第43話 到着
「おはようございます。お待たせして申し訳ございません」
翌朝、朝食を食べ終えた私達が一階で待っているとブルノさんが下りてきた。
「いえ、丁度今食べ終えたところです」
「そうでしたか。安心しました。それでは行きましょうか」
宿を後にして昨日と同じ馬車に乗り込む。
「出してください」
ブルノさんが御者に告げると馬車は動き出した。
「そう言えばブルノさん、お聞きしたいことがあるのですが」
「何でしょうか」
「クノム村と言うのはどのような所なのですか?」
「水に関しては不便ですがとても良いところですよ。そうですね……有名なのは鉱山でしょうか。村から少し行った所に鉄鉱石の鉱山があります。乾燥した土地ですから森は山か川へ行かなければありませんが、雨はときどき降りますので畑はあります。皆で協力して生活しているので良い人ばかりですよ」
「ただ水だけが問題というわけですね」
シルヴィがそう言うとブルノさんは頷いた。
出発してから二度目の宿駅を出た私達は馬車の中で昼食をとることにした。
「申し訳ございません。ゆっくりと昼食をとることが出来ればよかったのですが、遅くなってしまってはいけませんので……」
先の宿駅で買ったパンをブルノさんから受け取る。
「いえ、お気になさらないでください」
「あ、麗奈見て! 変わった鳥だよ」
結衣が指さす方を見ると赤と黄の縞模様の大きな鳥が飛んでいた。
「随分と派手な鳥だね……毒がありそうな気がするよ」
「あれはレロウという鳥です。見た目は良くありませんが、スープにするととても美味しいですよ。珍しい鳥なので滅多な事でもない限りは口にすることができません」
シルヴィはそう言って笑う。
「うーん……進んで食べたくはないかな~」
結衣が複雑な笑みを浮かべる。
「まあ、確かに美味しそうな見た目ではないよね」
その後も馬を代えて走り続け、日がすっかり沈んだ頃に私達は本日泊まる予定の宿駅に着いた。
「長い時間お疲れさまでした。本日は此処で休みましょう」
ブルノさんに続いて石造りの大きな建物へ入る。昨日の宿よりも清潔感があり、一階部分は酒場というより料理店といった雰囲気だ。ブルノさんから鍵を受け取った私達は先に部屋へ入ることにした。
「あっ! 見て、二人とも」
結衣は奥の扉を開くと顔を輝かせた。
「お風呂ですね」
「私も今日はお風呂に入りたかったからよかったよ」
「これで安心して夕食を食べられるね。安心したら急にお腹が空いてきたよ」
「私もお腹が空きました」
「ふふ、それじゃあお風呂の前に夕食にしようか」
私達が一階へ降りると机は全て埋まっていた。
「カウンターは空いているようですが……」
「カウンターでも良いんじゃない?」
「そうしようか」
私達はカウンター席の端に並んで座った。
「いらっしゃい。おや、あんた達みたいな可愛い子がこんなところに来るなんて珍しいねえ」
カウンターの中に居た女性は私達に気がつくと話しかけてきた。
「そうなのですか?」
「ああ、周りを見てみな。こんな田舎の宿場町に来るのなんか、むさくるしい男ばかりさ」
そう言って女性は笑う。私が周りを見ると確かに若い女性は一人もいなかった。
「むさくるしい男で悪いな。葡萄酒を頼む」
「冗談だよ。少し待ってな。それであんた達は何にするんだい?」
「シルヴィ、注文をお願い」
「分かりました」
シルヴィが注文して暫くすると、目の前が料理の皿で一杯になった。
「……随分と多いね」
結衣が山のように盛られた料理を見て目を丸くしている。
「私は嬢ちゃん達みたいな可愛い子が好きなんだよ。しっかり食べてくれよな」
カウンターの中に居た女性はそう言うと更にもう一皿を結衣の前に置いた。
「いえ、あの……私達こんなに……」
目の前の山脈が広がったことに結衣が困惑する。
「あっはっは、そうかい。そりゃあ悪かったねえ」
「あんまり苛めてやるなよ」
先程葡萄酒を頼んだ男性がそう言うと、女性は手に持った小皿に私達の料理を採ってそれを男性の前に置いた。
「それじゃあ、むさくるしいあんたにサービスだ」
「嬢ちゃん達ありがとよ」
「あ、いえ……その、どういたしまして」
男性に微笑まれたシルヴィは顔を赤くして俯いてしまった。
「あんたも苛めてんじゃないよ」
「ははは、そうだな」
夕食を食べ終えた私達は部屋に戻ってお風呂に入ることにした。
「えっと……この桶にお湯を入れれば良いのかな?」
結衣がお風呂の前に置かれていた桶を手に取る。
「ええ、少々お待ち下さい。桶を下に置いて頂けますか?」
「あ、うん」
『対極に在りし炎と水を司る精霊の力を顕わにし、我が魔力を熱き水へと変えよ』
熱湯が入れられた桶からは濛々と湯気が立ち込めている。
『水よ。凍てつけ』
熱湯の中へ入った氷はすぐに溶けて無くなった。
「お湯加減はいかがですか?」
結衣が恐る恐る桶の中へ手を入れる。
「うん。丁度良い感じだよ。それじゃあ入ってくるね」
結衣がお風呂へ入ると、中から鼻歌が聞こえてきた。
翌朝、偶然会ったブルノさんと朝食を共にし、私達は宿を出た。既に宿の前で待っていた馬車に乗り込む。
「後もう一度馬を代えて走ればクノム村に着きます。二日とも馬車続きでお疲れでしょうが後少し辛抱してください」
「そう言えば、随分と風景も変わったね」
宿場町を出ると家も殆ど無く、広大な草原が続いている。
「リフランは住み良い所ですが、私はやはり田舎の方が落ち着きます」
その後、馬を代えて二時間程走ると村が見えてきた。
「あれがクノム村です。皆様、長旅お疲れさまでした。着きましたら早速昼食にしましょう」
馬車は村に入って少し走ると一軒の大きな家の前で停まった。
「さあどうぞ。入ってください」
私達は馬車を降りると大きな机のある部屋に案内された。
「此処で少しお待ちください。すぐに昼食の準備をさせます」
そう言うとブルノさんは私達を残して部屋を出て行った。
「それにしてもこの家だけ随分と大きいですね」
シルヴィの言う通り周りを見渡しても明らかにこの家だけが浮いていた。
「ブルノさんって、もしかして偉い人なのかな? そうは見えなかったけど……」
私達が座って三十分程するとブルノさんが女性と共に入って来た。
「お待たせして申し訳ございません。こちらは私の孫娘です」
「ハンナと申します」
ブルノさんに紹介されて女性は頭を下げた。
「急いで用意させたので大した物はありませんが、どうぞ遠慮なく食べてください」
ハンナさんが机に大きな皿を置いた。上にはサンドウィッチの様なパンに様々な物を挟んだ料理が山のように載っている。
「私は少し用がございますので、失礼させていただきます。暫くしたら戻りますので、私の居ない間何か御用がございましたら、ハンナに言ってください」
ブルノさんはそう言うと再び部屋を出て行った。




