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剣と魔法と何でも屋  作者: リース
第二章 リフィレス王国編
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第44話 予期せぬ事態

 私達が昼食を食べ終えてしばらくするとブルノさんが戻って来た。

「おや、随分とお待たせしてしまったようで申し訳ございません」

「いえ、お気になさらないでください」

「ところで依頼の件ですが、着いて早々で心苦しいのですが、この後お願いできませんか」

「勿論です。どうすればよろしいでしょうか」

「ありがとうございます。それでは初めに以前井戸を掘ろうとした場所を見ていただけますか」

「畏まりました」

 家を出たブルノさんの後ろを歩いていくと、村の中央に開けた場所があった。

「此処がそうです」

 ブルノさんが指さす方を見るとそこだけ少し窪んでいた。

「おや村長、そちらの方々は客人かい?」

 村の中を歩いて男性が私達に気付いて近づいてきた。

「ブルノさんはこの村の村長だったのですか!?」

 シルヴィが驚いた様子でブルノさんに尋ねる。

「いえ、昔はそうだったというだけで今は違いますよ」

「ブルノさんは長年此処で村長を務めていたんだぜ。だから俺達も村長って呼ぶのが当たり前になってしまってよ」

「なるほど。そういうことでしたか」

「こちらは私が井戸掘りをお願いした方々ですよ」

 ブルノさんがそう言った瞬間、男性の表情は固まった。

「村長、それはどういうことだい? 井戸掘りは何年も前に諦めたじゃないか。どうして今になってまた」

「後で皆に話そうと思っていたのだが、丁度良い皆を集めてくれないか。そのことで話がある」

「お、おう! 皆を集めれば良いんだな。今呼んでくるから待っててくれ」

 男性はそう言うと走って行った。


 暫くすると先程の男性に続いて広場に少しずつ人が集まって来た。

「とりあえず、今村に居るやつは集めて来たぜ」

「御苦労。皆少し聞いてくれるか」

 ブルノさんが話し始めると村の人達は静かに耳を傾けている。

「私は暫くの間王都に居たのだが、そこでこちらの方々を見つけてな」

 村の人達の注目が集まり、私達は頭を下げた。

「何でも屋というものをされているのだが、話によると非常に優秀な魔法使いらしいのだ。私はこちらの方々に井戸を掘ってもらおうと思っている。皆の意見を聞かせてくれないか」

 ブルノさんはその後村人たちの質問に答え、私達のことについても詳しく話した。

「ブルノさん、少しよろしいですか?」

「これはゴフル村長、何でしょうか」

「先程、井戸掘りの報酬が百五十ケリルと言いましたよね?」

「ええ」

「ご存知ないのも無理ありませんが、以前に村で貯めたお金は百五十ケリルもありません」

 ゴフルさんの言葉にブルノさんは驚愕の表情を浮かべる。

「そ、それは一体どういうことですか!?」

 ブルノさんが尋ねると村の人達は一斉に下を向いた。

「ブルノさんが村長の時、井戸掘りの話が持ち上がり、村でお金を貯めることになりましたが、結局掘ることが出来ずに井戸は諦めました。それから数年経って私が村長になりましたが、その時に村人から以前に貯めたお金を返してほしいと言われたのです」

「それで返したというのか!? あの時は確かに井戸を掘るのは諦めたが、貯めたお金はもし井戸を掘れることがあった時のために置いておくことに決まった筈だが……」

「ええ、確かにブルノさんが村長の時にはそう決まりました。ですが、私が村長になった後、それは変わったのです。ブルノさんは井戸をあれほど欲しがっておられましたから、話すのも忍びなく、結局お伝えすることが出来なかったのですが、村人と話し合い、あのお金は返すことに決まったのです」

「そ、それではあのお金はもうないというのか……」

 ブルノさんが絶望したように項垂れる。

「はい……誠に申し訳ありませんが、一ガナムも残っておりません」

「……そうか。無いのであれば仕方がないな」

「気を悪くしないでください。誰も井戸を掘れるとは思わなかったのです」

 ゴフルさんがそう言うとブルノさんは静かに首を横に振った。

「いや、皆の言いたいことも分かる。皆様、その……非常に言いにくいのですが、こういうことですので、こんなところまで来ていただいて誠に申し訳ございませんが、今回の依頼は無かったことにさせてください。勿論、二ケリルは支払わせていただきます」

 ブルノさんはそう言って頭を下げた。ゴフルさんも私達の方を見て申し訳なさそうにしている。

「いえ、仕方がありません。お気になさらないでください」

「本当に申し訳ございません。お詫びと言うわけではありませんが、本日はどうか泊まっていってください。可能な限りおもてなしさせていただきます」

「ありがとうございます。二人ともどうする?」

「私はどっちでもいいよ」

「今から帰るには少し遅いですね。ご厚意に甘えさせていただきましょう」

「それではブルノさん、よろしくお願いします」


 私達がブルノさんと共に家に入るとハンナさんが出迎えてくれた。

「こちらの方々に部屋を用意してくれんか」

「分かったわ。大したおもてなしもできませんがゆっくりしていってくださいね」

 ハンナさんは微笑むとパタパタと奥へ入っていった。

「夕食まではまだ少し時間がございますので、申し訳ございませんがそれまで時間を潰していただけますか? よろしければアンベルでもお淹れしますが」

「結衣、どうする?」

「私は少し村を見てまわりたいかな」

「結衣はこう言ってるけど、シルヴィはどうする?」

「私もクノム村がどんな所か興味があるので御供させていただきます」

「それでは私達は村を少し歩いてきます」

「おや、そうですか。よろしければ案内いたしますが、いかがでしょうか」

「いえ、のんびり歩いてみようと思いますので、ありがとうございます」

「そうですか。それでは夕食は二時間後ですので」

「分かりました。それでは失礼します」

 私達はブルノさんに頭を下げてから家を出た。

「何処へ行く?」

「とりあえず一周してみようよ。多分すぐだろうし」

 結衣の言う通りクノム村はそれほど広くなく、先程の広場から村全体を見渡すことが出来る。私達がのんびりと村を歩いていると、走って来た女の子がシルヴィにぶつかった。

「きゃっ! あっ、ご……ごめんなさい」

 尻もちをついてしまった女の子が目尻に涙を浮かべながらシルヴィに謝る。

「一体どこを見ているのです! あ……いえ、大丈夫ですよ。次からは気をつけてくださいね」

 ぶつかった瞬間きつく言いそうになったシルヴィは、涙を浮かべる女の子を見てすぐに言いなおした。

「ごめんなさい……」

 怒られると思っていたのだろう。女の子はホッとした様子でシルヴィに頭を下げた。

「あら、怪我をしてしまったみたいですね。少しじっとしていてください」

 シルヴィが女の子の擦りむいた腕に手をかざす。

『生命の源、水を司る精よ、我が手に癒しの力を与えよ!』

「おや。皆様、こんなところで散歩ですか?」

 シルヴィが女の子の手当てをしているとゴフルさんが歩いてきた。

「凄い……お姉ちゃんありがとう! あ、村長さん」

「ゴフルさん、ええ少し時間があったので散歩でもしようかと思いまして」

「そうでしたか。何も無い村ですがゆっくりとご覧になってください」

「ねえ村長さん」

 女の子が話しかけると、ゴフルさんはしゃがんでから微笑んだ。

「何ですか?」

「このお姉ちゃん達が井戸を掘ってくれるんだよね?」

 女の子の言葉にゴフルさんの表情が曇る。

「いえ、残念ですが――」

「ママがね、井戸があったら嬉しいって言ってたの」

 ゴフルさんが言葉に詰まった。私達も何と言って良いのか分からず口を開けないでいる。女の子は不思議そうにしている。

「……いや、あの皆様、本日はお帰りにならないのですよね」

 突然ゴフルさんが沈黙を破った。

「ええ、本日はブルノさんの家でお世話になります」

「井戸の件ですが、明日の朝まで待ってもらえませんか」

「ええ、勿論構いませんよ」

「ありがとうございます。それでは明日の朝、ブルノさんの家に伺わせていただきますので」

 ゴフルさんは一礼すると足早に去っていった。ゴフルさんの様子を不思議そうに見ていた女の子も私達に手を振ると、もときた道を再び走っていった。

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