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剣と魔法と何でも屋  作者: リース
第二章 リフィレス王国編
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episode2 月末

「陛下、お呼びでございますか」

 男はぎこちない動作で頭を下げた。

「一つ頼みたいことがある」

 私がそう言うと男は更に緊張した様子で姿勢を正す。

「どのようなことでございますか」

「明日は納税の日だな。南の商業区に今月できたラクスという店がある。その店の納税額を調べてくれ」

「はっ、畏まりました」 

男は顔に一瞬疑問の色を浮かべたがすぐに頭を下げ、入ってきた時と正反対の動作で部屋を出て行った。

「ふふ、あなたもやはり気になりますか?」

 隣の部屋で聞いていたのだろう。セリアは部屋へ入ってくると、笑みを浮かべながら私に尋ねる。

「ああ、麗奈達のことだ。うまくやっているだろうが、それでもやはりな。そう言うセリアもか」

「ええ。私は心配しているわけではありませんけど」

 セリアは楽しそうに言う。

「心配でなければ期待と好奇心だな」

 相変わらずの笑みを浮かべながらセリアは静かに頷いた。

「あなたもそうではないのですか?」

「そうだな。少し怖くはあるが、楽しみでもある」

 私の言葉に満足したのかセリアは嬉しそうにもう一度頷くと部屋から出て行った。この時間であれば訓練所か。



 久しぶりに麗奈達と話していたら随分と遅くなってしまった。会食まであまり時間はないが、今から用意をすれば十分間に合うだろう。しかし、その前にお父様に話すべきことがある。

「エルか。会食まで時間が無いぞ。早く着替えなさい」

 ノックをして部屋へ入ると未だ用意をしていない私を見てお父様は顔をしかめた。

「申し訳ございません。ただ、お父様に話しておかなければならないことがあるのです」

 私がそう言うとお父様は表情を改めて私の目を見る。

「本日は麗奈達のところへ行っていたのですが――」

 私が麗奈達から聞いたグレイン侯爵の件を話すとお父様は驚愕した。

「それは真か! このリフランでそのようなことがあったとすれば一大事だ」

「はい、麗奈達から直接聞きました。帰りに付近の方からも聞いたので間違いありません」

「そうか……。エル、よく知らせてくれた。とりあえずお前は会食の用意をしなさい」

 お父様は暫く目を閉じて背もたれに身体を預けた後、一度頷き口を開く。

「わかりました。失礼します」

「直ぐにジェイルをここへ」

 私が部屋を出ると扉からお父様の静かな声が聞こえた。



「お疲れ様。今日は随分と依頼が来たね」

 今日は午前と午後を合わせて十件も依頼が来た。

「全部井戸替えだけどね」

「何日もお店を閉めていましたから、その間に来られたお客さんが一気に来ましたね。昨日も結局午後は閉めていましたし」

 休む暇も無いほど今日は忙しく、一日中結衣の苦笑に見送られて私とシルヴィは井戸替えに行っていた。

「まあ、依頼があるだけ良しとしないと」

「わかってはいるんだけどね」

 結衣は相変わらずの不満顔で頬を膨らませている。

「あはは……とりあえずお風呂にでも入ろうか」

 私がそう言って立ち上がるとシルヴィに制された。

「麗奈様、今日はまだすることがあります」

「すること?」

「はい。今日は月末ですからこの一か月の収支を出さなければなりません。納税は私が明日行ってきますので、確認をお願いします」

 シルヴィはそう言って私の向かいに座ると今月の契約書の束を机に置く。

「今日って月末だったんだ。知らなかったよ」

 結衣はシルヴィの言葉にきょとんとしている。

「結衣様はお城の旗を見たことはありますか?」

「うん。あの豪華な奴だよね」

「いえ、紋章の入った旗ではなく、無地の色が付いた旗です。ここからでも見えると思いますが」

「あ、うん見たことあるよ」

 辺りに高い建物が無いため、ここからでもフェレウス城はよく見える。

「その旗の色でわかります。今日は月末なので赤色の旗が揚がっているはずです。普段は白の旗で、納税の週が青色、月の最後の週は黄色、そして月末が赤色ですね」

「あの旗にそんな意味があったんだ」

 結衣が感心した様子で頷いている。私も旗の色には何か意味があるとは思っていたけどそれがカレンダーの代わりとは思わなかった。

「それじゃあ、明日から一週間は納税期間なんだね」

「はい。何でも屋はその他の職種に当たりますので、利益の一割を税として納めなければなりません」

「麗奈、今月の利益はいくらなの?」

「とりあえず、報酬からペンとかの購入代金を引くと五十一ケリル八十二ベレカだよ」

 シルヴィが驚きの表情を浮かべる。

「おー、結構あるね。ん、どうしたの? シルヴィ」

「いえ、既に計算されていたとは思っていなかったので」

「いやー、多分今計算したんだと思うよ」

「そ、そうですか……」

 シルヴィは項垂れた。

「あはは……。それで鉄鉱石はどうすればいいのかな」

「あ、はい。お金以外のものはお金に換算またはそのもので同様に一割を納める必要があります」

 シルヴィは首を振ってから顔をあげる。

「それなら鉄鉱石は十六トン分を納めればいいんだね」

「そうなります。鉄鉱石は腐ることもありませんから現物で良いと思います。それでは鉄鉱石十六トンを納めておきますね。鉄鉱石に関してはクノム村にありますからそのように申請しておきます」

 そう言って契約書の束を手に席を立とうとしたシルヴィを今度は私が制した。

「麗奈様、どうされましたか?」

 シルヴィは再び腰を下ろす。

「今日が月末なら大切なことを忘れているよ」

「大切なこと……ですか?」

 シルヴィはよくわからないといった様子で首を捻った。

「とっても大切なことだよ。二人にお給料を払わないと」

 シルヴィは再び驚きの表情を浮かべる。

「そんな、お給料なんていただけません! こうして住むところを与えてもらっている上、様々なものも買っていただいています。そこにお給料までなんて」

「それはだめだよ。働いたらきちんとそれに見合うお給料は貰わないと。そうでないと私が気を遣うことになるから」

「ですが……」

「遠慮しないの」

「わかりました……。有り難く頂きます」

 シルヴィは渋々といった様子で頷いた。

「ねえ麗奈、私も貰っていいの?」

「勿論だよ。結衣も働いてくれたんだから」

「うーん……私そんなに仕事したかなー?」

 結衣が顎に手を当てて唸る。

「うん、しっかりしてくれたよ」

「はい、私もそう思います」

「えへへ、そうかな」

 結衣は照れ臭そうに頭を掻いている。

「それじゃあ、二人にお給料を払うね。――まずは結衣からだよ。ご苦労様」

 私は革袋から三ケリルを取り出し、結衣に手渡した。

「ありがとう」

 結衣は嬉しそうに微笑むとポケットに金貨を入れる。

「これはシルヴィの分ね。今月はご苦労様」

 シルヴィは私から金貨を受け取ると目を丸くした。

「麗奈様、さすがに五ケリルもいただけません!」

「シルヴィは頑張ってくれたからおかしくないと思うよ」

 私の言葉にシルヴィは首を振る。

「いえ、五ケリルは多過ぎます。それに結衣様より多くいただくわけにはいきません」

 そう言ってシルヴィは金貨を二枚私に差し出した。

「シルヴィほど働いてくれたら五ケリルは高くないと思うよ。結衣より高いのも仕事を見れば当然だと思うけど」

「私もシルヴィの方が高くて当たり前だと思うよ。私は留守番とかしていただけだしね」

 結衣にもそう言われ、シルヴィはゆっくりと差し出した手を引っ込める。

「……ありがとうございます」

「うん。――それじゃあ、これでしなければならないことは終わったかな」

 私は席を立って伸びをする。

「はい。いくつか細かいことはありますが、それは明日私がします。念のため最後にもう一度だけ納税額の確認をしていただけますか? 今月の利益が私達のお給料を引いて四十三ケリル八十二ベレカと鉄鉱石百六十トン。納税額はその一割で四ケリル三十八ベレカ二十ガナムと鉄鉱石十六トンになります」

「うん、間違いないよ」

「それでは明日納税してきます」

 シルヴィは手元の紙に記入するとそれを持って席を立った。

「悪いけどよろしくね。それじゃあお風呂にでも入ろうか」


「それにしても少し意外でした」

 着替えを取りに部屋へ向かう途中、シルヴィが口を開いた。

「意外っていうと?」

 結衣が尋ねるとシルヴィは口元に笑みを浮かべた。

「お給料のことですが、麗奈様が私に結衣様より多く渡されるとは思っていなかったので」

「ああ、なるほど。でも麗奈に限ってそれはないと思うよ。ね?」

 結衣が首を傾げながら私の方を見る。

「うん。いくら私が結衣のことを愛していてもこういうことで贔屓はしないよ」

 私がそういうとシルヴィは頷いた。

「そう言われるとこれもまた、とても麗奈様らしいですね」

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