見て顔を赤くしている。露出度は低く、日常着ている服の方が高いくらいだが、それでもやはりドレスは恥ずかしいのだろう。
「よくお似合いですよ」
給仕長が結衣の様子を見て微笑む。
「皆様、お迎えに参りました」
給仕長とメルナ達のことを話しているとフェルディさんが迎えにきた。フェルディさんに続いて歩き、巨大な扉の前で止まる。
「それでは参りましょう」
フェルディさんが扉を開くと真っ直ぐと赤の絨毯が敷かれ、部屋の左右に人が並んでいた。正面にはカイゼルさんが座り、その隣にエルとセリアさんが並んで座っている。結衣の唾を飲み込む音が横から聞こえた。私達はゆっくりと絨毯の上を歩いていく。結衣はひどく緊張した様子で、左右の手足が同時に出ていた。
「終わった……」
謁見の間を出て結衣が脱力して溜め息をつく。
「シルヴィのおかげで助かったよ」
私と結衣はシルヴィの動作を真似て何とかやり過ごした。
「私は何もしていませんが、お役に立てたようで何よりです」
シルヴィは安堵の表情を浮かべる結衣を見て笑みを浮かべる。
「笑い事じゃないよ。生きた心地がしなかったんだから……」
途中、カイゼルさんに話しかけられた際に結衣は声が裏返ってしまい、隣にいる私に心臓の音が聞こえそうなくらい顔を赤くしていた。
「夕食はカイゼルさん達だけでよかったね」
この後の食事はカイゼルさん達と私達だけなので気が楽だ。
「うん。安心したらおなかが空いてきたよ」
「ふふ、それじゃあ急いで着替えないとね」
「着替えまで急ぐ必要はないけど……」
先ほどの部屋へ戻り、来た時の服に着替えてから私達は広間へ向かった。




