第3話 何でも屋開業準備1
「何でも屋?」
「そう、何でも屋」
「そうか、何でも屋か」
「そうそう何でも屋」
「で、何でも屋って何?」
私は思わずソファからずり落ちてしまった。
「えーっと、何でも屋というのはお客さんの依頼を受けて、その依頼をこなす仕事だよ」
「どんな依頼でもいいの?」
「さすがに犯罪はだめだけど、そういったもの以外なら、さっき結衣が言った宅配でもいいし、迷子の猫を探したりなんかもするよ」
「うん、それいいかも。麗奈に出来ないことなんてないし、色々なことが出来て楽しそう。良いんじゃないかな」
「でしょう?」
「それじゃあ次は職場だね。どうするの?」
「それなんだけど、折角だし綺麗なオフィスがいいな~」
早くも頭の中には黒革の椅子に腰をかける私と、コーヒーを入れてくれる秘書の姿が浮かんでいる。その秘書はもちろん結衣。
「オフィス!? いきなり凄いね……」
「えへへ、やるからには本格的にいかないとね」
「さすがは麗奈というかなんというか……えっと、どこにオフィスを借りるつもりなの?」
「どこがいいかな? いや、作ればいいか。うん、作っちゃおう」
私はウンウンと頷く。それを聞いた結衣は愕然としている。
「オフィスを作る……の!?」
「うん、そうだよ」
「もしかしてビルでも建てるつもり?」
「いや~、さすがにそれはないよ。ほら、まだ庭は少し余裕あるから、そこにオフィスを作ればいいかなって」
私の家は特別広いというわけではないけど、庭にはまだ少し余裕がある。今は誰も使っていない和室を広げれば、オフィス一つくらいは何とか作れると思う。
「あ~、それなら確かに出来そうかも」
「そうと決まれば早速行動しよう」
「えーと、そうするとまずはリフォームだよね。どこに依頼するか決めないと」
「それじゃあ結衣はリフォームを依頼する業者さんを調べてくれる? 私は必要な物とかリストアップしていくから」
「分かった。パソコン借りるね」
事務用品から椅子や机といった家具まで、何でも屋に必要になりそうなものをメモへと書いていく。
「結衣、どう? 見つかった?」
「何軒か見つかったからメモしておいたよ」
「ありがとう。私の方も思いつくものは一通り書いたよ」
「それにしても、どこがいいのかな?」
「ホームページ見せてくれる?」
結衣がリストアップしたお店のホームページを順番に見ていく。
「あ、ここにしよう」
「ん、木観工務店? どうしてここに決めたの?」
「ほら、この社長のおじさんの顔が優しそうだから」
「え、そんなので決めていいの?」
「いいのいいの、ここにしよう」
「麗奈がそう言うなら私は構わないけど」
「それじゃあ早速依頼しに行こう」
「地図を印刷するから少し待って」
家を出て十分程歩くと看板が見えてきた。町の工務店といった雰囲気のお店で、それほど大きくはない。
「ここだね」
「お店の雰囲気も悪くないし、正解だったね。早速入ろう」
「いらっしゃいませ」
私達がお店に入ると女の子が応対してくれた。
「あれ!? 陽香ちゃん?」
「あっ、涼海さん」
「ん、麗奈の知り合い?」
「うん、同じクラスで隣の席だよ。木観……同じ名前だとは思っていたけど、まさか陽香ちゃんの家だったとは」
「ほぇ~、すごい偶然だね」
「おや、娘の御友人ですか?」
驚いていると奥からホームページで見た優しそうな男性が出てきた。陽香ちゃんのお父さんだったとは……そういえば、どことなく似ている気もする。
「はい。同じクラスの涼海麗奈です。いつも陽香ちゃんには仲よくしてもらっています」
「私は隣のクラスの水瀬結衣です」
「ははは、もっと気を楽にしてください。それで、本日は遊びに来られたのですか?」
「いえ、リフォームをお願いしたいと思いまして」
「えっ! 涼海さんリフォームするの?」
「うん、オフィスを作ろうと思って」
「お客様でしたか。これは失礼いたしました。奥へどうぞ、お話はそちらで。陽香、お茶を」
私達は奥の応接室へ案内された。ソファへ腰かけると陽香ちゃんがお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう」
「まさか、涼海さんがリフォームに来るなんて思ってもいなかったよ」
「私も陽香ちゃんの所だったなんてびっくりしたよ」
「こら陽香、お友達とはいえお客様なんだから出ていなさい」
「はーい……。それじゃあ涼海さんまたね」
陽香ちゃんはお父さんに怒られて部屋を出て行った。
「失礼いたしました。さて、リフォームの件ですが、先程お聞きしましたようにオフィスですか?」
「はい、一階の和室から庭へと十五畳程の大きさで」
家の簡単な見取り図を描いて説明する。
「なるほど、大体わかりました。後は下見をしてから細かい所をお聞きいたします。ご都合がよろしければ今からでも下見に行きたいのですが」
「はい、問題ありません。よろしくお願いします」
お店を出た私達はおじさんの車に乗せてもらい、私の家へと移動した。
「それでは、少し見せていただきます」
そう言っておじさんは柱の位置や庭の広さ、和室の場所などを確認していく。三十分程でそれは終わった。
「いかがでしょうか?」
「ええ、問題なさそうです。料金など細かいことに関してはこれから戻って出しますので、そうですね……三日後に店の方へ来ていただけますか?」
「分かりました。よろしくお願いします」
「では、本日はこれで失礼いたします」
おじさんはそう言うと車に乗って帰って行った。
三日後、いつも通り放課後に廊下で結衣と待ち合わせをして、そのまま家に帰らず木観工務店へと向かう。
「今日見積もりが出るんだよね。いくら位かな?」
「一五〇〇万位だと思うけど、どうだろう」
「それにしても楽しみだよね。麗奈がお店か~、きっと大繁盛だね」
「そうだといいけど……そういえば結衣に言わないといけないことがあるの」
「ん、なに?」
「えっと、お店なんだけど、その、良かったら結衣も手伝ってくれないかな……」
「いいよ?」
「え? いいの? 遊ぶ時間とか無くなっちゃうと思うけど」
想像以上にすんなりと了承してくれたから少し戸惑う。
「私と一緒にしたいんじゃないの?」
「それはそうなんだけど、もう少し悩むと思っていたから」
「麗奈と一緒に居られるんでしょう? 断る理由がないよ。それに実は、私からお願いしようと思っていたの」
「あ、そうだったんだ。あはは、まさか同じことを思っていたなんて」
「それにしても安心したよ。もしお願いして、断られたらどうしようと思っていたから」
「私が結衣のお願いを断るわけないでしょ?」
「えへへ、ありがとう」
そうして結衣と話しながら歩いていると木観工務店へと着いた。前回と同じ応接室へと案内される。
「少々お待ち下さい」
そう言って部屋を出たおじさんは、暫くすると、お茶を持って戻ってきた。今日は陽香ちゃんが居ないのかな。
「では早速ですが、リフォームに関してはこのようになりました」
おじさんが数枚の書類を渡してくれる。
「施工期間は二週間で、費用の方は一一〇〇万円になります。いかがでしょうか?」
「はい、問題ありません」
「それではこちらの書類に記入と印鑑をお願いします」
私はおじさんの差し出した書類に必要事項を記入して捺印した。
「ありがとうございます。それでは早速明日から工事を始めさせていただきます。暫くの間、騒がしいと思いますが、よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします」
そう言って私達は店を出た。




