第35話 午前中
「必要な物はこれくらいかな?」
結衣が出来上がったリストを確認している。
「うん、全員が必要になりそうなのはベッドくらいだったね。後はお店に行ってから、必要な物を選んでもらえば良いんじゃないかな」
「そうだね。そうしよう」
「さて、そろそろ行く時間だよね。行こうか。皆待ってるかもしれないし」
私達がエントランスに降りると既に皆は待っていた。
「ごめん、待たせちゃって。ヴァルド、メイド達の部屋に置く家具を見たいのだけど、何処かお店はあるかな?」
「ええ、少し距離はございますが此処から三十分程歩いたところに大きな店が一軒ございます」
「三十分か、歩けない距離じゃないね。それじゃあ行こうか」
「行ってらっしゃいませ」
私達が家を出ようとすると、メルナとカレルがそう言って頭を下げた。
「あれ、二人は行かないの?」
「はい、私達の部屋には必要な物が既にございますので」
「いいの? 何か見つるかもしれないよ」
「いえ、私達はその間に仕事を済ませておきます」
「そう? それなら悪いけど留守番お願いね」
「畏まりました」
家を出た私達がヴァルドに続いて三十分程歩くと、周りと比べて倍以上はある大きな店に着いた。
「大きいね」
「この辺りでは最も大きな店になります」
「皆の気に入る物があれば良いけど……。とりあえず入ろうか。シルヴィが戻ってくる前に帰らないといけないし」
「いらっしゃいませ――これは大勢で、ようこそお越しくださいました」
私達が中に入ると奥から男性が出てきた。
「少し見せてください」
「はい、どうぞごゆっくり」
「ありがとうございます。さて、とりあえず必要な物はベッドかな。後はそれぞれが部屋に必要なものを買ってね。私達は適当に見た後奥に居るから、決まったら言ってね」
「畏まりました」
「結衣は何か欲しいものあるの?」
メイド達が家具を見に行った後、私達も店内をぶらぶらと見て回る。
「私は特にないかな。エルが全部用意してくれていたから。麗奈は?」
「私も無いよ。そうだ、ヴァルドは何かないの? 執事室に足りないものとか」
私達について歩いているヴァルドに尋ねる。
「一つございます」
「えっ、それは何?」
てっきりヴァルドのことだから、なにも無いと言うのかと思っていたけど。
「書架にございます。私は読書を少し嗜んでおりまして、今の部屋にございます書架では、書物が近いうちに収まりきらなくなりそうなのです」
「ヴァルドも読書が好きなんだ。カレルも本が好きなんだよ」
「そうでございましたか。それでしたらカレルよりお借りすることもありそうです」
「そうすると良いよ。ヴァルドもカレルに貸してあげてね」
「勿論にございます」
「それにしても麗奈、私達の家って本好きの人が多いよね。カレルもそうだし、シルヴィも本を持ってくると言ってたよね」
「私達も嫌いじゃないしね。まあ、本を読むのは良いことだと思うし、問題はないけどね。さて、それじゃあ本棚だね。あそこに有るのがそうじゃないかな」
店の角に本棚らしきものが並んでいた。
「気に入るのは有る?」
「ええ、そちらが」
ヴァルドは並んでいる中でも一番大きな本棚を指した。
「沢山入りそうだね」
「はい、麗奈様がよろしければ、そちらを買っていただければ幸いでございます」
「もちろん良いよ。メイド達の分と一緒で良いよね」
それから店内を一通り見て回った後、私達が店の奥で待っているとメイド達が順に戻って来た。
「お待たせして申し訳ございません」
「ううん、これで全員だね。すみません」
「はい、お決まりですか」
先程の男性が出てきた。
「えっと、彼女達が言う商品買いたいのですが、ついて回ってもらえますか」
「畏まりました」
「それじゃあ皆お店の人に買う物を言ってくれるかな」
メイド達がそれぞれ買う物を男性に伝えていく。途中、男性の顔は驚きの表情を浮かべ、最後には怪訝な表情を浮かべていた。
「これで以上だね。あ、すみません。向こうの一番大きな本棚もお願いします」
「は、はあ、本棚ですね。お客様、失礼ですがお代は有るのでしょうな」
「え、えっと……すみません。おいくらでしょうか」
男性に言われて私は不安になる。
「少々お待ち下さい」
男性は店の奥へ入っていくと、陶器屋で見た多くの球がついた道具を持ってきた。男性は暫く珠を動かすとそれを私達に見せる。
「ヴァルド、いくらなの?」
「三十六ケリル二十ベレカにございます」
ヴァルドの言った金額を聞いて内心ホッとする。
「それでしたら大丈夫です」
私は袋から金貨三十六枚と銀貨二十枚を手渡す。
「あ、ありがとうございます!」
男性は慎重に何度もお金を数えると、鍵の付いた箱へ入れた。
「あの、お願いがあるのですが」
「何でございましょうか!」
「今買った物を運んでいただくことは出来ますか?」
「も、勿論でございます! どちらまでお運びしましょうか」
「ラクス……で分かりますか?」
「ラクス……ですか? 申し訳ございません。存じ上げておりません」
「えっと……此処から三十分程歩いたところにある、最近出来た家なんですけど」
結衣が家の方向を指さして言う。
「もしかして、あの巨大な屋敷ですか!?」
男性は少し考えると、思い出したように尋ねた。
「あ、はい。多分そうだと思います」
「貴女方があの屋敷の持ち主でしたか! 畏まりました。いつ頃お届けすればよろしいですか」
「あの、無理を言って申し訳ありませんが、可能であれば今日届けていただけませんか」
「今日、ですか!?」
「いえ、無理であれば明日以降でも構いません」
「と、とんでもございません。本日お届けにあがります」
「本当ですか、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「おい! すぐに馬車を二十台用意してくれ!」
「二十台!? 何を馬鹿なこと言ってるんだい!」
私達が店を出ようとすると中から声が聞こえてきた。私と結衣は苦笑しながら店を出た。
「おかえりなさいませ」
私達が家に帰ってリビングへ入るとメルナとカレルの二人が掃除をしていた。
「ただいま。はい、二人にお土産だよ」
帰りの道中で買った首飾りを二人に渡す。
「綺麗……あ、ありがとうございます」
「うん、気に入ってくれたみたいで良かった。そうだ、何か飲み物を入れてくれるかな」
私と結衣は席に座る。
「畏まりました。少々お待ち下さい」
「急がなくて良いよ。そう言えばシルヴィは着いたのかな?」
カレルがリビングを出て行った。
「そろそろじゃないかな。丁度三時間くらいたったと思うよ」
「あ、そうだ」
私は机にある呼び鈴を鳴らす。
「お呼びでしょうか」
扉から一人のメイドが入って来た。
「うん、ヴァルドは居るかな」
「少々お待ち下さい」
メイドは頭を下げるとリビングを出て行った。
「お待たせしました」
「ありがとう、アンベルだね。いつものとは少し違うみたいだけど」
いつも飲んでいるアンベルとは色が少し異なっている。
「はい、果実を潰した物を加えてあります」
カレルがそう言って微笑む。
「麗奈、これおいしいよ」
結衣に言われて私も口をつける。
「うん、果物の風味が出てて美味しいね。結衣はこっちの方が好きなんじゃない?」
「そうだね。麗奈は?」
「私はいつもの方が良いかな。これも美味しいけどね」
「では次回からは二つ淹れさせていただきますね」
「ありがとう」
「それでは失礼いたします」
「お待たせいたしました。麗奈様お呼びございますか」
カレルと入れ替わりにヴァルドが入って来た。
「ああ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何でございましょう」
「うん、時間のことなんだけどね、ちなみにヴァルド、今は何時なのかな」
「今はおよそ十時にございます」
「それはどうやって分かるの?」
「なるほど、そういうことでございましたか。時間は庭にございます時円にて知る事が出来ます」
「時円? そんなのがあるんだ」
結衣が感心した様子で聞いている。
「行ってみようか。今、見ることは出来るの?」
「ええ、ご案内いたします」
私達はヴァルドに続いて庭へ出た。
「こちらにございます」
「これが時円なんだ」
ヴァルドが指す先には円形に石が埋め込まれ、その中心に棒の様なものが刺さっている。
「時計みたいだね」
「この陰で時間が分かるんだね」
「その通りでございます」
「ん、でもそれだと夜はどうするんだろう?」
結衣が尋ねる。
「夜は月明かりの陰で観ることが出来ます」
そういえば私達の世界に比べて月が随分と明るい。
「それなら雨の日はどうやって観るの?」
「残念ながら雨の日は観ることができません」
「あ、そうなんだ」
「少し不便だね」
「なるほど、ありがとうヴァルド」
「いえ、何かございましたらいつでもお呼びください」
ヴァルドはそう言うと家の中へ戻って行った。
「それにしても雨の日に時間が分からないのは不便だよね」
リビングに戻った私達はソファに座って、先程淹れてもらったアンベルを飲んでいる。
「その分、時間には大らかなんだろうね」
「そういえばこっちの世界は何処となくのんびりとしているね」
結衣はそう言って欠伸をする。
「ふふ、少し寝たら? シルヴィが戻ってくるまで、まだ時間はあるし」
私はそう言いながら結衣の頭を膝に乗せる。
「あっ……うん、そうさせてもらおうかな」
「お休み、結衣」
「お呼びでしょうか」
私は結衣が良く寝たのを確認してから呼び鈴を鳴らした。
「うん、何か掛けるものをお願い」
「畏まりました」




