第2話 仕事をしたい
『NOW TRANSFER』
「あれ……麗奈? どこ行ったの!?」
結衣は何が起こったのか把握できず混乱している。私は元居た場所から十メートル程離れた場所へ移動した。
「結衣~、こっちだよー」
私は手を振りながら結衣へ声をかける。
「え? 麗奈? 今ここに……あれ? ……っう~ん」
結衣は私が元居た場所と私の方を交互に見た後、倒れた。
「結衣っ!」
私は結衣が倒れたのを見て急いで駆け寄った。結衣は混乱しすぎて目を回している。ごめんね。
声をかけても反応しない。私の部屋へ結衣を運び、ベッドへと寝かせた。
「~っ、あれ? 麗奈の部屋? どうして?」
十分程して気がついた結衣は、状況が飲み込めずにキョロキョロしている。
「気付いた? ごめんね、いきなり驚かせてしまって」
「そういえば……麗奈さっき消えたよね? あれは一体どういうことなの? 何があったの?」
「順番に説明するから、落ち着いて聞いてね」
「うん、分かった」
結衣はそう言ってベッドの上で体を起こす。
私は自分の父親が神であること、高校生になって神能をもらったこと、そして神能がどういったものであるかを結衣に説明した。
「嘘、じゃないんだよね?」
「うん、全部本当の事だよ」
「そっか……麗奈は神様になっちゃったんだね……」
「いや、私が神様になったわけじゃないよ? お父さんは神様だけど、神能をもらっただけで、私は私だよ」
「そっか~、それじゃあいつもの麗奈なんだね?」
「うん、そういうこと」
「それにしても神能かぁ~。夢みたいな話だよね」
「でもそれが夢じゃないんだよね……そうだ、実際に一度体感して見ればいいんじゃないかな」
「私が、ってこと?」
「うん、今から学校へ飛んでみよう」
今から普通に学校へ行っても間に合わない。試してみるにはちょうどいいと思う。
「学校へ? 誰かに見られたりしないかな?」
「今の時間なら、皆教室に居るだろうし、見つかりにくい場所なら大丈夫だよ」
「えっと……それなら私はどうすればいいの?」
「普通に学校へ行く準備をしてくれるだけでいいよ。靴もはいてね」
靴を履き、荷物も持った結衣は不安そうに私の手を握る。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だって。それじゃあ行くね?」
『NOW TRANSFER』
私達は学校の裏庭へ出た。予想していた通り人の姿はない。
「信じられない……」
「ね、本当でしょう?」
「うん……何と言葉にしていいかわからないけど、凄いね……」
「私も最初は夢じゃないかと思ったよ」
キーンコーンカーンコーン
「あ、麗奈予鈴だよ!」
「急がないと」
教室へ大急ぎで走る。学校が広いだけあって裏庭からでもかなりの距離がある。私達は本鈴の鳴る少し前に教室へ入った。
「おはよう、寝坊でもしたの? 随分と走ってきたみたいだけど」
「あはは。うーん、そんなところかな」
「あの先生遅刻には厳しそうだもんね~」
「そういえば昨日も遅刻した子が怒られてたよね」
「そうそう、数分遅れただけだったのに可愛そう。まあ、遅れたから仕方ないんだけど」
「起立!」
陽香ちゃんと話していると先生が入ってきた。初日の時点でこの先生が厳しいことは皆が分かっているのか、先生が教壇へ上がるとそれまで騒がしかった教室が一気に静かになった。
放課後、いつも通り結衣と廊下で待ち合わせる。今日はクラブ見学へは行かないらしい。
「お待たせ。帰ろっか」
「うん」
適当に雑談しながら歩いていると私の家の前まで来た。
「そういえば結衣」
「ん、どうしたの?」
「今日、時間ある?」
「うん、特に予定はないよ」
「それなら、帰ったら私の家に来てくれないかな? ちょっと話したいことがあって」
「分かった、着替えたら行くね」
「それじゃあ、またあとでね」
ピンポーン
部屋で着替えて暫くするとチャイムが鳴った。
「来たよ~」
「いらっしゃい、部屋で待ってて」
私は一階で飲み物とお菓子を用意して部屋へ戻った。結衣はソファに腰掛けて足をブラブラしている。
「結衣は午前の紅茶でいいよね?」
「ありがとう。やっぱりこれだよね~」
結衣は子供のころから午前の紅茶が大好きで、本人曰く喫茶店で飲む紅茶よりも美味しいらしい。
「ふふふ、相変わらずだね」
「美味しいから良いの……そういえば話があるんだよね?」
「そう。それなんだけどね、何か仕事をしようと思って」
「仕事?」
「うん。これまでは株でお金を稼いでいたんだけど、なんだか飽きちゃってね」
「どんな仕事がしたいとか、ある程度は考えてあるの?」
「それが、これまで株以外には仕事という仕事をしたことがなくて、まだ何も思いついていないの」
「アルバイトとかではないんだよね?」
「それも考えたんだけど、やっぱり何か自分でしてみたいな~、と思って」
「何か始める……うーん難しいな~」
「とりあえず、何を始めるにしてもお金は必要だと思うから、それに関しては株で貯めたお金を使うつもり」
「ちなみに、いくら位あるの?」
「うーん、六千万位かな」
「え、六千万!?」
結衣はキョトンとしている。
「うん、それくらいあるよ」
「ほぇ~、私なんか百万も持ったことないよ」
「昔貯めたお年玉で始めたんだけど、かなり順調にいってね~」
「さすがは麗奈だね……でも、それなら特に仕事をする必要無いと思うけど」
「さっきも言ったけど飽きちゃって」
「あはは……うん、やっぱり麗奈は変わってるよね。まあ、私は麗奈のそういうところが好きなんだけど」
「ありがとう。私も結衣の事が大好きだよ」
「えへへ、なんだか照れちゃうな~」
「結衣の全てが愛おしくて、もうなんて言ったらいいか……」
「麗奈ストップ! 外はまだ明るいよ? それに今は何をするか考えるんでしょう?」
「むう、冗談だってば」
「目は真剣だったけどね」
「あはははは……」
やっぱり結衣の可愛さは反則だと思う。今も頬を少し赤らめて非常に可愛い。
「それにしても、何か仕事か~……そういえば麗奈には神能があるんだし、それを使って宅配なんてどうかな?」
「宅配か~、確かに神能を使えば簡単にできそうだけど、ありきたりな気がする。それに仕事も単純で面白くなさそう」
「そう言われても……麗奈なら何でもできるとは思うんだけど、具体的に何をするかと言われると難しいな~」
ん? ……何でも?
「あ、それだ」
「え?」
「何でも出来るんだよ」
「うん、麗奈なら出来ると思うよ」
「それなら何でもすればいいと思う」
「何でもするって、そんな仕事あるかな?」
「それがあるんだよ」
どうしてこんなに良い仕事を思いつかなかったのだろう。
「うーん……そんなに都合のいい仕事なんてあるのかな~?」
何でも出来る私にぴったりな仕事。無くし物探しから、それこそ宅配まで文字通り何でもする仕事が……。
「何でも屋……何でも屋を始める!」




