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剣と魔法と何でも屋  作者: リース
第二章 リフィレス王国編
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第42話 麗奈先生

 外へ出ると店の前の通りに人だかりが出来ていた。中心に馬車が止まっているのが見える。

「すみません」

 私達が人だかりをかき分けて中へ入ると女の子が倒れていた。横では御者と思われる男性がひどく動転した様子で慌てふためいている。

「うっ!」

 結衣が悲痛な声をあげて目をそらした。気を失っている女の子の足は無残に潰れ、そこから大量の血が流れ出ている。

「早く医者を! このままでは死んでしまいます!」

 シルヴィが叫んだ。

「今呼びに行っているが、この近くには医者が居ないんだ!」

 人だかりの中から私達を呼びに来た男性の声がする。

「くっ……どきなさい!」

 男性を突き飛ばしシルヴィが女の子へ駆け寄る。

『生命の源、水を司る精よ、我が手に癒しの力を与えよ!』

 女の子の足へかざしたシルヴィの手が光る。

「……やはり駄目ですか」

 勢いは少し収まったが血が止まる様子はない。

「どいてくれ、どけ! どかないか!」

 人だかりを突き崩すようにして身なりの整った緑色の髪の男性が入って来た。女の子を見た瞬間、信じられないといった表情で地面に手をつき、そしてすぐ立ち上がるとシルヴィに突き飛ばされ倒れていた男性に掴みかかる。

「お前か! 私の娘を! どうしてくれるんだ! 娘を……」

 女の子の父親は男性にひとしきり怒鳴ると、脱力したように項垂れた。

「リニアス、何とかならないの!?」

「やってみないと分かりませんが、再生と甦生の魔法を使えば何とかなるかもしれません」

「やってみるよ。どうやって使うの」

「両手を治す箇所に当ててください」

「シルヴィ、代わってくれるかな」

 シルヴィと交代し、両手を女の子の足に当てる。

「後は詠唱するだけです。膨大な魔力を使うので気をつけてください」

「分かった」

「火、風、水、土、異なる四精霊を総べし光の精よ、我が求めに応えよ」

『火、風、水、土、異なる四精霊を総べし光の精よ、我が求めに応えよ』

「きゃっ」

 詠唱の途中で指輪がこれまでにない強烈な光を放つ。

「我が魔力を生と変え、我が手を生の器とし、触れしものに生を与えよ」

『我が魔力を生と変え、我が手を生の器とし、触れしものに生を与えよ』

「薄く儚き生を再び活かし廻生させよ!」

『薄く儚き生を再び活かし廻生させよ!』

 指輪が閃き、私の手から温かくも凄烈な光が放たれる。

「お、おお!」

「これは……」

 光が収まると辺りがざわめいた。私を急激に疲労感が襲う。両手を離し女の子の足を見ると、何事も無かったかのように治っていた。

「凄い……」

 シルヴィが驚愕の表情を浮かべたまま声を失っている。

「うん……あれ……きゃっ!?」

 女の子が意識を取り戻し、ゆっくりと起き上がった。地面に流れる大量の血を見て悲鳴を上げる。辺りは一瞬静かになり、そしてすぐに喧騒に包まれた。

「成功ですね」

「上手くいってよかったよ」

 父親は起き上がったばかりの女の子に抱きついた。目には涙が浮かんでいる。二人の様子を見て御者の男性は安堵したようにその場にへたり込んだ。

「お父さん、私馬車に轢かれて……」

「ああ……良かった……本当に良かった……」

 男性は娘を離すと私に深く頭を下げた。

「本当にありがとうございました」

「いえ、無事で何よりです」


 それから暫くして、お風呂に入った私達が夕食を食べ終え、リビングでゆっくりしていると、メルナ達が帰って来た。

「ただいま帰りました」

「おかえり。あ、そうだ。二人に言っておかないと」

「何でしょうか?」

「うん。実は私達、明日から依頼でクノム村へ行くの」

「クノム村……ですか?」

 二人揃って首を傾げている。

「此処から馬車で三日位かかるらしいよ」

 結衣の言葉に二人は目を丸くした。

「三日ですか……」

「私達が居ない間、家のことよろしくね」

「畏まりました」

「さて、それじゃあ私はそろそろ寝ようかな」

 二人が出て行った後、私も席を立つ。

「あれ、もう寝るの? 麗奈」

「うん、魔力を相当使ったみたいで少ししんどいから」

「あ、そうなんだ。分かった、ゆっくり休んでね」

「お休みなさいませ」

「うん、お休み」

 私は部屋へ戻るとすぐにベッドへ入った。


 翌朝、いつものように二人を見送った後、私達は普段よりゆっくりと朝食を食べていた。

「麗奈様、お時間はよろしいのですか?」

 開店の時間になっても朝食を食べている私達にヴァルドが尋ねる。

「あ、うん。お昼から行かないといけないから、今日はお休みにしたよ」

「そうでしたか。それは失礼いたしました」

 ヴァルドは一礼をして部屋を出て行った。

「そう言えばクノム村は乾燥しているんだよね」

「ええ、本にはそう書いてありました」

「水筒とかあった方が良いのかな?」

「いえ、その必要はないと思います」

『水よ』

 シルヴィは空いたグラスに水を入れるとそれを飲んでみせた。

「あはは……魔法って便利だね」

 結衣が渇いた笑みを浮かべる。


「それじゃあ準備も出来たしそろそろ行こうか」

 着替えの詰め込まれたリュックを背負う。

「行ってらっしゃいませ」

「ヴァルド、ミスト、留守の間よろしくね」

「畏まりました。お気をつけて」

 二人に見送られて家を出た私達は、ブルノさんとの待ち合わせ場所に向かう。東へ三十分程歩くと私が井戸換えをした家の前に馬車が停まっていた。

「おお、皆様お揃いで。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 私達が乗り込むと馬車はゆっくりと動き出した。

「乗り心地が悪いとは思いますがご容赦ください」

 そう言ってブルノさんが頭を下げる。確かに馬車はガタガタと大きく揺れ、決して乗り心地が良いとはいえない。フェレウス城の馬車が凄いものだと改めて実感した。

「最初の宿駅までどれくらいですか?」

「二時間程ですね。何分長旅ですから途中で休みたい場合は遠慮なく仰ってください。馬車を停めさせます」

「はい。ありがとうございます」


 二時間程経ち辺りから人が少なくなってきた頃、馬車は停まった。馬を代えている間、私達は一度馬車を降りて伸びをする。

「疲れたね~」

「ええ、荷馬車よりは幾分かましですがそれでもやはり疲れます。寝てしまった方が楽ですね。眠れるかどうかは別ですが……」

「相手を眠らせる魔法もありますよ」

 突然リニアスの声がした。

「あはは……考えておくよ」


 それからもう一度宿駅で馬を代え、宿場街に着いたのは辺りが暗くなってからだった。

 馬車が停まったのは小さな宿場町で、私達の他にもいくつか馬車が停まっていた。

「お疲れさまでした。本日は此処で休みましょう」

 私達が入ったのは一階部分が酒場になっている宿だった。テーブルからは賑やかな声が聞こえてくる。

「丁度二部屋空いていました」

 カウンターから戻って来たブルノさんから鍵を受け取る。

「ありがとうございます」

「夕食はここで適当に食べてください。私も後で食べます。それでは、明日の朝は九時に出発の予定ですのでよろしくお願いします」

 ブルノさんはそう言うと二階へ上がっていった。

「私達はどうする? 先に食べる?」

「私はお腹がすいたかな」

「結衣様もこう言ってますから先に食べましょう」

 私達は適当な席に座る。

「うーん……麗奈、何が良いと思う?」

 結衣が書かれている料理の名前を見て唸っている。

「シルヴィ、注文お願いして良いかな」

「分かりました。適当に頼みますね」

 シルヴィが注文して暫くすると料理が運ばれて来た。結衣が一口食べて首を傾げる。

「結衣様、どうかされましたか? 何か変な味でも……」

「ううん、そんなことはないよ。普通に美味しいけど」

「どうしたの?」

「いや~、今まで食べてた料理って美味しかったんだな~と改めて思って」

 結衣はそう言って笑いながら二口目を口に運ぶ。

「これでもかなり美味しい方ですよ。以前ならとても美味しいと言っていました。私も最近はお二人と居るおかげでそうは言えませんが……」

 シルヴィは苦笑しながら葡萄酒に口をつけた。

「そう言えばシルヴィは葡萄酒が好きなの?」

 結衣が口を動かしながら尋ねる。

「ええ、母が葡萄酒を作っていたので、物心ついたときから飲んでいました。好きとは違うのかもしれませんが、食事のときは葡萄酒が欲しくなります」

「物心ついたときから!?」

 結衣が口に運ぼうとしていたフォークを止めた。

「私達の世界では考えられないね」

「うん。こっちの人はあまり酔わないのかな」

 結衣は再び口を動かし始めた。


 食事を終えた私達は部屋へ入った。中はベッドが三つ置かれているだけで他には何もない。

「あーっ!?」

 結衣が少し考えるそぶりを見せた後、突然大きな声を出した。

「どうしたの?」

「大変な事に気付いたよ」

「何でしょうか?」

「お風呂が無い!」

 シルヴィがキョトンとしている。

「お風呂は普通は無いんだよね」

「そうですね。湯を浴びる位で済ませるのが一般的です」

 シルヴィがそう言うと結衣が首を横に振った。

「そうじゃなくて、お湯を浴びる場所も無いんだよ」

「本当ですか!?」

「そう言えば扉も無いね」

「どうしよう」

「外で浴びるしかないのでしょうか……」

 シルヴィの言葉に私達は互いに視線を交わすと、同時に首を横に振った。

「このまま寝るのは嫌だよね」

「仕方がありません。浄化の魔法を使いましょう。結衣様、こちらへ来ていただけますか」

『清浄なる水の精よ、我が魔力を以て浄化せよ』

 シルヴィの指先から出た光の雫が結衣の頭に落ちた。

「あはは……綺麗にはなったんだろうけど……」

 結衣が複雑な表情を浮かべている。

「……とりあえず寝ようか」

 私とシルヴィも浄化の魔法を使い、それからベッドへ入った。

「……それじゃあお休み」

 結衣の不満そうな声で私達は目を閉じた。

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